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全ての始まり

短編の『現実はそんなに甘いもんじゃない』を連載にしました。

1話目は短編と同じ内容です。

女の子なら1度は”乙女ゲーム”という単語を聞いたことがあるだろう。

ヒロイン=自分と脳内認識し現実にそんな奴いねぇ!!という程のスペックを持った男たちに愛される

夢のようなゲーム。誰もが憧れるそんなゲームだ。

ただし勘違いしないでほしいのは全ての女の子が乙女ゲームを好むという訳ではないという事だ。

中には『ゲームで恋愛とか意味解んない』『ゲームは所詮ゲームじゃん』などと存在否定する子も多い。

もちろん、私もその部類に属する人間である。ゲーム大好きで小学生の時からゲーマーを自称する私でも乙女ゲームには手は出さなかった。もっぱらRPGやアクションを毎日やりつくし『指いてー』と呟く日々を過ごしていた私だったがある日、何を思ったか乙女ゲームを購入してしまった。単なる好奇心からか

買ってしまったのだ。ゲーム機にソフトを入れ起動させチュートリアルを終え物語が始まりゲームに集中した。・・・・・・・・・・・・・・・結果10分でコントローラーを投げ捨ててしまう事になるなんて

誰が予想しただろう。画面にはイケメンな男の子、投げられたコントローラー、鳥肌を立てる女子高生。

意味不明な構図である。そして私は呟いた。



「・・・・・・・・きもい。いや、ない。無理、恥ずかしい。なにこの罰ゲーム」



開始早々声優さんが喋るセリフに耐えられなくなり音声OFFにして頑張った私。それでも心の中で

”ねぇよ!””なんだ、その展開””はぁ!?おま、そんなの自分でやれよ!!”と突っ込み続け最後には思わず大声で叫んだ。『そんな女いねぇよ!!!!!』と。

いや、まさかヒロイン設定がここまでとは思わなかった。まさかこんなにイラッとくるなんて!!

そうか、問題は攻略対象ではなく自分の分身だったのか・・・・・・。

新たな発見と共にその日以来私の中から乙女ゲームは関心ゼロとなり購入したソフトも翌日に売ってしまった。そうして乙女ゲームと私の人生が交わる事は2度とないなと深く思ったのである。










「・・・・・・・・・・・そのはずだったのになぁ」



皆様初めまして。ワタクシ小柳皐月こやなぎさつき改めフィーリアナ・クシュターナと申します。

誕生日を1月後に控えた15歳のとある国の令嬢です。・・・・・・・・・・なんでやねん!!!!



「お嬢様?どうなさったのですか?」


「あぁ、何でもないのよ、それよりお父様たちはまた?」


「はい。奥様とお二人で・・・・・」


「そう。なら、貴方達もお父様達が戻ってくるまでは休みを取りなさい。ワタクシは後は寝るだけですか ら特に用もありません。メイド長の指示に全て任せると伝えて頂戴」


「はい、解りました」



頭を下げて部屋を出ていくメイドを見届けてから大きな溜息をつく。ほんとに、なんでこんなことに。




私は何処にでもいる普通の社会人だ。いや、だった。高校卒業後、調理の専門学校に行き料理人として働いてキツイ仕事にも負けずにネットとゲームを愛するプチ引きこもり生活を楽しんでいた。なのに、ある日目が覚めたら赤ん坊だったのだ。もちろん最初は気づきもしなかった。朝目覚めて違和感。あれ?天井こんなんだっけ?起き上がろうとして起き上がれない体。時間を確認するために枕元にある携帯に伸ばしたはずの手。けれど私の目に飛び込んできたのは小さな小さな手。ぱちぱちと何度も瞬きをしてその手に触れようと腕を動かした、ら、なんとその小さな手が動いたのだ。あれ?そう思ってもう一度同じ動作をやってみた。その小さな手に触れようとしたはずの私の腕は見当たらなくバタバタと動く小さな手。この時私は閃いたのである。『あ、これ私だ』と。

恐るべきオタク脳。あり得ない現実をさらっと理解・・・・・いや、認識し同時に私が赤ん坊だと言う事も気付いた。『うわー、なにこの設定。逆行?違うな、若返り?』と冷静に考えていた自分が恐ろしい。

こんなんだから友達に『皐月って自分に関心ないよね』なんて言われるんだ。違うよ、マイフレンド。私は自分に関心がないんじゃなくてテンションが低すぎて他の人より感情表現が乏しいだけなんだ。そう心の中で言い訳しつつ(この時点でパニクッてたな、今考えれば)現状を打破するために誰か来るのを待ち続けた。しばらくしてドアが開く音がして靴の音が近づいてきて私の視界に1人の女性が現れた。その女性が着ている服を目にした瞬間、私は初めて”ヤバい”と思ったのだ。だって金髪でメイド服を着て私に向かって『お嬢様』などと口にする人間は日本圏には絶対いないであろう存在だったからだ。日本には某電気街でしかお目にかかれないんだよその職種は!!!これ、まさかの異世界トリップじゃない?なんて面倒な事に巻き込まれたんだ!!ギャーギャーと泣き始めた私を慣れた様子であやすメイドさん。三十路間近の一般人に起きた奇想天外な出来事に絶望した初日。それが私がワタクシになった瞬間だった。





「特に変化はなさそうね・・・・。とりあえず、こっちは大丈夫か」



1人部屋に籠り届けられた書類に目を通す。そして、また溜息。15歳の子がなんでこんな苦労してるのかしら。一応貴族のお嬢様なのに。王子様の婚約者候補に名を連ねる程の地位なのに。私の時にはなかった気苦労だわ。けれど見ないふりはできないから。

フィーリアナは貴族の家に産まれた第一姫だった。容姿の良い両親の遺伝子を見事に受け継ぎ国でも5本の指に入る美しさだと誉めたたえられている。小説に出てくるお姫様の容姿を褒める言葉がそのまま当てはまる程の美しさは両親を満足させ、会えば誰もがフィーリアナを美しいと称賛する。3歳下の弟と並べば人形のようだと美しい姉弟に見惚れる大人たち。その光景はこの国では日常だった。

フィーリアナが綺麗な世界しか知らない子供であればとても幸せな子供時代であったのであろう。だがフィーリアナは皐月でもある。皐月は世界が醜い事をよく知っていた。だから世間知らずのお嬢様で在り続ける事に苦痛と罪悪感を感じていた。当然だ。生きていくことの大変さなど働いた事がある人間からすれば誰だって解る。まして自分は最低の生活が必ず保障されている国で育ったのだ。この箱庭の外が自分の見た事もないであろう世界である事は想像できるのだ。貴族と言うだけで贅沢に生きる自分がフィーリアナは耐えられなかった。だから彼女は小柳皐月の知恵を利用したのだ。

フィーリアナの両親はある意味典型的な貴族様だった。贅沢に生きて美しいものを集めて美味しいものを食べて自分達が幸せならそれで良い人達。嫌いじゃない、愛してくれるし大好き。でも尊敬はできない。

攻略は簡単だった。2人は他人に良く見られて自分達が優位に立つことに喜びを感じるから其処を上手く利用した。こうすれば民は王さまよりも父上と母上を尊敬するわ、そうしたらこの国で父上と母上の名前は偉大な形で残るわ。子供の戯言をすんなり受け入れてしまう悲しさに感謝して2人の名前でさまざまな事をした。例えば孤児院を設立して住む場所がない子、犯罪に手を染めないと生きられない子の居場所を創った。例えば学校を作って誰でも平等に学べるという事を認識させた。学問を学ぶためじゃない、そんなもの一部の人間にしか必要じゃない、だから手に職をつけさせるための学校。将来の選択肢を広げさせるための学校。未来への投資としてもちろんお金は取らない。例えば農家の人間のために流通ラインを確立した。貴方達がいるからワタクシ達は飢え死にしない。それほど凄い事をしているのだと誇ってほしかったから。例えば、例えば、例えば、そうして10歳から始めたワタクシの罪滅ぼしは5年たった今では当たり前になっている。クシュターナ家の名は他国にまで広がり、民は両親に感謝をしている。一部の人しか恩恵にあずかってはいない。けれども根付かせる事が大事。だからワタクシは今も歩みを止めることはしない。人を救いたいなんて思っていない。ただ、ワタクシが罪悪感を抱く事がなく生きれる環境が欲しいだけ。ただ、それだけのためにしてることだから。



「犯罪率を減らすためにはどうするべきかしらね・・・・・・」



自警団からの報告書には最近、貴族を狙った盗賊が頻繁に現れているので気をつけてくださいという言葉。そういえば、叶うことなら自分達がこの家を守りたいっていってたわね。盗賊ねぇ。それも頭を悩ませる行為だけど問題はそれだけじゃないのよね。本日何回目かも解らない溜息をつくと部屋の外からガシャーン!!!!と大きく何かが割れる音と誰かの怒る声が聞こえ再び溜息をつく。



「・・・・・・・・また、あの子ね」



今はこの家の主人はワタクシなんだから問題が起きてる場所に行くべきなのだろうけど体は動かない。メイド長もワタクシが来ない事を解ってる(それも含めてよろしくと言う事ですし)だろうから彼女に任せて被害が少ない事を祈るしかない。



「だからヒロインは嫌いなのよね」



ドジで天然で一生懸命やっても空回って。それでもいつも笑顔で頑張って。それを魅力だという男たち。全く理解できないその思考。仕事に関して注意すれば妬んでるんだろうと言われ仕事仲間から注意されればお前は悪くないとみんなで慰め、必要がないからクビにしようとすれば泣いて頑張ると訴えそれを応援する愚かな男ども。頑張っても結果がでなきゃ意味ないでしょう?どうして解らないのかしら。同じ仕事をこなしてる人間を馬鹿にしてるのかしら?あぁ、本当に不必要な子。



「もしかして、この盗賊も攻略対象とか言うんじゃないでしょうね・・・・」



王子様に騎士。幼馴染に仕事仲間。いったいどれだけいるのかしら。知りたくもないけれど。



「本当、あの子さえいなければ幸せなのに」



成長するにつれ、どっかで聞いたことがある名前だなって思いだしてきて。ハッキリと解ったのは1人の少女がメイドとして働き出した時。雑誌で見た新しいゲームの情報。興味ないけど絵が好みだったから思わず内容を読んでしまった恋愛シュミレーションゲーム。孤児院育ちの女の子が幸せを掴むというありきたりな内容。絵を見るためだけにプレイする価値はないなとその場で関心を捨てたあのゲーム。そのヒロインが目の前に現れた時に全て思い出した。『ワタクシ、悪役かよ!!』そう心で叫んだのはしょうがない。フィーリアナ・クシュターナ。15歳でヒロインが働く家の令嬢。我がままで自己中。自分が一番愛されていないと許せず王子に恋をしていて王子に好かれているヒロインを虐める嫌な女の子。以上、ワタクシの設定。え、え、えぇ~。いや、15年生きてきて今更人格は変えられないでしょう?そんな事しらなかったんだもの。ゲームでのクシュターナ家と言えば娘を王妃にするためにどんな手でも使うあくどい感じだったけど真逆なのよね、実際。ワタクシの罪滅ぼしの所為で現在この国で一番の人気を誇ってますもの。ワタクシはもちろん、弟も凄い人気なんですのよ?父上も母上もパーティに呼ばれ過ぎてほとんど家にいませんもの(今日もですけど)それほど、我が家と交流を持ちたい家は多いのです。国内外問わず。そんなワタクシが今更嫌われ役は無理なんですよね・・・・・。しかも王子に恋って、ない。

幼いころ何度かあったけれど何の興味もなくて顔を覚える気もなかったぐらいなのに。



「・・・・・・・・・・・・まぁ、悪役1人いないぐらいで何も変わる事ないでしょう」



早く誰か射止めてさっさとこの家から出て行ってほしいわ。切実に。こっちはする事いっぱいあるのだから。ワタクシの世界にいらないのよね、ヒロインは。




この時は思いもしなかったわ。まさか、ワタクシの罪滅ぼしがフラグ立たせまくっていたことに。しかも回収する気なくても回収しなざる終えないぐらい日常に潜んでいただなんて・・・・・。

恐ろしい、恐ろしすぎるわ乙女ゲーム!!!




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