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「ここ愛美谷学園は、ご存知のとおり、魔法教育にとっても力を入れている学園で~す。うふふ~、そんなこと言うまでもありませんでしたね~。合格したみなさんは、素質のある方々ばっかりでしたものね~。
ですが、基本は何事においても重要なのです。そもそも魔法が発見されましたのは、およそ百年前。それからたくさんの先人たちが研究に研究を重ねて、現在ではごく当たり前な力となっています~。
それでも思いどおりに制御するのはなかなか難しいものです。そのための教育を小学校から行なっているのは、みなさんもご承知のとおりですよね。
義務教育での基礎にとどまらず、高校、大学でも魔法は基本授業に取り入れられてはおりますけれど、その中でもとくに魔法を専門に扱う学校は、この魔法大国と呼ばれる日本でさえも、まだまだ数は多くありませんよね。
ですから数少ない魔法科のある学校に入学を希望する人はあとを絶ちません。そしてこの学園は、日本でも有数の魔法科専門の高校。何倍、何十倍もの難関を乗り越えて、今あなたたちはここにいるのですよ~。
おめでと~~~! ドンドン、パフパフ! 自信を持って、有意義で明るく楽しく、わくわくでドキドキなぷにぷにしたゾクゾクするような学園生活をエンジョイしてくださいね~!」
うわぁ~……ちょっと、というかかなり、というか完璧にというか、到底ついていけない感じだわ……。
だいたい、ぷにぷにな学園生活ってなによ~?
ただ、当然ながらそれでお話が終わるはずもなく……。
「ぷにぷにで思い出しましたけれど~、うちで飼ってる猫ちゃんの肉球がぷにぷにで~……」
なんだか、すでに学園とは関係ない話になってるんだけど。
ともかく、「あっ、そうそう、そういえば~」とか「それから、こんなこともありまして~」とか、そんな感じで学園長のお話は、延々々々々々々々々々々々々々と続いていった。
「飽きたよ~、もう寝ちゃっていいかに~?」
「ダメだよぉ、カリンちゃん。こんなんでも一応、学園長さんのお話なんだから~」
「もう完全に雑談になっちゃってるのだ。一時間以上喋ってるしに~。そろそろわちは限界なのだよ~」
カリンちゃんはほんとに限界みたい。うにゅ~。あたしも限界っぽいけど~。
「あらあら、随分と話してしまいましたわね~。それでは、そろそろ……」
「おっ! やっと終わるかに!?」
カリンちゃんが素早く反応して息を吹き返した。……死んでたわけじゃないけど。
でも、敵(学園長さん)はそんなに甘くはなかった。
「そろそろといえば~、ソロの木というのがあるのですけれど~、あっ、ソロという名前は俗称で、シデ類のことなのですけれどね~……」
お話はやっぱり、まだ終わらないみたい。
「ふふ。学園長だからかしら。……ガクッ、延長! みたいな」
うわぁ、レイちゃん、オヤジギャグ……。
とっても美人で背もすらっと高くて憧れているレイちゃんだけど、こういうところだけはマネしたくないわ~。
☆☆☆☆☆
あれからさらに一時間くらいは経っただろうか。学園長さんのお話は、まだ続いていた。
ざわざわざわ。周囲の生徒たちからも、さすがにざわめく声が聞こえる。
それはそうだよね。いくら校長先生とかのお話は長いってのが自然の摂理だとしても、二時間越えなんて、前代未聞だよ~。
ちらっ、と視線を隣に送る。
レイちゃんは、背筋を伸ばしてしっかりと話を聞いている……かと思ったら、目を閉じて寝てるよ~。
ざわざわざわ。ざわざわざわ。ざわわざわわ。
周りの生徒たちから発せられる私語の音量もかなり大きくなってきていた。
その声は壇上でお話している学園長さんの耳にも届いていたのだろう。学園長さんの顔が引きつっていくのが、目に見えてわかった。
「みなさぁ~ん、まだお話の途中ですよぉ~。静かにしてくださいませんかぁ~?」
学園長さん遠慮がちに、そうお願いする。だけど、周りの生徒たちはまったく聞く気配がない。
「もう限界だよ~」
「うん~、さすがにダメ~」
「おトイレに行くとか言って抜け出しちゃおうかな……」
「うう~、もう少しの辛抱……かなぁ? でも、怪しいとこだよねぇ……」
口々に文句を吐き出す生徒たち。
「いい子だから~、静かにしてね~? お願いよぉ~」
ああああ、学園長さんのこめかみがピクピクしちゃってるのが、この位置からでもはっきりと見えるよ!?
「ふにゅ~、学園長さん、怒っちゃいそう~」
あたしは思わずつぶやいてしまう。
「うるさくなるのも仕方ないと思うけどに~。二時間はないよ、二時間は!」
それに反応するカリンちゃんの声は、周りの喧騒にも乗せられたのか、かなり大きかった。
「わぁ、カリンちゃん、声が大きいよぉ~!」
それを止めようとするあたしの声も、とっても大きかったわけで。
そんなあたしたちの声がダメ押しになったのか、ついに学園長さんはブチ切れてしまったようで。
「静かにせんか、わりゃ~~~~~~~!!」
グオオオオオオオオオオン!
次の瞬間、学園長さんは大きな咆哮を上げながら四方八方に炎のブレスを吹く、なぜか鮮やかなピンク色をした巨大なドラゴンへとその姿を変えていた。