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鉄の青年
周防 美咲は、本日の教材を全て鞄に詰め込んで帰宅準備をせっせと仕上げていた。
教室に人の姿はまばらで、友人の香苗や梓もいない。
今日は真っ直ぐ帰るという選択肢が強制的に浮かんでくる。
(あ……フェラム、まだいるのか)
柊 瑪瑙。クラスの男子だ。
彼は帰宅の用意もせずに、黙々と読書をしている。
周りでは数人の男子が話しているが、それに混ざろうという気配もない。
常に空気の様な、淡泊な印象しか与えない柊 瑪瑙。
常に何者にも混ざらず、なれ合おうともしない性格から、貴金属の鋼と呼ばれている。
合成水銀とは決して交じらない。
(……変な奴)
美咲はショルダーバッグを掛け、教室を後にした。