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「――というわけで、入学式を終わらせていただきますわね。みなさん、これからの学園生活、思う存分満喫してください~」
入学式は、何事もなかったかのように閉幕された。
あのあと、大急ぎで戻ってきた先生方の魔法によって、ボロボロになっていた体育館はいとも簡単に修復された。それもほんの一瞬で。
魔法ってやっぱりすごいわ。
学園長さんがドラゴンになって暴れるのは毎年のことらしく、先生方はてきぱきと修復を進め、生徒たちを体育館に戻し、もとの姿に戻って寝息を立てていた学園長さんを起こし、数分後には式の続きが始められていた。
さすがにちょっと呆然としてしまったけど、あの騒ぎも含めてすべてが入学式のイベントだったみたい。
お母さんが言ってた「驚く」っていうのは、このことだったんだ。
やがて式も終わり、カリンちゃんが息をつく。
「ふ~、さすがに疲れたに~」
「そうね。でも、どうにか鎮めることができてよかったわ。生徒たちでどうにもできない年は、学校全体が燃え尽きるまで先生方は手を出さないみたいよ」
「え? レイちゃん、知ってたの!?」
「うふふ。実はお姉様がこの学園の卒業生なのよ。本当は話しちゃいけないことらしいのだけれど、無理矢理聞き出しちゃったわ」
……どんな手段を使って聞き出したんだろう……。
それはともかく、知ってたなら教えてくれてもいいのに~。
「あの……さっきは、ありがとう……」
そんなあたしたちに遠慮がちな声がかかる。
さっきのおどおどした子――セイカちゃんだった。
「同じクラスの子だったのね~」
あたしたち三人は改めて自己紹介し直した。
「セイカさんがいてくれたからこそ、あんなに上手くいったのよ。うふふ、頑張ったわね」
なんかレイちゃん、上から目線……。まぁ、いつものことか。
「んふ。ありがと……」
レイちゃんの言葉に、軽く頬を染めて恥ずかしそうにしているセイカちゃんは、この世のものとは思えないくらいに可愛かった。
なんというか、天使降臨! って感じ?
「こうやって知り合えたのも何かの縁だに~」
「うん、そうね! これからも女子四人で仲よくいきましょう!」
あたしはセイカちゃんの両手を取って笑顔を向ける。
「あ……あの、ごめんなさい。えっと、その……ボク、男……」
え……?
ほとんど無意識に、セイカちゃんの全身をくまなく舐め回すように視線を這わせてしまう。
「あらマナ、気づいてなかったの?」
平然と言い放つレイちゃん。
「いや、わちも気づいてなかったのだけどに。ま、べつにどっちでも構わないのだ」
愛美谷学園の制服の上着は、男女ともに同じデザインになっている。
ボタンのつき方が左右逆だけど、ぱっと見では気づかない。……胸が大きく膨らんでいる人なら、一目瞭然だろうけど。
一方、下はどうなのかというと、女子はノーマルスカート、フレアスカート、タイトスカートの三種類から、男子は長ズボンと半ズボンから選べる。
女子は三種類がかなりばらける感じで、例えばあたしはノーマルスカートだけど、カリンちゃんはフレアスカートだし、レイちゃんはタイトスカートだった。
そして、男子はほとんどが長ズボンを選ぶ。
それはそうだよね、高校生ともなれば、スネ毛なんかも気になる年頃だろうし。
もともと男子の少ない学校だから、半ズボンを選ぶ人なんて、いないことのほうが多いらしい。
でも、目の前のセイカちゃんは、半ズボンだった。
半ズボンとはいっても、キュロットパンツ風だから、ぱっと見ではフレアスカートと見分けがつかない。
だからあたしも気づかなかったのだけど。
それにしても……。
あたしは目線をさらに下げる。
……どうしてこの子、あたしより細くて綺麗な足してるのよ~!?
「ほ……ほんとに男の子なの?」
思わずつぶやいてしまった。
そのとき、すっと横から伸びてくる影が……。
「ひゃう!?」
「うん、確かについてるわね」
なんと、レイちゃんが手を伸ばして、セイカちゃんの、その……大事な部分をむぎゅっとつかんでいたのだ!
ふにゃ~、レイちゃんってば、いろんな意味ですごい……。
「いや~ん……」
セイカちゃんは顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
「こら、男ならもっと男らしくするのだ!」
「え~~~~ん」
カリンちゃんのツッコミにも、涙目でめそめそするばかり。
あたしたちの当面の目標は、「セイカちゃんを男らしくすること」になりそうだ。
ちなみに。
あたしの両親は結局入学式には現れなかった。
お母さんの準備が終わらずに大遅刻したからだ。
一応学校までは来てくれたみたいだけど、入学式はとっくに終わったあとだったらしい。
う~ん、やっぱりあたしの親だわ。間違いない。