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いろいろと不安ではあったけど、ともかくアジサイ祭当日になった。
「うふふ、思ったより随分とまともね」
「そうだに~。ささやかな模擬店っていう制限も、アジサイのイメージに合ってるかもだに~」
「ふにゅ~、なんかまったりでいいね~」
「んふ、アジサイも綺麗~」
セイカちゃんの言葉で、あたしは思い出した。
「あっ、レイちゃん、大丈夫? アジサイ嫌いなんでしょ~?」
「ふふ、心配してくれるのね、ありがとう。でも大丈夫。校舎内に飾ってあるアジサイなら、きっと大丈夫だと思うから」
「ふにゅ~?」
苦手なのって、アジサイの特定の種類とかなのかな?
「ほら、あなたたち。そんなところで固まっていてはダメですよ。生徒会執行部は、見回りの仕事があるのですから。ひとりずつ担当場所を決めてありましたでしょう?」
会長さんがあたしたちに注意を促す。
でもその顔には、これ以上ないほど満面の笑みが張りつけられていた。
生徒会主催のイベントということで、テンションも最高潮まで上がっているようだ。
「全校生徒が、私の手のひらの上で踊っているかのような満足感ですわね~」
……あなたは、生徒会長という役職についていてはいけない人のような気がします。
「マナさん、早く見回りに行きましょうね~?」
ふにゃ~~~っ! 表情で読み取られちゃったみたい。
会長さんのこめかみに青筋が見えるよぉ~。
あたしは、消されないうちに見回りへと向かうことにした。
☆☆☆☆☆
「ふ~。マナっちは相変わらずだったに~」
わちは今、プリントに示された自分の見回り場所を素直に回っているところだった。
クラスごとの模擬店は、ちょっとした喫茶店とか、小物店とか、占いの館とか、いろいろな種類がある。
「でも、いまいち普通な店ばかりで、つまらないに~」
どこでなんの店をやっているのかが書かれたパンフレットでもあればいいのだけど、あいにくそんなものは用意されていなかった。
生徒会長が面倒くさがったからだ。
「どこになにがあるかわからないほうが、サプライズ的要素でいいんじゃありませんか?」
なんて、あとから取ってつけたように理由づけしていたけど。
模擬店は、クラスごとに差はあるものの、それほど大きな規模じゃない。だから数人に店を任せて、他の人は別のクラスの模擬店を巡ることができる。
交代の時間までは、自由にまったりしていいのだ。
「うきゃ! 激辛お菓子店をやってるクラスがあるなんて! ほんとにサプライズを見つけられるとは思わなかったに~」
わちはそのクラスに入り、ハバネロ味のクッキーやら、タバスコチップスやら、五十倍カレースティックやら、心ときめくお菓子類に踊り出しそうなのを必死にこらえていた。
見回りをしている立場のわちではあるけど、実際には他の生徒たちと大して変わらない。
担当場所は決められているものの、見回りしつつ、ちょっとくらいなら持ち場を離れて模擬店を見たりもできる。
「考えてみたら、学校内をひとりで歩くのって、久しぶりだに~」
思えばわちは、いつでも周りにはマナっちやレイっちがいた。この学園に入学してからは、セイカっちも加わって、さらに楽しく日々を過ごしている。
普段からずっとそうだから気にしたことなんてなかったし、それが当たり前だと思っていたけど……。
こうやってひとりで歩いていると、いつもみんながいて、温かい気持ちにさせてもらっていたんだなと実感する。
「……みんなには、感謝しないといけないに~。手作りの超絶激辛クッキーでも用意してあげようかに」
と――。
ドゴーーーーーン! バリバリバリバリ!
突然轟音が聞こえてきたのは、わちがこんな感じでほんわかした気分に浸っているときだった。