表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/18

おまけ 黒梓-その3-

おまたせしました。これで完結です。

勿論、本編には何の影響もない、おまけです。

それでは、ご愛読有難う御座いました。

 にひひ、ファーストキスゲットだぜ。ん? あれ? 私がファーストキスだから、これはゲットじゃなくてプットか?

しかし、ここは次なるステージへと駒を勧めるべきだよね。なんて事を考えなら馬を歩かせてたら、変なおっさん達に囲まれてしまった。

何これ? ムサいおっさんは要らないのだよ。


「結構な馬車だな。命が惜しかったら、身包み剥いで置いていけ。女は、こっちで剥いでやるがな。ガッハッハ」

「はぁ~。あんまり殺したくないんだけどな。雷電」


 こう言う盗賊風味なおっさん達は、マジ死ねばいいのにって思う。

人は楽をしようとする生き物だ。だから、色々と楽をする為に発展するんだけど、如何に楽して生きようって行き着く先が強奪って、方向間違い過ぎだよね?

だから私の中で貴方達は、もうゴブリン以下の塵芥にしか見えません。


 全く、ちょっと良い気分で居たのに台無しにしてくれてプンプンっと思っていたら海が見えてきた。


「海だぁ~っ!」


 うは、海がエメラルド色だよ? 沖縄か? バリか? プーケットか?

両親と一緒に行った海外旅行を思い出して、ちょっとウルッとしまったのを誤魔化す様に、大声を張り上げてしまった。


「綺麗だねぇ~。南国の海みたいだよ」

「いや、南国だけどな」


「ねね、ちょっと近くに行ってみていいかな?」

「良いんじゃね?」


 私は、ちょっと顔を出したホームシックを打ち消す様に馬を走らせる。

本当、自然だけは美し過ぎるぐらい美しいよね。公害が無いからって事なのかな?

シノは、普通に何時も見ているから、感動なんて無いんだろうな。


 ん? なんか風船みたいなのが有る。そんな筈無いよね?

何だろうと思って啄いてみたら、蛸~って大き過ぎるっ! テンタクルズかオクトパスかって!


「きゃぁ~っ!」


 ちょちょっ、ヌルヌルと身体を弄るなぁっ! 集中出来ないから、魔法が弱弱だぁ。

何か触手物みたいで、やだぁ~っキモいっキモ過ぎるぅ~。見てないで、皆助けてよ~。


「いやぁ~っ、何このスケベ蛸! 放しなさい! 酢蛸にして食べちゃうわよ!」


 って言ってたら、シノが助けてくれた。

やっぱりシノは、頼りになるよ。これってお姫様抱っこ? とか思ってたら墨掛けられた。


「あぁ~、何これぇ~。もう最低~っ」

「しかし、何でこんな所に蛸が?」


「え? なんか変なのが浮いてたから、ちょっと突いたら蛸だった」

「どこかでお風呂に入れる様に致しますね」


 全く………。海の水で洗っても、折角ミラに譲ってもらったスベスベパンティーまでが、真っ黒になっちゃって最低。


「お願いぃ~。パンツ真っ黒になって取れないぃ~」


 あれ? でもこの世界、黒の下着って見ないな。これは、これで良いかも。


 この世界って、蛸食べる習慣無いんだ。やっぱりアングロサクソン系なのかな? タコ焼き食べたいなぁ………。


「おぉおぉおぉお、船だぁ~、港だぁ~、街だぁ~」


 船はやっぱり帆船なんだね。次は港街かぁ。何かお祭りみたいだし、楽しそうだ。楽しいと良いなぁ。


 街に入って辿りついた宿屋は結構豪華で、どこぞのホテル並だ。


「うわぁ、一流ホテルみたいだ。期待出来るね」


 中もかなり綺麗だし、広い。流石にテレビとかパソコンとかは無いけど、それは仕方無い。

窓から見下ろした景色は、色取り取りの光が煌めいていて、とても綺麗だ。流石に祭りだと言うだけは有るってかなり人で賑わっている。


「すっごぉ~い、賑やかだねぇ。早く行こうよ」

「そうですね。目玉で有るパレードを見ない事には、勿体無いですから、参りましょう」


 おぉ~パレードかぁ。電気は無いけど、きっと魔法で光らせて綺麗なんだろうなぁ。

南国特有の熱気に当てられたのか、私もなんかだかウキウキしている。


「凄い、人混みだね。シノ、はぐれちゃ駄目だよ?」


 ニヒヒ、やっぱり手は繋いで置かないとね。


「うぉ~! なんじゃあれは、サンバか?」


 まるでサンバの様に際どい格好をした猫耳ちゃん達が、腰をクネクネと踊っている。これがまた四本足で這ってるんだけど、獣人だから良いのか?

あれは、日本人の私には無理な動きだね。後ろの台車の上では、フラダンスの様な腰つきだし、太鼓だけしかないのだけど皆ノリノリだ。


「おぉ~、獣人の動きってのは、凄い! 凄すぎるっう!」


 中には、本当に際どいを通り越した格好をしている人も居るが、似合ってるのがなんとも。


「うぉ~、あれはボンデージくぁ? マニアック~」

「いや、只の革装備だから。意味不明言語を余り大きな声で喚くな」


「何て言うか、熱いよねぇ~」

「解ったから、落ち着け」


 全く、シノって乗り悪いなぁ。こう言うのって普通、男の人ってガン見なんじゃないの? 私がガン見しちゃうぜ。


「屋台で何か食べて帰るか」

「そうだ。烏賊の姿焼きとか無いかなぁ」


 祭りと言えばやっぱり綿飴とか、焼きそばとか欲しい所だけど、烏賊の姿焼きぐらいは有るんじゃないかと、私は眼を皿のようにして探したら、有った!

他にも貝とか海老とか蟹とか焼いてるよ。豪勢だねぇ。


「おぉ~蟹だよ、蟹ぃ~」

「まだ食べるのかよ」


「お菓子があんまり無いのが残念だね。エルフの街にあったクレープとか出せば、きっと流行るのに」

「そうですね。こう言う祭りが有るなら、出店を考えても良いかも知れませんね」


「そうだ、あの宿屋なら、美味しいスイーツも有るんじゃない?」

「そうですね。帰って聞いてみますね」


 うん、あのクレープは美味しかった。あの宿屋なら何か美味しいデザートぐらい有りそうだったし、私はターニャと意気投合し宿屋に帰る事にしたのだ。




 宿屋に戻るとシノが不穏な事を言い出す。どうやら、私達に対する襲撃者が増加傾向に有るらしいと言う事だけど、これって、シノなりの危機管理ってやつかな?

仕方無いから私も乗ってやろうじゃないか。


「よし、推論を立てよう」


 私は、まず立ち上がって声を張り上げる。イニシアティブを取る為って訳でも無いけど、乗りが大事よノリが。


 で、皆で意識統一は出来たと思うんだけど、明日は奴隷を買いに行く事になっちゃった。

奴隷かぁ。やっぱり私には、ちょっと受け入れ難い話だ。リンカーン大統領を尊敬するよ。


 3日目って言うのも有って、ちょっとブルーだ。多い日も安心が恋しいよ。布だとゴワゴワしてオムツしてるみたいなんだよね。


 翌日、私達は奴隷オークションに向かった。途中でジェラートモドキを魔法で作って貰ったんだけど、何て言うか素材が良いから美味しい。

甘さは少ないんだけど、やっぱり自然の中で熟れた果物をそのまま使ってるからだろうね。


 そしてオークションだけど、これは驚いた。


「あんな、綺麗な人が奴隷で売られるの?」

「没落貴族か、奴隷商が磨き上げたか、どちらにしても金が無くて売られた口だろうな」


「拐われたとかじゃないのね?」

「拐われたのかも知れない。だが、ここに出て来る時点で、少なくともちゃんとした買取が成立しているはずだ」


 前に出て商品とされている人は、ミスコンに出てくる様な自信に溢れた綺麗な女の人だった。

私が思って居た様な貧相な悲壮感など、欠片も持ち合わせて居ない様に見える。


「でも、あんまり悲壮感漂ってないね」

「大金を出して買って貰えたら、それなりに裕福だと言う事だからな。よっぽどの変態で無い限り、あの子は、そこらの街で働いている女性より裕福な環境で暮らせる」


「よっぽどの変態って? シノみたいなの?」

「おい、世の中には、女の子を虐める事が生きがいみたいな、ゲスな金持ちも居るってことだ」


「うぅ~っ、聞きたくなかったから、冗談で済ましたのに」

「悪かった」


 逞しいと言うか、何と言うか。奴隷と成った身でも、その身一つで伸し上がろう見たいな気概を感じた。

どちらかと言うと奴隷を買うと言う人間は、シノの言ってるイメージが大半な気がするけど、奴隷が一般的だとそうでも無いのかも知れない。


 その後出て来た獣人の子供や、結構屈強そうな獣人の大人、女性の人も見窄らしい格好をしている人は居なかった。

もしかしたらオークション用に着飾れただけかも知れないが、少なくとも私の思っていたよりはマシと言えるだろう。


『それでは、名残惜しい処ですが本日のメインイベント!最後であり、最大の目玉!隣国で反逆者として家を潰される事となった、剣術の名門とまで言われた黒薔薇家の御息女!ギルドでもその名を轟かせた、サヤ=ローゼン=ブラックベリー!しかも処女だぁっ!』


「ば、馬鹿な。サヤだと?」

「知り合いで御座いますか?」


 司会が最後の紹介を行った人に、シノが過剰に反応した。紹介されて出て来たのは、銀の犬耳に長い腰まである銀髪を靡かせた、無表情な女の人だった。

着ている物と言うか着けていると言った方が正しい様な、局部だけを隠した革ベルトの様な装備に、右手から伸び、胸や脇腹を通って太腿まである炎を模した様な黒い刺青。

私が、刺青だと思ったそれが、奴隷紋と言われる奴隷を縛り付ける物だと知ったのは、その奴隷がシノの物に成った後だった。


「あれは、強力だねぇ、子宮まで届いているよ。つまり避妊も妊娠も思いのままと言う訳だ」

「他に変な処は無いか? 例えば、氷雨の叢雲が偽物だと言えないとか」


「大丈夫な様子だね。そこまで馬鹿じゃないだろう。しかし、あれは凄い、本来性奴に施す術式だよ」

「解った。助かったよ」


 私は、シノとルナと言った闇の精霊との会話は聞いていた。内容は聞くに耐えない物だが、あの女の人も何か有るのだろう。シノの方をチラチラと見て居る。

何となくだけど、女の直感が働く。彼女とシノの間には、何か有ると私の勘が告げている。ここはお友達になっておこう。

私は、まず彼女のぶら下げている立派な刀から話に入る事にした。


 宿に戻って私達は、サヤに今の状況を説明する。

何か、オドオドしているサヤが可愛い。愚直で生真面目な剣道部の先輩を彷彿させる。色恋なんて苦手なんだろうな。


「しかし、大金貨60枚って、いやサヤの値段としては安いと思うけど、姫さん大丈夫?」

「大丈夫です。あの奴隷商は、内々に調査させ潰します」


「え?」

「隣国の政治犯罪者とされた者を、簡単にこちら側で買える訳は有りません。あの大金貨50枚を出そうとした貴族と何らかの取引があったのでしょう。あれは隣国の貴族です」


「そうなんだ」

「そもそも、黒薔薇家が反逆者とされた事自体が、陰謀の可能性が有ります。彼女が私に買われた事で、その陰謀を画策した者は慌てて居るでしょうね」


「そうなのか? サヤ」

「私は、冒険者として旅に出ていたので、詳しい事は解らない。ただ、父が最後の言葉として、狙いは私、主犯はボンゾワールだと言っていた」


「それだけ聞ければ充分です」


 うん、ミラ。知ってたけど、結構腹黒いよね。

さてと、それじゃ私も負けずにサヤを此方側に引き込まないとね。まずは裸のお付き合いからね。あぁ~でもこの尻尾と犬耳が堪らないわぁ~。

て言ったら、「私は、狼人族だ」って言われちゃった。でも狼だって犬科じゃなかったっけ?




 朝からリンが、サヤと手合わせしたいって言って、サヤも快諾したんだけど、勝負は一瞬で付いちゃった。

ほぇ~、サヤって強~い。なんかリンが項垂れてるよ。仕方ないなぁと私がリンのフォローをしていたら、サヤとシノが怪しい雰囲気に………。


「あぁ~っ駄目なんだからねっシノッ! 奴隷で有る事を良い事に、あんな事やこんな事しようとしたらっ!」

「なんだよ、あんな事やこんな事って」


「そ、そんな事、乙女の口から言える訳ないでしょっ! それよりサヤってシノの昔を知ってるんだよね? 教えて教えて」

「おい、サヤ、変な事喋ったらお仕置きだからな」


「つまり、お仕置き覚悟なら言っても構わないと言うことだな」

「大丈夫、お仕置きなんて私がさせないからっ!」


 ニヒヒ、これでシノのあんな事やこんな事を教えて貰うのだ。サヤも乗り気見たいだし、チャンスチャンス。


「あぁ~でも、この尻尾気持ち良いよぉ~」


 動物の尻尾とか癒されるよねぇ。肉球が無いのが残念だ。この奴隷紋も見ようによっては格好良いし。

お風呂に入った時に、ちょっとやらしい処まで伸びてるのが見えたけど、それは普段見えないしね。


 でもサヤが、その奴隷紋を隠さない事を不思議に思って、街を歩く時に注意して見ていたら、結構奴隷紋を右手に付けている人を見掛けた。


「奴隷紋を全て隠す事は禁止されている」

「これは、奴隷を不当に扱ってないかの監視にもなっているのですよ?」


 サヤに何故隠さないかを聞いたら、ミラが補足してくれた。


「奴隷で有る事も身分なのです。奴隷に対する態度は、その主に対する態度にもなりますし、不当に扱われている奴隷を見かければ、通報する事を義務付けられています」

「でも、性奴隷なんてのも居るんでしょ?」


 確かに王族の奴隷に何かしたら、一般人に何かするより罰せられそうだ。


「娼婦よりもましだと思いますよ? 主は一人ですし、そんな事に奴隷を買う者は、かなり裕福なはずですから」

「表に出さなければ解らないじゃん」


「それは、奴隷に限りませんし、そうなれば犯罪となります」

「成程」


 私が思って居たより、この世界の奴隷と言うのは待遇が良いらしい。安い労働力では無く、高級品と言う感じがしてきた。


 ボンゾワールの捕物も、つまんないくらい呆気なく終わった。思いの外小物でこっちが吃驚したくらいだ。

でも、あんな小物が結構力の有る貴族って、隣国も大変ね。


 祭りのフィナーレって事で、宿の屋上で見てたけど、確かに造形は凄い。凄いけど色が単一で寂しいんだよね。


「ねね、ベルちゃん、こう言うの出来ないかな?」

「解った、やってみる」


「え? それまずくない?」

「行っけぇ~っ!」


 シノが何か言ってるけど、無視無視。

プラズマ発光の原理なんて知らないけど、炎の魔法と雷の魔法を混ぜたら色が変わるんじゃないかと思って、ベルちゃんに協力依頼していみた。

結果は、思った以上の出来ね。魔法自体が本人のイメージ主体だから、原理とか関係無いのかも知れないけど。


 さて、終に魔族領の入口へ向かって出発か。何が出るやらだね。




 魔族領の入口は向かう行程は、酷く暇だった。ここから中央聖神殿って処までは、街や村どころか宿屋すら無いらしい。

道程の左側、即ち西側には高い絶壁が聳え立ち、昼も過ぎれば日陰になるのであまり暑くなくて良いのだが、只管何もない荒野だ。


 旅自体はミラのお付きのお陰で快適なんだけど、お風呂に毎日入れないのがやっぱり年頃の女の子としては辛いところね。

丁度オアシスって処で野営するみたいだから、お風呂でも作ってみますか。私は、ベルちゃんに教えて貰いながら露天風呂の作成に取り掛かった。


 さて、シノを逃がさない様にするには、どうすべきかと考えて私は、湯場を3つ造る事にした。

護衛兵さん達と侍女さん達、それと私達の分って事で、これでシノの逃げ場を塞ぐ。サヤに手伝って貰えばシノも逃げきれないしね。


「シノ、そんな妄想ばかりしていないで、こちらを向けば現物が観れるぞ」

「そんな罠には乗らない」


 サヤは、シノが考えている事が結構解るらしい。奴隷紋の影響だって言ってた。

シノって凄いよね。私なら考えて居る事が解るなんて怖いけど、そう言うのも当たり前なのかな?


「何なにぃ~? シノってば、妄想してるんだぁ」

「や、止めろ梓。む、胸を押し付けるな」


 フフフ、ボディーランゲージ攻撃だ。


「あら? 梓様、なんて楽しそうな事を」

「梓お姉ちゃん、シノを独り占めしちゃ駄目だよ」


「わ、私もご助力致します」

「梓殿にだけ、そんな事をさせる訳には行かん」


 む、敵兵確認。いや、ここは共同戦線とすべきと判断。


「仕方無い、シノ。私も腹を括った」

「ま、待て待てぇ~っ!」


 アハハ、シノって可愛い。鼻血出して倒れちゃったよ。ターニャが慌てて治癒魔法掛けてる。

う~ん、こうして見るとサヤの奴隷紋って、かなりエロい? そう言う狙いも有るのかもね。


 中央聖神殿って言うのは、名前負けしてると言うより名前と正反対の禍々しさを感じた。


「あれが中央聖神殿?」

「そのシンボルである、聖なる塔だ」


「名前の割に禍々しいわね」

「同感だ」


 で、此処に来て、ボンゾワールと同じ様な小物感溢れるおっさんが出て来た。使いの神官も無駄にイケメンで胡散臭い。

何て言うのかなぁ。こう言う舐め回す様な視線って、ナメクジが這ってる様な気持ち悪さが有るのよね。ナメクジ這わせた事なんて無いけど。


「ミラ、俺は今から寝る。皆が寝る時に起こしてくれ」

「それは、どう言う事でしょうか?」


「今晩は、気が抜けないと言う事だな?」

「ああ」


 シノとサヤがやけに警戒してるけど、そんなに心配する程かなぁ?

逆に言うと、そんな皆が居るから私は結構お気楽なんだけどね。


「じゃぁ、私も今から寝よぅっと」

「私も」


 えへへ、これで夜中にシノと二人っきり。じゃなかくてベルちゃんも一緒か。ま、まぁシナリオ通りだ、問題無い。


 って、何? 何? 本当に襲撃が有るなんて、あんの馬鹿親父何してくれちゃってるのよ。結局夜通し一緒に起きてたけど、シノがピリピリしちゃって進展無しかぁ。

ミラが馬で行くって言うからくじ引きを提案したんだけど意味無し。なんか理不尽な物を感じるわ。


「これが天の采配と言う物なのでしょうか?」

「無欲の勝利って奴ね」


「梓、ベルを乗せたかったのか?」

「それは、ベルちゃんに怒られるわよ」


 この鈍感馬鹿。


 魔族領に入った途端、変な女が遣って来た。もう、シノって天然誑し決定ね。魔族まで色目使っちゃてるし。

でも、童話に出て来る様なお城に、アスモデウスの娘ねぇ。そう言えば、あの頭の角は山羊の角と言う感じがしないでもないわね。


「あ、ラビアンだ。おかえりぃ~」


 こ、こ、子供~っ? さて何が出て来るかって構えてたのに、これは想定外だわ。

あの魔族の女が、何故か子供に懐かれてるし、これって母性? 胸? 胸なのね~っシクシク。


 魔族の女が扉を開けた瞬間、パンパンと言う音がして、これってクラッカー? 何でそんなもんが有るのよ。

全く、多種多様な魑魅魍魎、妖怪変化のオンパレードかって、皆美人なのが妙に苛つく。いや、派手過ぎて目がチカつく。


 と言うか、もう駄目ぇ~。可愛い、皆可愛いよぉ~。これが悪ヲチってやつ? それでも良いや、私、魔族側についちゃおぅっと。


「あははは、シノ~。人間なんかより、私、ここの魔族の方が気に行っちゃった。人間滅ぼしちゃおうか」

「あ、梓様、それは流石に問題発言ですよ」


 アハハ、ターニャが慌ててるぅ。


「はっはっは、流石にそれは、我らも困るでの。容赦をお願いするぞ」

「良いわ。あんたが言うなら、考えてあげるぅ~ぅ」


 あの七色の髪も最初は目に来たけど、慣れると可愛いわ。

う~ん、楽しいなぁ。此処は楽しい、美味しい物も一杯だし、ここが気に行っちゃった。




 うぅ~、頭痛い。これが二日酔いって奴なのね。ターニャは「自業自得です」って治してくれないし。


 魔族領から戻ったのは良いんだけど、何故かシノがこれからの行動を決めたがってる。何焦ってるのかしら?

確かに、魔族領どうこうではミラの目的が達成出来ない事は解ってけど、それって戻れば私達が自由に成るって事じゃないのかな?


 翌日から馬を走らせて戻るって、ちょっと急ぎ過ぎなんじゃない? お尻と言うか、太腿が痛いよ。

そんなに私と二人っきりじゃないか、サヤとベルちゃんもだから4人かな? で旅したいって事かしら?


「流石に疲れました」

「誰だ。こんなに急がせたのは」


「「「お前だ」」」


 まぁ、兎に角旅も終わりって事だよね? 魔王討伐なんてのも無くて、後はミラが上手くやってくれるでしょう。


 帰還パーティなんて開いてくれたんだけど、やっぱりここの食べ物ってあんまり美味しくないんだよね。

何か知らない人がやたら挨拶に来るし、面倒だなとテラスに逃げてたら、久しぶりにゴスロリちゃんが来た。


「やぁ、梓君だったね。君に聞きたい事が有るんだけど」

「えぇっと」


「ルナだよ? 忘れちゃったのかい?」

「そうそう、ルナちゃんだ。で、何?」


「シノが、君を元の世界に戻そうとしている。今確認したら、どうやらボクの力を使えば戻れそうなんだよ」

「え?」


「君がどうしたいのか、それを考えておいて欲しいんだ」

「私がどうしたいのか」


「そうだよ。ボクはシノを悲しませたくない。だけど、君の意思を無視する気も無い。君とは契約していないけど、聞きたい事が有れば呼んでくれれば何時でも答えてあげるから、少し考えてくれるかい?」

「わ、解ったわ」


 そう言ってルナは影に消えて行った。シノったら、そんな事を考えていたんだ。やっぱり優しいんだ。ちょっとウルッと来ちゃった。


 その後、すぐにシノがやって来た。


「梓! 元の世界に戻れるぞ!」

「そ、そう」


「嬉しくないのか?」

「そう、少し考えさせてくれる?」


 私は、どうしたいのだろう? 取り敢えずルナから情報を貰わないとね。

だから私は、皆と王さん達との会議も上の空だった。私はどうすべきなのか。どうしたいのか。


「ねぇ、ルナ」

「決まったかい?」


「私が向こうに戻るのを、此方からの召喚って事には出来る?」

「また戻って来る気かい? うん、そうだね。此方に正しい召喚陣を描いて、其処が誰にも侵されないなら可能だと思うよ」


「その逆は?」

「成程。此方と彼方を行き来するつもりかい? それは面白い発想だね。流石のボクもそれは予想外の回答だよ」


「出来るの?」

「可能だね。ただ、君がシノと共に有る気なら。これは還らないと言った時に、言おうと思っていた事なんだけどね。心して聞いておくれ」


「な、何よ」

「シノは、種族として純粋な人では無い」


「え?」

「彼の半分は、魔族。それも魔王と呼ばれる者だ。それでも一緒に生きていくかい?」


 全く、シノが彼女の事を怖がっていた理由が漸く解ったわ。このタイミングでそんな爆弾落とす?

でも、ちょっと吃驚したけど、私の決心は変わらないわよ。こちらとあちらを行き来出来るなんて夢みたいじゃない。

月曜から金曜までは向こうで過ごして、土日は、こっちでバカンス。

魔族の血ったって、そもそも私からすれば全部異世界人だっつぅの。無問題だわ。


「シノ」

「なんだ?」


「私、もう一度魔族領、プリパラに行きたい。そしたら還るから連れて行って」

「解った」


 イヒヒ、プリパラのクジャクと交渉だわ。あそこならこっちでの召喚陣だかを侵される心配無いはずだもの。


 これでシノとまた短くても2週間の旅だと思ってたんだけど、何か魔族の人が迎えに来てくれてすぐ行けるらしい。

全く、今までの旅は何だったのか。と言うか、これ完全に魔族によって文化レベル調整されてるんじゃないかしら。


 そうして私は、元の世界に戻った。シノ以外には、「すぐに戻って来るから」と耳元で囁いて。






 も、戻って来た。私の部屋だ! 何も変わってない! と、取り敢えず何か着なきゃ。召喚の時裸ってのだけは勘弁して欲しいわね。


 まず調べるのは、あれから何日経ってるかだわ。ここは私の部屋だから何も変わってないわね。カレンダーもそのままだし、取り敢えずPCの電源入れてみましょう。


 画面が立ち上がる。パスワードを打ち込む。パスワード変えようかな。あっシノの誕生日聞いて無かったなぁ。でも本人も知らないかも。


 あれ?確か私の記憶でも10月だったんだけど、日付が変わってないわね。えと、スマフォスマフォっと。


 やっぱり日付変わってない。あ、桜からメール入ってる。


 TO:梓


  xx男子校の文化祭どうする?

  梓乗り気じゃなかったけど、気が変わってたらメールしてね。


 そんな話だっけ? 一応返信してみよう。反応で本当にあの日に戻ったのか解るしね。


 結局、私は居なくなった日に戻って来たらしい。男子校の文化祭なんて今更行きたくも無いので、しっかり断った。


「平和だねぇ~」

「何、爺臭い事言ってるの?」


みやびか。魔物も盗賊も襲って来なくて、なんか平和だなぁって思ってさ」

「何? 梓、遅咲きの中二病?」


 ケラケラ笑う雅。私のクラスメート兼同じ剣道部員。ショートカットが溌剌とした、大凡名前とは結びつかない豪快女子だ。

普段は猫被ってるから、騙されている男子多数増加中だけどね。


「それより、次の部長、梓に決まりだろうってもっぱらの噂だよ」

「えぇ~? お断り。雅に譲るわ」


「譲られてもなぁ」

「私、2年でクラブ辞めるから」


「え? どうして?」

「限界を感じた? かな」


 はっきり言って、剣道もつまらなく成ってしまっていた。緊張感が無いって言うかね。生死がそこにある真剣を味わっちゃうと、何ともって処なのよね。

それにも増して、ついつい隙の有る処に打ち込んじゃうから、反則になっちゃうし。


 あれから何度か逆召喚を試したのだけど戻れなかった。何か不備が有ったのか、私が召喚陣を間違っているのか。兎に角それが今の私の憂鬱の種だ。

こちらの男に魅力を感じ無い。同級生は元より、大学生も駄目だ。大人は全員ボンゾワールかバグアルに見える。シノに逢いたい。


「もぅ~っ! ルナ! どう言う事よっ!」

「呼んだかい?」


 クリスマスの誘いも断って、冬休みだからと私は力を込めて逆召喚に再挑戦していたのだ。


「ちょっ! 何でルナが此処に居るのよ? 」

「心外だなぁ。召喚魔法は闇の魔法だって説明しただろ? ボクが居ない処で成功する筈が無いじゃないか」


「この世界にも精霊が居るの?」

「居ないよ。ボクだから来れるんだ。流石に時間逆行までは出来ないのでね。君が向こうで過ごした時間掛かってしまったと言う訳さ」


 私はルナの説明を聞いて、此方での時間の流れと向こうでの時間の流れに付いて、ある程度の仮説を立てた。


 それから私は、クリスマス、正月、センター試験の模試など淡々と日々を過ごして行く。お土産も持って行きたいし、色々準備したかったからだ。


 準備が整った私は、ルナを呼び出し逆召喚を実行する。

私は、こっちとあっちの時間、普通の人の倍の時間を人生として過ごす事が出来る。

だから、あちらの世界では、シノと共に生きる事を決めた。こちらでは勉強する。その知識を向こうで役立てる。


 待ってなさいシノ。逃がさないんだから。私の世界を超えた愛を受け止めなさい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ