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「マナ、おはよう」
「ふにゅ、レイちゃん! おはよ~」
いつもの通学路で、爽やかな挨拶を交わす。
でも、爽やかな朝、とはいかない。
ここ最近はずっと雨。いったいどれだけのあいだ、お日様の顔を拝めない日が続いているだろう。
梅雨だから仕方がないとはいえ、これだけじめじめとした雨が降り続くと、心までじめじめしてしまいそう。
「マナティなんだから、喜ぶべきじゃないのかに~?」
「にゃ~、マナティ言うな~!」
違和感なくいつの間にか合流して会話に加わってるカリンちゃん。
いつもどおりの朝ではある。
だけど、やっぱりじめじめした日が続くのは、あまり嬉しくない。
「ボ……ボクは雨って、結構好き……。泣いてても、ごまかせるし……」
セイカちゃんまで、いつの間にか合流していた。
好き嫌いはともかくとして、その理由はどうなのよ?
「そういえば、今日の放課後は生徒会の会議があるって言ってたに~」
カリンちゃんの言うとおり、昨日、会長さんから言伝を受けていた。
「面倒だけど、行かないとなにされるかわからないし、仕方がないわよね。……突然長旅に出たりとかしないかしら、あの人」
レイちゃんは今日もブラックでした。
なんか最近、ブラック率が高くなってる気がするなぁ~。
「あっ、アジサイだよ。ふにゃ~、とっても綺麗~」
「んふ、そうだね……。この時期はやっぱり、アジサイだよね」
「季節を感じさせるに~」
こんなじとじとした雨の中ではあったけど、季節のわびさびを感じたからか、不思議と心が安らいでいく。
そんなあたしたち三人の笑顔とは対照的に、レイちゃんは明らかに不機嫌そうな顔をしていた。
「ふん、わたくしはアジサイになんて興味ないわ」
ふにゃ? どうしたんだろう?
レイちゃんは、ああ見えて、お花とか綺麗なものは大好きだったはずなのに。
アジサイだけは、なにか特別なのかな?
「べつにいいでしょ? わたくしにだって嫌いなもののひとつやふたつ、あるわよ」
「……ひとつやふたつじゃないのだよ。とくに食べ物の好き嫌いは、常軌を逸しているくらいだに~」
「う、うるさいわね。のんびりしてたら遅刻するわよ!」
カリンちゃんのツッコミにも、不機嫌に答えるのみ。
ふにゃ~、ほんとにどうしたんだろう、レイちゃん。
「……洗濯物が乾かなくて、不機嫌なのかな……?」
「ふにゅ。でも制服だよ~? 長い休みのとき以外は、洗ったりしないんじゃ……」
「体操着とかジャージとかもあるのだよ」
「あっ、そっか」
「ふん、わたくしの場合、制服だけでも数着は用意してあるし、体操着なら十着以上持ってるわよ」
結局レイちゃんは不機嫌なまま、そして不機嫌な理由もわからないまま、あたしたちは学校に到着してしまった。