-4-
翌日。
すぐに数学の授業があり、テストの結果が帰ってきた。
昨日の今日なのに、もう採点を終わらせたなんて。早兎子先生、頑張って採点したみたいね。
でも、結果が怖いあたしとしては、もっと遅らせてもらったほうがよかったわ……。
そう、数学は早兎子先生の担当なのだ。
こんなに数学の似合わない先生もいないと思うのだけど。
ともかくあたしは、先生から名前が呼ばれるのを、ビクビクしながら待っていた。
「綾音さん」
「ふぁい」
思わずちょっと声がこもってしまった。
うう、足が重いよ……。
早兎子先生の目の前まで出て、答案用紙を受け取る。
「綾音さん、その、申し訳、ないです、けど、その、補習、します……。放課後、残って、ください、ね……」
ふ、ふにゅ~~~。やっぱり~……。
「は、はい……」
力なく返事をして、あたしは気の抜けたように席に戻った。
それにしても、全員の前で言わなくても……。あたしの点数がひどいってこと、みんなにも知られちゃったよ……。
そして、放課後になった。
「あの、マナさん……」
おずおずと声をかけてくるセイカちゃん。
だけど、
「セイカっち、行こ」
カリンちゃんがセイカちゃんの腕をつかんで、ふたりとも教室を出ていってしまった。
教室には、すでにレイちゃんの姿もない。
補習になったのは言うまでもなく、あたし自身のせいだけど、みんなにもまったく原因がないってわけじゃないのに。
自分からみんなを無視しておいて自分勝手かもしれないけど、みんな薄情だ、なんて思わず考えてしまっていた。
やがて、ドアを開けて早兎子先生が入ってきた。
「そ、それでは、補習を、始め、ます……」
補習が開始され、あたしは先生から渡されたプリントに書かれた問題を、ひたすら黙々と解いていった。
とはいえ、あまり頭に入ってこない。
とりあえず自分なりに頑張ってはみたものの、明らかに間違ってるだろうなと、自分自身でもよくわかってしまっていた。
そんな様子を黙って見つめていた早兎子先生だったのだけど。
西陽が教室に差し込む頃、ふとあたしに話しかけてきた。
「綾音さん、どうか、したの?」
ふにゃ。
ちょっと驚いた。
いつもおどおどしている早兎子先生でも、やっぱり教師だから、しっかりと生徒の様子は見ているってことなのかな。
それでも、
「べつに……」
素直になれないあたし。
そんな応答も予想の範疇だったみたいで、早兎子先生は言葉を続ける。
「そう? でも、イライラしてる、みたい。お友達と、ケンカでも、した?」
意外と鋭い。
他人事のように、そんな感想を持った。
「話して、みると、すっきりする、かも、しれない、よ?」
そう言ってくれる先生の微かな笑顔は、教師らしい包容力を持っていた。
「えっと、実は……」
あたしは、自分でも意外なほど素直に話し始めていた。
じっとあたしの話を聞き続ける先生。
ひとしきり話終えたあたしに、こう尋ねてきた。
「それで、あなたは、どうしたい、の?」
「それは……」
あたしは迷っていた。
仲直りはしたいけど、怒りの念は消えていない。
カリンちゃんとレイちゃんがもう一度謝ってくれるまでは、あたしからはなにもできない……。
と、そのとき。
ガラガラガラ。
突然教室のドアが開く音が響いた。
そこには、みんながいた。