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「入学式の会場は体育館だに~」
「高校生活の記念すべき第一歩だよ~。ふにゃ~、わくわくだわっ!」
「わくわくはいいけど、急がないと。マナが来たのってギリギリだったし、時間ないわよ?」
手を握り合ってきゃいきゃいとはしゃいでいたあたしとカリンちゃんに、レイちゃん冷静な声を向けてくる。
ふにゃ~、そうだった!
門に入るのが間に合っても、入学式に間に合わなかったら意味がない。あたしたちは急いで体育館へと足を踏み入れた。
「あ~、やっぱりわたくしたちが最後のようね。でもまだ始まってないわ」
「一応セーフなのだに~」
「ふにゅ~、でも、ちょっと視線が痛いかもぉ~。早く席に着いちゃおう~」
こそこそと腰をかがめながら、月組の列の最後尾に三つ空いていた席まで向かい、素早く座る。
「ふ~、間に合ったのだ」
「これから入学式か~。ふにゅ~、これで正式に、憧れの愛美谷学園の生徒になれちゃうんだねぇ~。ふにゃ~ん。感激ぃ~♪」
幸せ気分に浸るあたしの声は、思いのほか大きかったようで、
「こら、マナ、声が大きい」
レイちゃんの叱責の言葉とともに、前の席の人にまで抗議の視線を向けられてしまった。
はう~ん、入学初日から、あたしってば変な子って思われちゃうよぉ~。
「変な子なのはもとからだし、今さら気にすることじゃないに~」
すかさずカリンちゃんからツッコミが飛んできた。
ふにゅ~、ひどい~。
それより、さっきもそうだったけど、どうしてあたしの心の声にツッコミを入れられるの~?
「マナの考えてることなんて、顔を見れば一目瞭然なのよ」
レイちゃんがそんな解説を加えてくれた。
ええええ~~~~っ? それはちょっと、嫌かもぉ~。
そうは思ったけど、カリンちゃんもレイちゃんも、つき合いが長いから、よく理解してくれているってことだよね。
やっぱりふたりはあたしにとって大切なお友達なんだと再認識する。
そんなあたしの顔を見て、カリンちゃんもレイちゃんも、温かな微笑みをこぼしていた。
「あっ、入学式のプログラムが貼ってあるに~。どれどれ……」
正面に向き直ったカリンちゃんが、貼り出してあるプログラム内容を読み始める。
「1.学園長のお話」
ふむふむ。
「……以上、終わり」
ふむ……え?
「終わり……?」
「終わり」
きょとんとした目で見つめるあたしに、きっぱりそう言い放つカリンちゃん。
自分でも貼られてある紙を見てみたけど、うん、確かにそう書いてあるね。
「さくっと終わりそうだに~」
なんて思っていたあたしたちの認識は激しく甘かったと言わざるを得ないだろう。
ともかく、入学式のプログラムにある最初で最後の項目、学園長さんのお話は、それからすぐに始まった。
壇上に姿を現したのは、センスのいい、ゆったりとした服を着た綺麗な女性だった。
どう見ても二十代くらいにしか見えないけど、学園長なんていう立場にいる人なのだから、そんなに若いわけはないよね。
そういえば、お母さんの同級生だったって聞いたような。「驚くわよぉ~」なんて言っていたのは、このことだったのかな?
「は~い、みなっさぁ~ん、元気ですかぁ~? わたくしは、とっても元気でぇ~っす! うふふ~!」
……うわ……。なんか、すごい人っぽい。
姿を見て驚き、第一声を聞いて驚き。
お母さんの言っていたことは正しかったんだわ~。
だけどそれからほどなくして、あたしはさらに驚くこととなる。
学園長さんのお話は、超すごくとってもとてつもなく果てしなく限りなくこの世のものとは思えないほどに、長かったのだ。