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「マナ……」
ふと気づくと、あたしの目の前には、レイちゃんが立っていた。
その横にはカリンちゃんが並んで、明るい笑顔を浮かべながらあたしを見つめている。
すっと、レイちゃんがなにかを差し出した。
それは……。
「ウサギの、ぬいぐるみ……」
どうして?
あたしの疑問に答えてくれたのは、カリンちゃんだった。
「わちらも、べつに忘れてたわけじゃないのだよ? 大切にしてくれてすごく嬉しかったのだ。でもほら、自分たちで作ったものだから、ちょっと恥ずかしくてに~。不恰好だったし」
「でも、それなら最初からそう言ってくれても……。それに、大切な宝物を汚されちゃったのに、あんな言い方するから、あたし……」
カリンちゃんとレイちゃんの想いはしっかり感じられていたのに、この期に及んでもまだ素直になれなくて、あたしは思わず不満を口走っていた。
そんなあたしに、少し寂しげな視線を向けるレイちゃん。
「マナ、あなたは汚れたぬいぐるみのほうが、わたくしたち本人よりも大切だというの?」
「え? そ……そんなこと、ないよ!」
当たり前だよ。
あたしにとってカリンちゃんとレイちゃんは、何物にも代えがたい大切なお友達だもん。
ここまで来てくれた、セイカちゃんや他の先輩たちだって。
「みんなのほうが大切だよ!」
あたしは、はっきりと答えた。
「ありがとう!」
ぎゅっと、レイちゃんはあたしを強く抱きしめてくれた。
「ふにゃ、レイちゃん、ちょっと痛い……。っていうか、ウサギ、潰れてる!」
「ああ、わたくしとしたことが!」
「きゃははっ!」
みんな、笑っていた。
バカにしたような笑いじゃなくて、心から湧き上がってくる笑い。
「わちも悪かったのだ。ごめんに。これからもよろしく、マナティ!」
「マナティ言うなぁ!」
怒鳴りながらも、あたしは温かい気持ちでいっぱいだった。
「マナ。このぬいぐるみ、前のは汚してしまったから、お詫びとして新しく作ったの。小学生の頃と同じように、わたくしとカリンの合作よ。昨日、あのあと急いで準備して作ったものだから、あまり丁寧な作りではないけれど」
レイちゃんが再びぬいぐるみを差し出す。
「受け取って、くれるわね?」
あたしは軽く頷いて、そのぬいぐるみを腕に抱く。
ふたりの温もりが、伝わってくる気がした。
「あっ、でも、前あげたぬいぐるみの代わりに、ってことじゃないからに?」
「あの頃のわたくしたちの友情と、そして今のわたくしたちの友情を、これからも変わらずに大切にしてもらえたらって、そう思ってるの」
カリンちゃん、レイちゃん……。
「うん、もちろんだよ! ふにゃ~、ふたりとも、大好き♪」
あたしが笑うと、カリンちゃんもレイちゃんも、満足そうに微笑んでいた。
「……ふにゅ~、でも、あたしなにもお返しできないよぉ。不器用だから手作りなんて無理だし、お小遣いも少ないし……」
「バカね。気持ちだけで充分よ。わたくしたちは、マナがいつも笑顔でいてくれたら、それでいいわ」
レイちゃんの言葉に、カリンちゃんも頷いていた。髪留めに結びつけた鈴をチリンと鳴らしながら。
「いい、お友達を、持った、わね……」
早兎子先生も、優しく声をかけてくれる。
「はい!」
今度は素直に答えることができた。
「でも、補習は、続き、ます……」
「ふにゅ~~~~……」
先生は、おどおどした声ながらも、容赦がなかった。
☆☆☆☆☆
「まぁ、わちらは待ってるから、ゆっくり補習するのだよ~」
「ふふ、そういうことだから、頑張ってね」
補習を再開したあたしと早兎子先生をのけ者にして、宴会はしっかりとスタートするみたいだった。
「うふふ~、ポテチはこちらに置いておけばいいかしらね?」
「優しい僕が、ジュースを入れてあげるよ。みんな、どれがいいかな~? オレンジとグレープとアップルがあるよ~」
「んふ、ボク、アップルで」
「私はオレンジをいただきますわ」
はぁ……。みんな、さすがにちょっと非常識かも。
そう思いながらも、全然嫌な気分ではなかった。
「ほら、マナっちも食べるといいのだに~」
カリンちゃんが紙皿に乗せたお菓子類を、あたしの机の上に置いてくれた。
「ちょっと、補習中、なんだから、さすがに、ちょっと……」
「はい、早兎子先生も!」
「あら、ありがとう。うん、たまには、いいわよ、ね……?」
せ……先生……。
そんなこんなで、あたしはお菓子を食べつつ、まったりと補習をするのだった。
「ジュースのおかわり、あるよ~? いる人~?」
「んふ、ほしいです~」
「あっ、あたいは、ビールをもらおうかな。学園長もいるかい?」
「あらあら、うふふ~。いただきますわ~」
「ちょっと雷鳴先生、学校でアルコールなんて……」
「いいじゃない、細かいことなんて言いっこなしですわよ。せっかくの宴の席なのですから。ミナミさんはほんとに頭が固いですわね」
「でも会長! 雷鳴先生はともかく、学園長さんが酔っぱらったら大変なことになるんじゃ……」
「あら、そういえば」
「うわっ、そうだった! 学園長、あなたはビールじゃなくてジュースに変更……って、もう飲み干してる!?」
「うふふふふ~、体が熱くなってきましたわ~、ヒック!」
その直後、教室は巨大化したピンクのドラゴンによって、綺麗さっぱり破壊されていた。
☆☆☆☆☆
破壊された教室は、次の日には先生方の魔法ですっかり修復された。
そして数日後。
無事すべてのテストが返されたけど、あたしは赤点もなく、無事に夏休みを迎えられそうだった。
数学も補習のおかげでどうにかセーフだったし。
でも……。
一学期の終業式の朝、登校中にみんなと合流したあたしは、ある不満を訴えた。
「太った~~~~~~!」
言うまでもなく、原因は補習の日のお菓子やジュース。
紙皿が空っぽになると、カリンちゃんが次々に乗せてくれて、勉強中ってついつい手が出てしまうもので、あたしは思った以上に食べて飲んでいたのだ。
「うきゃっ! 狙いどおりなのだに!」
「ふふ、そうね。もっと食べさせれば、ころころまるまる太ったマナを見られるかしら」
「え~ん! ひどいよぉ~!」
「んふ、やっぱりみんなといると楽しい♪」
「あたしは楽しくないいいいいいいいい~~~~~~~~!」
澄み渡った青空の下、朝の通学路にあたしの叫び声がこだまする。
もう夏はすぐそこまで迫っていた。
話としては全然完結させていませんが……。
とりあえず、一旦ここまでで完結としておきます。
お疲れ様でした。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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