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「ギリギリセーフだったみたいだに、マナティ!」
むっ。
振り向くあたしの目に飛び込んできたのは、髪留めに鈴をつけてチリンチリンと音を鳴らしている、小柄な女の子だった。
大瑠璃歌鈴ちゃん。小学校からの幼馴染みだ。
ウグイス・コマドリと並んで美しい鳴き声と言われる鳥、オオルリの名が示すとおりなのか、とっても綺麗な声をしているのだけど……。
ひたすらよく喋る。つまり、うるさいのだ、この子は。
「トーストをくわえながら走ってる姿が、思い浮かぶわよね。ってことで、おはよう、マナティ」
続けて声をかけてきた、カリンちゃんの隣に立っているこの子は、漆原麗ちゃん。カリンちゃんと同じく小学校からの幼馴染みだ。
長身でサラサラと揺らめく黒髪が印象的な美人タイプ。あたしもレイちゃんみたいに綺麗な大人の女性になりたい。
「ふにゅ~。マナティって呼ぶのはやめて~!」
あたしは頬を膨らませる。……こういうところが子供っぽく見られる原因なのかな。
「ふふ。可愛くていいあだ名だと思うけれど」
「うに。マナティのあのふてぶてしい体格と優しげな眼差し、もう最高に可愛いと思うけどに~」
……カリンちゃん、相変わらず微妙な趣味してるわ。
それはいいとして。
「ふにゃ~。マナティは中学で卒業なの~! これからは、普通にマナって呼んでよ~!」
思いっきり駄々をこねながら、あたしはふたりを精いっぱいの鋭い眼光で睨みつける。
「怒った目もラブリーで、マナティにそっくりだに~……って、わわ、本気で怒っちゃやだよ~。わちが悪かった、謝るから許してに~?」
うん、どうにかカリンちゃんはわかってくれたみたい。
若干、強制力を行使した気がしないでもないけど、気にしちゃいけないよね。
「ふふ。ま、本人が嫌がってるあだ名で呼ぶなんて、いじめみたいだしね。マナって呼んであげるわよ」
続いてレイちゃんのほうも、あたしのお願いを聞き入れてくれた。思わず笑顔になる。
「……不本意だけどね」
ちょっと視線を逸らして、そうつけ加えられた。ひと言多いのも、レイちゃんの特徴だ。
レイちゃんの場合、そういう言葉は照れ隠しだっていうのが、あたしにはわかっている。
ほら、視線を逸らしたレイちゃん、微かに頬が赤くなってるし。
でも、高校になってもやっぱりみんな一緒なんだ。
この高校に入学することは聞いてあったけど、実際にこうして楽しくお喋りできると、やっぱり素直に嬉しいな。
クラスも一緒だと、もっと嬉しいんだけどな~。
「ねぇ、クラス分けって、どうなってるのかなぁ?」
あたしの声に、ビシッと指を差すカリンちゃん。
「ほら、あそこの掲示板に貼り出してあるよ~。わちもまだ見てないんだけどに」
「もちろん、わたくしもね。三人で一緒に見ようと思って待ってたのよ」
わぁ~。やっぱり持つべきものは友達だ。
当然ながら、一緒に見たら同じクラスになる確率が上がる、なんてことはないのだけど。
それでも、喜びも悲しみも、なるべく分かち合いたいって思うものだよね。
ふにゃ~ん。やっぱりふたりとも大好き!
というわけで、あたしたち三人は足並みを揃えて、いざ掲示板。笑うか泣くか決戦のときを迎えたのだった!
「大げさすぎだに」
……カリンちゃん、あたしの心の声にまでツッコミ入れないで~。
☆☆☆☆☆
「わちは~……。うに、月組なのだ。ってことは、レイっちとは一緒ってことかに?」
「ふふ、そうね。私も月組。予想どおりって感じだけれど」
この学校のクラスは、月組、火組、水組、木組、金組、土組、日組の七クラスある。
魔法科ということもあり、基本的に魔法の得意な子が入学するのだけど、人にはそれぞれ得意な魔法の属性がある。
属性はたくさんあるけど、七つの曜日にまつわる属性が、主属性と呼ばれて憧れの対象となっているのだ。
そしてレイちゃんは、月属性の魔法を得意とする優等生だった。
主属性の魔法を得意とする生徒は、通常その属性のクラスに配属されるから、レイちゃんが月組なのは予測できたってわけ。
「マナティは?」
「マナティ言うな! ……っと、あった~! あたしも、月組だよ!」
あたしは大声を張り上げてはしゃぐ。
カリンちゃんとレイちゃんと一緒のクラスだ~。よかったぁ~!
「三人一緒だに~。さすが、うちらの腐れ縁は、すごいに~」
「腐ってないもん!」
「ふふ。まぁ、クラス替えのない学校だからね、ここ。ふたりとも、また三年間よろしくね」
「うん、よろしく~!」
こうして、あたしは幼馴染みふたりと一緒に高校生活をスタートすることができたのだった。