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拍手をしながら現れたのは、会長さん、ミナミ先輩、流瀬先輩の三人だった。
「ふにゃ、会長さん?」
マナさんが目を丸くしていた。
もちろん、ボクもカリンさんもだ。レイさんはまだ、うつむき気味だったけど。
このタイミングで出てきて、拍手までしてるっていうのは、もしかしてずっと見てたってこと?
そんな心の中の疑問に答えるかのように、会長さんが口を開いた。
「おほほほほ。素晴らしかったわ、セイカさん!」
会長さんは、がしっとボクの両肩をつかんで笑顔を向けてくる。
ふわっと、いい香りがした。
至近距離で見つめられて、ボクは思わず考えていた。この人、外見だけは完璧なお嬢様っぽいのになぁ、と。
内面を知っている人にとっては、プラスマイナスゼロ、ううん、むしろマイナスと言ってもいいくらいだろうけど。
それはともかく、会長さんはボクの肩をつかんだまま喋り続けた。
「実は今回のイベントには、別の目的があったのです。今年は新入生が四人も入部してくれて、とても嬉しい限りなのですが、どうしても心配なことがありましたの。それが、セイカさん、あなただったのです」
「え……ボク、ですか……?」
ボクの肩から手を離すと、会長さんは、ゆったりと歩みながら話を続ける。
「四人とも、ひと癖もふた癖もある感じではありますけれど、見所のある人たちです。それは間違いないと思っていますけれど、セイカさんに関しては、少々人に頼りすぎな部分があるようで、ずっと気になっておりましたの」
う……確かにボクは決断力もないし、みんなに任せてしまうことが多い。
それは自分でもわかってはいたけど。
改めて他の人から言われると、ちょっと沈んでしまう。
「おほほほ。べつに責めているわけではありませんわ。ともあれ、最初は私も気づかなかったのですけれど、あなたは男の子なのですから、もう少し男らしくなってもいいのではないかと、そう考えたわけです」
くるっと回転して、再びボクのほうに向き直ると、会長さんは手を伸ばしてボクの頬にそっと手を触れた。
「……こんなすべすべお肌をしているのに、男の子だなんて……。うらめしい……」
え? ちょっと、会長さん? 目つきが変わってませんか……?
と、ミナミ先輩がすかさず、会長さんの後ろ頭をバシッと叩く。
「はっ! ……あらやだ、私ったらつい。おほほほほほ」
……つい、って……。
ミナミ先輩が叩いて会長さんを正気に戻してくれなかったら、ボクはどうなっていたのだろう……?
「ともかくですね。私たちは、セイカさんを男らしくしよう作戦を、極秘裏に決行していたのです」
「そ……そうだったんですか……? あっ、もしかして、みんなも知ってたの……?」
ボクはマナさんたちに視線を巡らす。
「ふにゅ? ううん、あたしは知らなかったよ~?」
「わちも、全然知らなかったのだに」
「……わたくしもよ」
同級生三人はみんな、首を横に振った。
「私たち上級生だけで、勝手に作戦を実行していたのよ。ごめんなさいね」
ミナミ先輩が軽く頭を下げる。
分別のあるミナミ先輩でも止めなかったというのは、会長さんがノリノリで、止めても無駄だから気が済むまでやらせるしかないと判断したということなのかな。
「男らしくなるためには、誰にも頼らず自分自身で対処する癖をつけるべきだろうと、私は思いましたの。それで私たちは、セイカさんのあとをずっとつけて、隠れて様子を見ていたのです」
「こそこそと人のあとをつけるなんて、僕の趣味じゃなかったんだけどね~。会長さんの願いとあらば、聞かないわけにはいかないだろう? 仕方なく、加担したってわけさ~」
流瀬先輩……。普段の言動から考えるに、説得力ないです……。
なんて、いくら流瀬先輩相手でも、口には出せなかった。
「このクラスがセイカさんの見回り場所だとわかっておりましたので、魔法で仕掛けを施したのです。ちょうどアジサイの中に潜んでいましたので、カタツムリさんを使わせていただきました。でんでん虫ですから、電気ビリビリが似合うかもということで、私が魔法を使って、放電するカタツムリにしてみたのですわ」
……でんでん虫……電電虫……電気ビリビリ……ってこと?
なんというか、おかしな発想かも……。
会長さんらしいといえばらしいのだけど……。
「まさかレイさんが魔法の上書きをしてしまうとは思いもよらなかったのですけれどね。どうやら放電を促す魔法とレイさんの月魔法との干渉によって、巨大化するなどという副作用が出てしまったみたいですわね。おほほほほほほ」
「笑いごとじゃないのだよ~」
「うにゅ、そうです~。大惨事になっちゃうかもしれなかったんですよ~?」
マナちゃんたちに責められて、会長さんはしゅんと沈んだ表情を浮かべる。
「でも、それをセイカさんが鎮めてくれた」
「そうそう、そうです。まさに、私たちの狙いどおりでしたわ!」
ミナミ先輩のフォローに飛びつく会長さん。すべて計算どおりでしたのよ、とでも言いたそうに、おーっほっほっほと笑う。
背後では、ミナミ先輩が深いため息をついていた。
ともかく、大変なことになりそうだったのはひどいと思うけど、それでも、ボクは会長さんに感謝していた。
だって、自分の力で事態を解決することができたから。
まだまだ微力だけど、ボクだってやればできるんだ。
これからは、もう少し男らしく生きていこう。そう心に誓っていた。
「ま、とにかく、無事でなによりなのだ。ここは『セイカちゃん頑張ったね会』ってことで、甘味処にでも行かないかに? どこかのクラスでやってたよに~?」
「あは、いいね~。セイカちゃん、行こ?」
「うん、もちろん行くよ! 甘いもの、だ~い好き♪」
「レイちゃんも行くでしょ?」
「うふふ、ええ、もちろん」
やっと復活したレイさんも、すでにいつもどおりだった。
こうしてボクは、いつものメンバーを伴って、和気あいあいと甘味処を目指したのだった。