幕間2 黒梓-その2-
黒梓第二弾です。
あんまり黒く有りません。旅を始めて(第四話)から初キッス(第八話)までのダイジェスト版です。
会話の合間が、梓視点の感情になっているだけなので、読まなくても本編には全く影響ありません。
逆に本編を読んでないと何が何か解らないかも知れません。いえ、多分解らないです。
そして本編を読んで下さってる方には、冗長で見苦しいかと思われますが、ご容赦下さいませ。
失敗したぁ。ベルちゃん可愛い過ぎる。これ二次元ヲタが見たら卒倒もんだろ。ついつい、抱きついちゃった。
だけど、シノと既に一緒に居ると言うのは、想定外だった。まぁ、あの時の部屋のまんまだし、シノも私を待ってたって事だよね?
そんな事よりも、失敗と言うのは、こいつ等だ。
確かに一緒に寝る事を条件にしたけど、そこは、男の部屋に行くんだから気を利かすって物じゃない?
しかも、何時もと同じく下着姿で寝てるしって私もだけど。シノのハーレムを作るつもりな訳じゃないのよ。
そう言えば、シノは何処に行ったのかしら。逃げ出したなら、ミラの護衛兵が起こしてくれると思うから、きっと朝食ね。
私もさっさと服を着て向かわなくっちゃ。でもベルちゃん可愛い。もう一度頬ずりしてっと。
「勇者様?」
「お姉ちゃんで良いわよ。若しくは、梓お姉ちゃん」
しかし、思っていたより、シノは頭が良いと言うか状況を理解している様子だ。
魔王討伐になんて行きたくないか。でも、私もちょっとこの娘達を、見捨てられなくなっちゃったのよね。
主にミラだけど、取り敢えず幾らかでも旅をすれば面子は保てる様だし、それならちょっと長い目の護衛って思えばギルドの依頼と変わらないよね。
最悪、ミラに全裸土下座でもさせれば、優柔不断なシノの事だから、折れるとは思っていたけど、それまでもなくミラが頑張ったわ。
私も悪役に成らなく済んで、良かった良かった。
「よしっと」
「勇者様?お出掛けに成られるのでしょうか?」
ゴソゴソと着替えて居たからか、ミラが眼を覚ました。一緒に寝て居たターニャとリンも起きそうだ。
「朝御飯食べに行くだけだよ」
「私も行く」
おぉ、ベルちゃん、すっぽり被るだけだから、一瞬で準備出来ちゃったよ。あれ便利かも。
しかし、こっち側は、なんか皆胸がタプンって負けた気がする。
「お、お待ち下さい。ご一緒致します」
「そんな急がなくても大丈夫よ。先行ってるわ」
全く、このお姫様は。のんびりと髪を梳かしているターニャを見習いなさいって。ちょっと虐め過ぎたかな?
「勇者殿」
「何?」
「あの男は一体何者なのです?」
「私だって一週間程しか一緒に居なかったのよ? 深い事は知らないわ。どうかしたの?」
「いえ、私は昨夜、そちらのベッドに近付けませんでした。ターニアも姫様もです」
「そ、知ってる人しか入れない結界でも張ってたんじゃない? 気になるなら本人に聞いて頂戴」
きっと、精霊か何かなのだろうと思ったけど、私が言う事じゃないしね。
私は、ベルちゃんの手を引いて、食堂へと向かった。あ、日課のミラの胸揉みを忘れていたわ。今日ぐらい良いか。
食堂には、懐かしい光景が有った。カウンターに座ってるシノがコーヒーを飲んでいて、マスターと話をしている。
目頭が熱く成ってくる。帰って来たんだと思う。ほんの一週間しか居なかったけど、不安な私を安心させてくれた光景が目の前に有る。
私は、その感動を悟られない様に、精一杯の虚勢を張って言葉を発した。
「ちょっとシノ!起こしてくれても良いんじゃない?マスター!私も朝御飯頂戴!」
「あいよ!」
マスターは、良い人だ。あの頃と変わらない態度で接してくれる。
「シノ、おはよう」
「あぁ、おはよう」
む、シノを挟んで反対側に座ったベルちゃん。中々強敵だ。頭撫でられてる。良いなぁ。
「で、今日、出発するのか?」
「う~ん、どうしようかなぁ? ベルちゃんちの近くの森の話も気になるんだけど。私が最初居た森ってどうなった?」
そう言えば、シノに会った後の行動なんて聞いて居なかった。いや、言ってたかも知れないけど、聞いて居なかった。
「あれから、特に何も聞いてないな」
「じゃぁ、ベルちゃんちの森も心配ないかな?」
「何時までって保証出来る訳じゃないけど、今日明日でどうなるもんでも無いだろ」
「そっか。ねぇミラ?この後ってどうするの?」
こう言う事は、ミラに振ろう。そうしよう。
「おい、まさか旅って姫さんも一緒なのか?」
「そうだよ?」
「おいっ!貴様っ!」
「てことは、あのムサい護衛も一緒なのか?」
「そうだよ?」
「おいっ!無視するなっ!」
リン、もう少し穏便に話し掛けられないのかな? あ、扱かされた。シノって結構強かったんだ。てかそう言えば私が負けたのってシノだけだもんね。
「なんだ? 脳筋」
「私は、脳筋では無いっ! 私と勝負しろっ!」
「なんで勝負なんてしなきゃ行けないんだよ?」
「貴様の強さを知っていないと、連携等の時に困るだろ!」
「解った、解った。飯食ったら、裏の広場でいいか?」
「それで構わない」
リンたら、聞きたいだけじゃなかったのかな? 勝負って、別に良いけど。そう言えば皆が珍しがってた、あの特撮みたいなのシノは知ってるのかな?
これは、放置して見ていた方が面白いかも。
まぁ、結果は思った通りだったわね。しかし、シノってどれだけ隠し球持ってるんだろう。まぁ一週間ぐらいじゃ全てを知る事は出来ないのは当然か。
シノは、街の皆に挨拶してくるって、それは、人として当然の行為よね。私は、別に良いわよね? マスターぐらいしか覚えてないし。
ベルちゃんが一緒に行くって言うけど、まぁ良いわ。残った者で意識統一しておきましょ。リンは、起きてから伝えれば良いわね。
さて、ここで考える事は既成事実ね。でもこっちって、そう言うのってどう言う倫理観なんだろ。
でもこっちじゃ化粧品も無いし、着飾るってのも何か違うし、ここは身体一つでぶち当たるしかないわよね。
方法としては、相手の知らない事を利用する。うん、異世界の常識とかが良いわ。私しか解らない事だから、そう言う物かと思うに違いない。
よし、方針はそれで良いとして、実際の内容よね。一緒に寝るのは、もう良いわよね。後は二人っきりと言うシチュエーションか。
まずは、情報収集ね。
「ミラ」
「あ、勇者様」
私は、ミラとターニャからこの世界の風習と言う物を聞き出そうとした。
が、結果は、失敗に終わった。ミラはお姫様だから解るけど、この二人、いや、途中から起きだして参戦してきたリンも含めて、男に対する考え方が偏り過ぎ。
ミラは、完全に政治的手段だと思っているし、ターニャは男自体を知らなさ過ぎ。リンに至っては、男嫌いと言うか男を見下していると言うか、そう言う感じ。
取り敢えず3人共、経験が無い事は解ったが、参考に成らない。3人共に共通していたのは、処女の価値だけだ。それはシノも言っていたか。
悶々として旅に出る事になったのだけど、夜に行き成りシノに呼び出された。これはひょっとしてひょっとするか?
口臭消しが無いのが痛い。臭い物食べてないよね? 一応口は濯いでから、行こう。そう言えば、こっちでは魔法が有るんだった。口の中にちょろっと水を発生と。
うん、便利だこれ。私は、ウキウキしてシノに付いて行った。
「どうしたの? 夜中に一人で呼び出すって、もしかして告白? いや~ん、まだ心の準備が、でもシノが望むなら、キスぐらいなら良いよ」
「そのお花畑な思考は、ちょっと置いておいてこれを見てくれ」
お花畑って酷くないかな? で、シノの出したのは、卵?
「何これ? 卵?」
「俺の雷の精霊だ。今は、とある事情で休眠状態なんだが、これに雷の魔法を当ててみてくれないか?」
「え? 大丈夫なの?」
「多分」
「まぁ、それぐらいなら構わないよ」
「頼む」
「じゃぁ、軽いのからね」
ちょっとガッカリ。でも何か頼まれると言うのも悪い気はしない。私は気を取り直して魔法を行使する。
「じゃぁ、プチサンダー」
最初は優しくだよね。
「梓、もう少し強目で頼む」
「アイアイサー。メガサンダー」
おっと、お気に召さなかった様だ。では、ちょっと出力を上げてっと。
何これ、卵が光って大きくなって行くよ。って、また裸の女。シノが女に余り興味を示さないってのは、精霊のせいなんじゃないかな。
「ハオ」
「あらぁ~。雲も無いのに雷が落ちましたぁ~。シノたんじゃないですかぁ~」
「ハオ。良かった」
「これが、雷の精霊?」
全くシノの引き出しの多さに驚くよ。これで雷も使えるって事? 私よりチートじゃん。
「はいぃ~。シノたんの雷の精霊のハオカーと申しますですよぉ~」
「あ、私は、梓。神巫梓だよ」
「はぁ~、貴女が雷の魔法を?これはこれは有難う御座いますぅ~」
「なんか雷の感じがしない、間延びした精霊ね」
おっとり系か。水の精霊って女王様系だったよね。闇の精霊が、ゴスロリっ娘だったし、うん、精霊って謎だ。
「はぃ~。よく言われますぅ~」
「ハオ。これで、元通り?」
「そうですねぇ~。うぅ~んちょっと何か足らない感じですぅ~」
「そうか、自然の雷じゃなかったからか?」
「多分そうだと思いますぅ~。でも、雲も雨も無いのに出てきてるからかも知れないですぅ~」
「そうか、今度は、雲の有る時に呼ぶから、休んでいてくれ」
シノ嬉しそうだなぁ。きっと何か事情が有って、あの卵に成ってたんだね。力を使い果たしたとか、そんな感じかな?
「はいですぅ~」
「有難う、梓」
「私、役に立った?」
「あぁ、助かったよ」
え? お? これは、やったね。これで好感度アップは間違い無し。よしよし、地道に好感度を上げて、フラグを立てるのが王道って物だよ。
えぇっと、多分、雷を当てないと行けなかったけど、方法がきっと運任せだったって事かな? 後で避雷針を教えておいてあげよう。ニヒヒ。
なんか知らないけど、街に入れて貰えなくて私達は食料を調達に来ている。
でもあの街の領主って、外道だったわね。あんなのでも魔物を倒す為って言う事で許容されるのかしら? 周りの反応を見る限りそんな事は無さそうだけど。
ベルちゃんとターニャは、凄いなぁ。次々と草を採って行く。根っこが必要なのは、根っこまで引き抜いているし、知識が豊富なんだなぁ。
「ベルちゃん、良く知ってるね」
「薬の作成も魔法使いの仕事」
リンは、その辺りは余り知らないのかな? と思ってたら、リンは周りを警戒していたらしい。そっか森だもんね、役割分担か。
「勇者殿、何か来るみたいです」
「えと、猪?」
あれは、どう見ても猪よね? って、こっちに来るよ。きゃぁ~っえいって、あら? リンが呆れている。まぁ猪ぐらいこんなもんでしょ。
猪の来た方向から、なんか湯気が見える。私は、そっちを調べに行くと、なんと温泉じゃぁ有りませんか。
これは、例の、異世界の常識作戦を結構するべきだわ。ムフフ。
「あの、勇者様?」
「何?」
掛かった。これから温泉に行くと言う時に、ターニャが声を掛けて来た。ふふふ、普通にシノと行こうとしていたからね。
「あの、シノ様とご一緒に、温泉に入られるのでしょうか?」
「え? 勿論よ。親しい者と一緒にお風呂に入る。裸の付き合いって奴よ」
「それは、勇者様の世界では、当たり前の事なのでしょうか?」
「も、勿論よ」
しまった。ちょっとキョドってしまった。でも、どっちにも取れるわよね。何を今更聞いているのよみたいな。無理があるかなぁ?
でも、これで男とは入れない、裸を見せる事は出来ないとか言ってくれれば、私だけで入るから良いと言えば良いわよね。
うん、こちらの常識は尊重する。私は、私の常識で行動する。完璧だわ。
「わ、解りました。ご一緒致します」
「え? 無理しなくて良いのよ? ターニャ」
「勇者殿だけを、狼の前に差し出す訳には行きません。私もご一緒致します」
「私も、勇者様の世界の常識を尊重致します。ご一緒致しますわ」
え? え? リンにミラまで。ちょちょっと、後に引けないじゃない。どうしよう。
「あ、有難う。じゃぁ一緒に行きましょう」
「はい」
うぅ~、ベルちゃんは、さも当然の様に付いて来てるし、これを軍師策に溺れると言うのね。失策だわ。
えぇいもう自棄だ。シノの裸を満喫してやる。シノが水質を確認している間に、皆で裸になって、シノを脱がす。
「行くわよ」
「了解です」
「はい」
返事をするリンとターニャ。頷くミラとベルちゃん。いや、ベルちゃんが遣る気なのが解らないけど、まぁ良いか。
「大丈夫そうだぞ? って、え?何?」
「シノも一緒に入るんだよ」
「勇者様の世界では、裸の付き合いと言う物が有るそうなのです」
「そうだよ。親しい者は、一緒にお風呂に入るんだよ」
私達は、タオル一枚でシノに迫る。力じゃ勝てなくても、ここで暴れたら、それは男じゃないでしょ。
「解った。自分で脱ぐから、お前ら先に入ってろ」
「逃げたら許さないよ?」
「解ったって」
「本当」
勝った。ベルちゃんナイス。ヌフフ。やっぱり現役の冒険者って感じで引き締まって、良い筋肉してるわ。軟弱な高校生達とは大違いね。
わ、私だって、そんなに見た事有る訳じゃないわよ? プールで見ただけよ、プールで。
でも、ここでハプニングが無いと、お約束って奴よね。
「ゆ、勇者様、シノ様が居られますので、今日は、ご自粛を」
「駄目だよぉ~、これが楽しみで生きているんだからぁ」
「お、俺は、そろそろ上がる」
「えぇ~、これから楽しいんだよ?」
ちっ、逃げられた。まぁ、ターニャのおっぱいを楽しむのも楽しいんだけどね。ベルちゃんの白い目がちょっと辛いけど。
さて、ミラとリンも堪能したし、私も上がるかな。
「なになにぃ~っ、何二人でコソコソ話しているのかなぁ?」
「梓、服着ろ服」
「そうですよ、梓様、はしたないですよ」
「ターニャ」
「ターニアです」
「ターニャが、名前で呼んでくれたぁ~っ!」
嬉しいよぉ~。やっとターニャが名前で呼んでくれたよ。ベルちゃんは、すぐお姉ちゃんて呼んでくれたんだけどね。
やっぱり、名前で呼ばれると友達とか、親しいって感じするじゃん? 勇者様とか呼ばれると余所余所しいんだよね。
さて、次の作戦を考えねば。と考えてたら、リンも名前で呼んでくれたよ。これ、きっとシノが何か言ったんだろうな。
翌日、シノはお菓子を買って来てくれた。これだ!
確か、お母さんが、「男を捕まえたければ、まず胃袋からよ」と言っていたのを思い出した。でも私の作れる料理ってこの世界で作れるかな?
これも情報収集からか。パンやお菓子が有るから、小麦粉とかイースト菌は有りそうね。と言う事はパスタは行ける。ケーキも行けると思うけど、男の人にはね。
シノもお酒飲む見たいだし、お酒の肴になるのがきっと良いわよね。でもそうなると私ってめっきり和食に偏っちゃうな。
洋酒は、困ったらチーズ出しておけば良いって、お母さんも言ってたし。そうなると醤油が無いと厳しい。あっ自分がお米食べたくなってきちゃった。
って考えてたら、ミラまで名前で呼んでくれたよ。しかも魔物が責めて来たって? 任せなさい。シノにお願いするから。
で、馬で駆けていったら、何これ? 気持ち悪~い。うぞうぞと居る。ベルちゃんが何か見つけたみたいって兎?
「私に、遠距離技が無いと何時から思ってましたか?」
「秘技、竜閃!」
リン凄い。ってベルちゃんも。私も負けてられないわね。
でも、こう言う戦いなら、怖くなくて良いかも。いや、うぞうぞ来るのは怖いけど、遠くから魔法なら血とか見ないで済むしね。
兎ちゃんのお母さん、まんまバニーだよ。シノ、鼻の下伸びてる。やっぱり、ああ言う、ボンキュンボンが男の人は良いのかなぁ。
野営地に戻るとターニャがシノを連れ出した。何これ? まさか、愛の告白? ってそれは無いよね? ターニャって男は野蛮でとか言ってるし。
そしたら戻って来たターニャの目の色が変わってるし、耳が尖ってるし呪いだったの? うぁ~、良かったね、解けたんだって、やっぱりシノか。
しかし、このままでは、シノの胃袋を掴む事が出来ない。私は意を決して敵から情報を得る事にした。
「ねぇ、シノ?」
「なんだ?」
「今から行く所って、美味しい物あるかな?」
「あぁ、森に居る獣や、森に生える野生の野菜、川に住む魚や、鳥や卵も豊富だ」
お、魚が有るのか。だとすると期待出来るかも知れない。
「本当!」
「香辛料も豊富で、色々な味付けが有って、木の蜜を使った甘味も有る」
香辛料が豊富! これは、良いかも知れない。
「わぁ~、楽しみだなぁ」
「中でもカブトムシの幼虫は、栄養も豊富な貴重な食べ物とされている」
「む、虫の幼虫?」
「あぁ、あれは美味いぞ」
ちょちょちょ、ちょ~っとお待ちを。虫の幼虫? そう言えばシノは蜂の子なんてのも食べてた。もしかして下手物食い?
「わ、私はちょっと、遠慮しようかな?」
「なんだ、嫌いなのか?」
「い、いや、虫はちょっと苦手かな? なんて、あは、あはは」
「梓にも苦手な物が有ったなんてな」
「うわぁ~、何なに? あれが、エルフの街?」
「そうだ、エルフの治める街、スピリチュアルだ」
こ、ここは話題転換だ。うん、虫の事は忘れよう。出される料理で出てこないと良いなぁ。
おぉ~なんか人が一杯居るって皆耳尖ってるよ。エルフだエルフだ! って、ターニャもエルフだった。
え? 母様って、何? あちゃ~、ターニャまでお姫さんか。
「なぁ、リンまで、竜人族のお姫様だなんて言わないよな?」
「す、すまん。だ、だが我らは数も少ない! 領土だって、ベルの領地の方が大きいくらいだ。だ、だから、その、姫なぞと扱う必要はない。そもそも私は戦士だ」
うん、シノ、それは私もフラグが立ったと思ったよ。しっかりフラグ回収だね。
しかし、私とベルちゃん以外、皆お姫様か。ベルちゃんだって、街の領主のお嬢様だしね。
「凄いねぇ~シノ。私とベルちゃん以外、王女様パーティだよ? これなんてエロゲ?」
「いや、また何言ってるか意味不明だから」
これは、あれだね。細目に好感度上げないと私もヤバいよ。でもエルフの街って綺麗だわ。街も綺麗だけど、やっぱりエルフって美形ばっかりなのね。
何処の誰だかが言ってた、エルフは貧乳って大嘘じゃない。しかもダークエルフは、爆乳って、両方爆乳よっ! 還る機会が有れば文句を言いたいわ。
でもエルフの街って、やっぱり人間が少ないわね。尻尾生えてる人多い。
今日の食事はっと、良かった虫の類は入ってなさそうだわ。女王様は、ご機嫌で喋り捲ってる。そりゃそうか。
可愛い娘が呪いに掛かってて、苦肉の策で聖域とやらに、安全の為一人旅立たせて、帰って来たら、思いもかけず呪いが解けてたんだもの。嬉しいわよね。
うん、そんな男、殺してオーケー。誰も許可しなくても私が許可するわ。ん?これは春巻き?
「こ、これは!」
「どうした? 梓?」
「これってライスペーパーですよね?」
「ライスペーパー?」
これは、知ってる。確かベトナム料理とかで使われるライスペーパーだ。
「このっ! この生地。これの原料有りますか?」
「え、えぇ、米ですわね」
「米! お米が有るんですね?」
「ちょっと変わった畑に成るのですが、この地方では年に2回収穫出来るので、色々な材料になっているのですよ? お酒とか。ご興味がお有りでしたら、明日案内させますわ」
「是非っ!是非お願いしますっ! 後、このソースは醤油ですよね?」
「醤油?と言うのが解りませんが、それは港街から仕入れている、魚汁と言うソースですよ」
「魚汁………、きっと魚醤ね。あの、生魚を食べる習慣って有りますか?」
「そうですね。薄く切って酢を掛けたりしますが、食べない事は無いですよ。良ければ明日にでもお出しして差し上げますね」
「カルパッチョだ。嬉しい、嬉しいよ、シノ!」
「解った、解った、そんな事ぐらいで泣くな」
や、やった。米と醤油が手に入る。これで、シノの胃袋が掴めるかも知れない。私は思わず涙ぐんでしまう。
その夜は、料理のレパトーリーを思い出すので手一杯で、寝れないと言う羽目になってしまった。
翌日は、女王様自ら案内してくれたのは、水田だよ水田。そして、お米が生ってるよ。
「お米だよ! シノ、お米だ!」
「解った、解ったって」
私は、狂喜乱舞状態で辺りを見渡す。そして私は、見つけた。北海道のお爺ちゃんの処で、いつもお爺ちゃんが採っていた山山葵を。
寒い地方でしか出来ないのかと思ってたけど、これは品種が違うのかも知れないけど。
「こ、これは」
「それは、雑草ですよ。辛くて食べれたもんじゃない」
「山山葵だ。これ、貰って良いですか?」
「あ、ああ、構わんよ」
辛いって言った。辛いって言ったよ! きゃほ~い。作るぞ、料理作るぞ。私は宮廷に帰ると、厨房の場所を教えて貰って、一目散に向かった。
宮廷の料理人の人達は親切だ。エルフが人間嫌いって言ったの誰よ。全然親切じゃない。それともこれはあれ? 私が可愛いから?
いや~ん、可愛いって罪ね。この美形揃いの中で自分が美しいとは、流石の私も思うことさえ出来ないわ。
お米は、お酒作ってる処で籾殻取った奴があるはずだって、取りに行ってくれた。なんて親切なイケメン。でも惚れないわよ。
料理人の人が、三杯酢を作って見せると、「これは、色々と使い手が有る」と感心してくれた。うん、酢の和物には必需品だね。
思考錯誤したのは、お米の炊き加減。軽量カップとかないから、水の分量が良く解らないから少しずつ違うのを炊いて、大体の目安を作った。
後は、昨日言ってた様にカルパッチョ用の生魚があったから、それをお刺身にと。料理じゃないって? 何のために三倍酢を作ったと思っているの。
後、魚汁って言う醤油の検証に照り焼きっぽい物を作って見た。生姜がなかったから、ちょっと呆けちゃった感じね。
そして、メインディッシュは、私が皆の前で作る!
「じゃじゃ~ん!」
「今度は、なんだよ」
「これが、お寿司だ!」
「おぉ、勇者様が仰っていた物ですね」
うふふ、シノよ、食って驚くな。生魚を食べる習慣の無かった、アングロサクソンさえ唸らせた、日本と言えば「スシ~」の寿司だ!
お母さんに叩き込まれた、私の腕を見るが良い。
「こ、これは!」
「美味しいです!」
「これは、上に乗せる魚や貝とかで味が変わって、何時も以上に食べれたりするんだよ」
「これは、米に酢を交ぜているのですか?」
「酢と塩と砂糖だよ。出汁が無かったのがちょっと寂しいけど、ここの魚とか新鮮だから行けるかなと」
「これは、レシピを教えて頂けますか?」
「ああ、厨房の人達と試行錯誤したから、知ってると思うよ」
「これは、美味いな」
よしよし、絶賛だぜ。シノも黙々と食べて居る。どうだ、私の力を思い知ったか。
そう思ってたら、なんか女王さんと魔族の話なんか始めるし。プンプン。
「その魔族って女なんでしょ?」
ベルちゃんがコクりと頷いた。あら、適当に言ったのに、本当に女だったんだ。
「まぁ! 魔族の女さえ、虜にしてしまっておられるのですね。素晴らしいですわ」
「いや、人を女誑しみたいに言わないで下さい」
「何を仰いますの、勇者様や、内のターニアまで誑して居る癖に今更ですわよ」
「誑してません」
誑してるじゃない。主に私とか私とか私とか。
エルフの街を出て、森を抜けた処で一泊するらしい。ミラ曰く夜景が綺麗だとか。
「綺麗」
確かに綺麗だ。幻想的な赤い水平線。オーロラなんかと同じ原理かな? だとすると魔界って寒い? どう言う位置関係か悩むわ。
「あれは、プランクトンかしら? それとも光る魔物でも居るのかしら?」
「海が光輝くのは、謎と言う事です。梓様の仰るプランクトンと言う物かもしれませんね。あの薄らと赤い線は、魔界での火山が活発な為ではないかと聞いております」
「要は、何も解ってないって事ね。でも綺麗」
「はい」
あの海の煌きは、波打ち際に見えるから、きっとプランクトンで間違いないわね。でも、こんなに離れて見えるって事は、大量に居るって事か。
よく赤潮にならないわね。其処ら辺は、逆に魔物が多量に食べるからとか、そう言う理由かしら。なんとも常識を覆されるわね。
景色も綺麗だしシノの胃袋掴みも一応は効果を上げたと思うし、私はもう一度夜景を見ておこうと夜中に抜け出して一人で夜景を眺めていた。
「気にいったのか?」
「うん、幻想的で、異世界なんだなって実感する」
おっと、まさかのシノ登場。これは、ハプニングを期待出来るか?
「私の世界では、月は一つしか無かったんだ」
「それは、寂しいな」
大体月が3つも有るって、どう言う引力関係よ。よくぶつからないわね。潮の満ち引きも半端じゃないんじゃないかと思う。
「でも、色んなお伽話があったんだよ。月に還るかぐや姫とか、老人を助ける為に自分が火の中に飛び込んで食べて貰おうとした月の兎とかね」
「また献身的過ぎる兎だな」
うぅ、話していて自分の馬鹿さ加減に呆れる。アルテミスの話とかにした方が良かったかな。
悪かったよ、恋愛なんてシュミレーションゲームでしかした事ないんだよ。
なんか涙が出て来た。誤魔化す為に頭を、シノの肩に乗せる。
「梓は、これからどうするつもりなんだ?」
「暫くはミラに付き合ってあげるよ。あの娘も必死だったんだと解ったから」
「優しいんだな」
「打算だよ。ミラに付き合っていれば、当面の生活に困らないからね」
あは、悪ぶっちゃったかな。最初は、なんとか離れてシノの処に戻ろうとしてたもんね。
「生きるのは、大事な事だ」
「そうかな? 私は、ここで生きていけるのかと不安だよ」
「それだけの力が有れば、何をやっても生きていけるさ」
「望んだ力じゃないし、本当に私の力か実感が無いよ。血も怖いし、生き物を殺すのも怖い」
そうだよね。実感が無いんだよね。魔法は、思っただけで出来ちゃうし、だから肉弾戦って全然やってないし。
シノにボロクソにやられたのがトラウマなんだからね。
「女の子らしいな」
「も~ぅ、真面目に言ってるんだよ?」
うわっ、ここでその言葉は反則だよ。恥ずかしくって照れちゃったじゃない。
「だけどね、これって剣道の試合と同じかなって思ってる」
「試合と?」
「うん、普段練習頑張って、地区予選して、県大会に出て、それで全国大会」
「意味が解らないが、勝ち進んで行くと言う事だな」
「そう。だけどね? 私は、最初から全国大会なんて目指してないんだ。その時その時の一戦一戦で全力を出そうと、そうしろって教えられてた」
「全国大会って言うのが、一番大きい試合って事か?」
「そうだよ。最初からそれを目指している人、それに出るのが当たり前の人も居るんだけど、私は、そんなに大した者じゃなかった。だから一試合一試合に全力をぶつけた」
「それと同じって?」
「今は、右も左も解らない。だから、その時その時を全力で駆け抜ける。それが私の歴史になる」
「強いんだな梓は」
何言ってるんだろ私。混乱してるのかな。
「私は弱いよ。だからシノに頼った。ずっと一緒に居てね」
「梓が要らないと言うまでは、俺も付き合ってやる」
ちょちょちょ、本当?いや嬉しいけど、それってプロポーズ? じゃないよね。
「うっわぁ~、そんな気障なセリフ似合わないよ? でも今日は許してあげる」
「許すってなんだよ。だが、一つだけ言っておく。これで良いんだと自分だけで勝手に決めるな。梓には、姫さんもターニアもリンもベルも、そして俺も居る事を忘れるな」
ん? 何が言いたいんだろ? 私は一人じゃないって事を言いたいのかな? やっぱり優しいんだ。
「ねぇ、こっちって、重婚認めらてるの?」
「重婚って何だ?」
「奥さんを一杯持つ事」
「結婚するのは一人だな。王族とか貴族とかは、側室を持って居る奴も居るけどな」
流石に重婚は認められてないか。
「むぅ~、社会的にはミラかターニャと結婚するのがベストって事ね」
「梓が結婚するのか?同性では結婚出来ないぞ」
やっぱりお姫様と結婚して玉の輿よね。リンは何かお姫様って言っても、訳有りみたいだし。
「その呆けは、頂けない。まぁ私は、まだ17だし、まだまだ先は長いよね」
「女が17で結婚しないのは、結婚する意思が無い者だけだぞ?聖職者とか騎士とか冒険者とか」
「え? 何それ、ミラだってターニャだってリンだって結婚してないじゃん」
「ターニアは聖職者だったしリンは騎士だし、何よりあいつ等は長命種だから別だ。ミラは、まだ15ぐらいじゃないか?」
「ちょちょちょ~っとお待ちを。ミラが15? 長命酒って何、長生きするお酒?」
「おいおい、何混乱してるんだ。長命種ってのは300~500年ぐらい生きる種族だよ。ターニアやリンの本当の年齢は、聞かないと解らないぞ」
「が~~~ん。ちょっと年上ぐらいかと思ってたのに。あ、じゃぁ、二人が胸が大きいのは気にしないで大丈夫だね。げっ15のミラに負けてるって事? ショック」
「何故、そこに行き着くのか解らないが、それは個人差だろ」
ああ、もう混乱の極み。考えている事がそのまま口から出てる。
「うぅぅ、これは由々しき問題だ」
「何がだよ、梓は、もう冒険者なんだから、気にする必要ないだろ?」
「気にするわよ。私はまだ、花も恥じらう乙女なの!」
「冒険者は、気が向いた時に結婚引退は、結構あるぞ?」
「そ、そっか、キャリアウーマンみたいな者なのね。解ったわ」
「よく解らないが、結婚したいなら、男見つければ良いだけだから、そんな気にする事ないぞ。梓可愛いし、いくらでも相手は居るさ」
「え?え?可愛い?本当?」
「あ、ああ、本当だぞ。ベルに聞いても良い」
「じゃ、じゃぁ、俺はそろそろ寝るからな」
「私も寝るぅ~」
きゃっ可愛いって言われた。って逃げるな。逃がさないんだから。
「むぐっ!」
「おやすみ」
唇を奪ってやった。本当は男から来る物だぞ? 私の大事なファーストキッスなんだからね。取り敢えず唾付けたっと。
お陰様で総合評価も100pを超え、皆様のご愛好に感謝致します。
明日(1/5)で休みも終わりますので、更新速度が低下しますが、今後とも宜しくお願い致します。