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マナ娘のまなびや  作者: 沙φ亜竜
第4話 じめじめ梅雨にはアジサイマツリ
23/32

-4-

「んふ、みんな楽しそう」


 ボクは、決められた見回り場所へと向かっていた。

 視界に入ってくるクラスの模擬店は、それぞれに大盛況のようだった。

 店員をしている人も、模擬店を巡って買い物をしている人も、みんな本当に楽しそうな笑顔でいっぱいだった。

 思わずボクも笑みを浮べてしまう。


 だけど……。


「みんながいないと、ちょっと寂しいな……」


 昔からボクは、はっきりしない奴と、たびたび言われていた。

 小学校低学年くらいの頃には、いじめられたりもしていた。

 自分でも気が弱いのはよくわかっている。

 どうにかしないと、と思っているのも事実だ。


 とはいえ、そんな急にどうにかできる問題でもない。

 どうすればいいのかもわからない。


 だから今のボクはまだ、気の弱いボクのままだ。

 それを鍛え直そうとしている部分はあるけど、こんな弱いボクを、文句を言いながらも受け入れてくれたマナさんたち。

 本当に嬉しい。


「んふ」


 みんなの笑顔を思い浮かべただけで、温かい気持ちになる。

 そんな温かさに包まれながら、ぼーっと歩いていると、目の前のクラスから騒がしい声が聞こえてきた。


 ちょっと嫌な予感もするけど……。

 でも、見回り場所だし、行くしかないよね。

 ボクはその教室に足を踏み入れた。


「ど……どうしたんですか?」


 教室に入ってすぐの場所に立っていた女子生徒に、ボクは話しかける。

 見ず知らずの人に話しかけるなんて恥ずかしかったけど、これも生徒会としての仕事なのだと自分を奮い立たせた。

 もっとも、わざわざ話しかけるまでもなかったのかもしれない。


 このクラスは古本市をやっているようだけど、本を並べてあるのは、教室の端に配置したテーブルの上だけだった。

 教室の真ん中には、たくさんのアジサイが飾られている。

 そんなアジサイを押しのけるように、ボクの目の前には、でんっと異常な存在感のある、ぬめっとした物体がうごめいていた。


 ぬめっとした上に、巻貝が覆いかぶさったそれは、カタツムリだった。

 ……ただし、全長十メートルくらいある、とっても巨大なカタツムリ……。

 しかも、


 バリバリバリバリ!


 顔と思われる部分から生えた二本の突起――目になるのかな? そのあいだで、激しく放電している。

 いったいこの物体はなんなのだろう……?


「あなた、生徒会執行部の人でしょ? アレ、どうにかしてよ!」

「ええええええっ!?」


 思わず大声を上げてしまって、顔が赤くなる。


 どうにかしてよって……こんなの、どうすればいいっていうの?

 そ……そうだ、誰か呼んでこよう!

 レイさんがいいよね。マナさんでもいいかな。カリンさんもあれで頼りになるんだよね。

 あ……ミナミ先輩のほうがいいかな? ただ、会長さんや流瀬先輩は論外かな……。


「ちょっと! 早くどうにかして!」

「ええっ!? で……でも……」


 教室から出てみんなを探そうとしていたボクの腕を引っ張る女子生徒。


 あうう……、これじゃあ教室から出ていけないよぉ……。

 連絡用の携帯電話とかでもあればいいんだけど、そんなの持ってないし。


 うじうじと考えているあいだにも、巨大カタツムリの放電は続き、さらに激しさを増していた。

 そしてそのカタツムリが、のそのそと動き始める。


「きゃ~~~~~~~っ!」


 生徒たちの悲鳴が響く。

 カタツムリはその声に反応したのか、生徒たちのほうへゆっくりとその顔を向けた。


 バチバチと空気を切り裂くような音はますます大きくなり、放電する光も強く激しくなっていく。

 このままでは危ない。

 それは、いくら鈍感なボクにでも、さすがにわかった。


「ちょっと、なにしてるのよ! はやくどうにかして!」


 そんな無茶な、と思わなくもなかったけど、それでも、ボクは見回りをしている生徒会執行部員なんだ。

 放電までしている、こんな巨大なカタツムリが教室に居座っている現状。

 一刻の猶予もない。

 他の人を呼んでくる時間なんてなさそうだ。


 ここは、ボクがひとりの力でどうにかするしかない!


「お……おい、カタツムリ! お前の相手は、こっちだよ!」


 ボクは意を決して、巨大カタツムリの目の前に飛び出した。


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