-3-
次の日の朝、あたしはいつもより早めに家を出た。
そして、みんなと口を利かぬまま、期末テスト最終日の山場、数学のテストが開始された。
うう、やっぱりわからない……。もっとみんなに教えてもらっていれば……。
って、ダメダメ、そんなことを考えちゃ! あたしはひとりで頑張るんだ!
でも……。ふにゃ~。やっぱりチンプンカンプンだよぉ~……。
そんなこんなで、テストの最終日は、散々な結果が目の前に見えているような状態で終わった。
「マナっち、どうだったかに?」
いつもと同じく、カリンちゃんが真っ先にあたしのそばまでやってきて、声をかけてくれた。
ただ、いつもよりちょっとだけトーンが低い気がした。カリンちゃんでも、少しは気にしてるのかな。
「んっと……テストも終わったから、帰りにみんなでお買い物にでも……」
セイカちゃんは相変わらず遠慮がちに、上目遣いであたしの様子をちらちらとうかがいながら提案してくる。
「そうよ。気晴らしにぱーっと、ね。もちろんマナも行くわよね?」
レイちゃんも、笑顔を浮かべながらあたしに話を振る。
みんな、あたしを気遣ってくれているのはよくわかった。
だけど……。
ガタンッ。
あたしは立ち上がると、机の横にかけてあったカバンを素早くつかみ、なにも言わずに教室を出た。
昨日のことについては、もちろんあたしだって悪いと思っている。
大切なぬいぐるみを汚されたのはすぐに謝ってくれたし、あたしとしても、みんなを許さないつもりなんてまったくなかった。
それなのにカリンちゃん、あんなことを言うなんて……。
小さい頃のあたしは、今以上に、ドジでのろまなカメだった。
はう~、とかふにゃ~、とか言いながら、なにもない平坦な道でいきなり転んだり、ぼーっと歩いてたら他の人とぶつかったり、先生から言われたこともまともにできなくてすぐに泣き出したり。
……今と大差ないけどに。カリンちゃんなら、そんなツッコミを入れてきそうだけど。
ともかく、あたしはいつも泣いていた。
そんなあたしを慰めてくれるのは、いつも、カリンちゃんとレイちゃんのふたりだった。
小学校一年生のとき、あたしたちのクラスには、名前を覚えるためか、全員の名前と誕生日が書かれた紙が貼ってあった。
「マナっち、もうすぐ誕生日なんだに~」
「うふふ、そうみたいね」
そう言ってあたしに笑顔を向けるふたり。
「うん、そうなの~」
誕生日はやっぱり特別な日だから、思わずあたしも笑顔になっていた。
その後、いつもは一緒に学校から帰っていたのに、ふたりは用事があるからと言って、あたしを先に帰すようになった。
考えるのが苦手なあたしは不思議に思いつつも、言われたとおりにひとりで帰った。そんな日々が続いて、あたしはちょっと寂しかった。
そして、誕生日。ふたりはあたしにプレゼントを渡してくれた。
ふたりの「用事」というのは、そのプレゼントの準備だったのだ。
先生に頼んでお裁縫を教えてもらい、可愛いもの好きのあたしのために、ウサギのぬいぐるみを作ってくれた。
ウサギはレイちゃん作、ぬいぐるみに着せてある服はカリンちゃん作。ふたりの合作だった。
まだ小さかったし、先生もそれなりに手伝ってくれたのかもしれないけど、やっぱりちょっと不恰好な出来だったウサギのぬいぐるみ。
それでも、心の底から嬉しかった。
だからあたしは、それをずっと大切にしてきた。
時間が経って薄汚れてきてはいたけど、大切さは薄れたりなんてしない。
あたしの大事な宝物――。
それなのに、カリンちゃんがあんなことを言うなんて。
レイちゃんもそのことについては、なにも言ってくれなかったし。
カリンちゃんもレイちゃんも、もう忘れちゃったのかなぁ……?
あたしのためのプレゼントなんて、その程度のものでしかなかったのかなぁ……?