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マナ娘のまなびや  作者: 沙φ亜竜
第4話 じめじめ梅雨にはアジサイマツリ
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-2-

「ごきげんよう、みなさん。それでは、本日の会議を始めさせていただきます」


 会長さんの挨拶により、生徒会執行部の会議は開始された。


「ご存知のとおり、アジサイ祭の季節となりました」

「ちょっと待ってください。わたくしたちは知らないです」


 一年生を代表して、レイちゃんがすかさずツッコミを入れる。

 ふにゅ~。さすがだわ。手も早いけど口も早い。


「……マナ……」


 うにゅ~、また表情に出ていたみたい。あたしは素早く目を逸らす。

 レイちゃんのツッコミを受けた会長さんは、一瞬驚いたような表情をしていたけど、すぐにいつもの笑顔に戻して言葉を続けた。


「おほほほほ、そうでしたわね。私の中ではすでに当然のこととなっておりましたので。それでは、改めて……」


 こほん。会長さんは軽くセキ払いをして説明を始める。


「この時期、学校の行事としてはとくになにもなく、ヒマでつまらない日々が続きます。そこで、生徒会主催でイベントをやっちゃいましょう、ということですの」


 思いのほか短い説明だった。

 というか、ヒマだからって勝手にイベント開催なんてして、いいのかなぁ?


「お嬢さんたち、心配はいらないよ。学校というのはもちろん勉強をする場所だけど、それと同じくらい、クラスや部活動を通じてのコミュニケーションも大切だよね。学園長からの許可だってもらっているのさ」

「なるほど、あの学園長さんなら、面白そうなのでオッケーです、とか言いそうだに~」


 カリンちゃんが的を射た意見を述べる。

 うんうん、あたしもそう思う。


「この学園のことが、よくわかってきてるじゃない。そのとおりよ」


 ミナミ先輩も眼鏡の位置を直しながら、真面目な顔で頷いていた。

 そんな仕草もよく似合うわ。

 ただ、このあいだの一件から、ミナミ先輩を見る目もちょっと変わってしまった気がする。

 とりあえず、下の名前だけは絶対に口走らないようにしないとね。


「……それで、あの、アジサイ祭というのは、なにをするイベントなんですか?」


 セイカちゃんが控えめに質問する。


「いい質問ですね、ワトソンくん」

「ワトソンじゃないです……」

「アジサイ祭でなにをするかは、まったく決まっていません。これから私たちで決めるのです」

「つまり、やりたい放題ってわけさ~」


 ゲシッ!

 流瀬先輩には鋭い蹴りがお見舞いされた。

 言葉の内容が違っていたからなのか、それとも会長さんの喋りを邪魔したからなのか。


「さすがに、やりたい放題ってわけにはいかないわ。顧問の許可も必要だしね」


 ミナミ先輩が解説を加えてくれたけど、でも、それって……。


「……早兎子先生の許可なんて、あってもなくても同じようなものなんじゃないかしら? 早兎子先生は強く言えばなんでもOKを出しちゃうでしょ?」

「……そうなのよね。もう少し、しっかりしてもらいたいのだけど……」


 レイちゃんの言葉に頷き、はぁ~、と深いため息をつくミナミ先輩。気苦労は絶えないみたいだ。



 ☆☆☆☆☆



 さて、会議はまとまることなく、ぐだぐだになっていた。

 主に会長さんや流瀬先輩がおかしな案を出し、ミナミ先輩を筆頭にあたしたちも含めて必死で止める、という構図が出来上がっている。


「魔法を使って学校中の教室をモンスターの口にして、怪物に食べられる恐怖を体験するイベントなんてどうかしら?」

「女の子全員が僕をもてなしてくれるってイベントはどうだ~い?」

「誰が一番早く学園長を怒らせてドラゴン化させられるか競うイベントもいいわね~」

「全校生徒で昼寝ってのも、楽でいいかもしれないね~」

「いっそのこと、学園自体を南の島辺りにでもワープさせて、バカンスを楽しむってものアリかしら?」


 エトセトラエトセトラ。

 なんというか、会議なんて名ばかりの、自分勝手な意見の出し合いだった。

 この人たちっていったい……。


「もう、真面目にしなさい!」


 と、いくら温厚なミナミ先輩でも、大声になってしまうというものだ。

 ともあれ、ミナミ先輩が『爆発』したら大変だというのがわかっているからだろうか、その大声が功を奏したみたいで、


「仕方ありませんわね。例年どおりのイベントでいきましょうか」


 明らかに不満顔ではあったけど、会長さんはため息まじりにそう言った。


「例年どおりってのも、わちらにはわからないのだけどに~」

「おほほほ、そうでしたわね。普通すぎてつまらないのですけれど、学園中を色とりどりのアジサイで飾って、各クラス、ささやかな模擬店を出すんですの。プチ学園祭って感じかもしれないですわね」

「梅雨といえばアジサイだしね」


 流瀬先輩もやっぱり不満顔だ。

 それにしても、思ったよりまともだわ。結構楽しめそう。


 あたしたちも、うん、それでいいんじゃないかな~と思い始めていた。

 だけど、なぜかレイちゃんはさっきから黙ったままだ。どうしたのかな?


「……ほら、朝のことを思い出すのだ」


 そっと耳打ちしてくれるカリンちゃん。

 あっ、そうか。


「レイちゃん、アジサイ嫌いみたいだったよね……」


 そのあたしの言葉に飛びついてきたのは、会長さんのほうだった。


「あらあら、レイさん、アジサイ苦手なんですのね。……おほほほほ、なら、この案で決定ですわ!」


 さっきの表情とは打って変わって心底楽しそうな笑顔を浮かべている。

 ふにゃ~、この人、いぢめっ子だぁ~。


 一方のレイちゃんは、そう言われてもやっぱり黙ったまま。

 ふにゅ~、レイちゃん、かわいそう……。

 とはいえ、歓喜に満ちた会長さんに向かって、反対意見なんて出せるはずもなかった。


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