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ミナミ先輩たちが去ったあとも、あたしたちには様々な仕掛けが襲いかかってきた。
「どうして、ボクだけ、こんなにびしょびしょで、泥んこになってるんだろ……」
セイカちゃんはうるうるしながら、納得のいかない表情を浮かべている。
でも、それは――、
「運命だよ」「運命だに」
あたしとカリンちゃんの声が、綺麗に重なった。
「ううううう……」
「ま、セイカいじりは、それくらいにして、ちょっと状況を整理しましょうか」
必死に涙をこらえるセイカちゃんを尻目に、レイちゃんが仕切り始める。
仕切りモードのレイちゃんに歯向かうのは、ある意味、死を意味する。あたしもカリンちゃんも、黙ってレイちゃんの言葉が紡がれるのを待った。
「さっきから、わたくしたちを足止めする動きが激しくなってきているわ。ということは……」
「目的の『あるもの』が近い、ということだに?」
カリンちゃんの言葉に満足そうな顔で頷くレイちゃん。
「そのとおり。茂みの奥で先輩方が慌てて動き回ってる音が聞こえるでしょ?」
ガサガサガサ……。
レイちゃんの声でさらに慌ててしまったのか、確かに茂みの奥からは、確かになにやら物音が響いてきていた。
「それにほら、立て札もあるしね」
レイちゃんの綺麗な指が示す先には、その言葉どおり、立て札がたたずんでいた。
すかさずカリンちゃんが立て札の前に出て、書かれている内容を読み上げる。
「え~っと、『この先、目的地』だって」
「ふにゅ、すでにヒントどころじゃないよぉ~」
「んふ、でも、もう少しってことだよね」
「ええ。さぁ、行くわよ、みんな!」
あたしたちは、レイちゃんに続いて走り出した。
☆☆☆☆☆
「よくここまでたどり着いたね。ブラボーだよ、お嬢さんたち!」
茂みをかき分けた先には、ちょっとした空間が広がっていた。
その奥では、木で造られた台座の上に乗った、ひときわ大きな水色の水晶玉がひとつ、まばゆいばかりの輝きを放っている。
あれが、今回の目的となっている、『あるもの』なんだわ。
水晶玉の前に、ずらりと並んだ制服姿の生徒たち。
それは二年生の先輩方だった。全員総出で水晶玉を守っているのだ。
そしてその中央に立つふたりは、流瀬先輩とミナミ先輩だった。
「愛美谷学園二年水組の学級委員、流瀬智樹と、副委員であるミナミ、及びクラスメイト一同、あなた方がここまで無事に到達できたことを褒め讃えたいと思います」
副委員のミナミ先輩が代表して話を進める辺りからも、ふたりの上下関係がはっきり示されているとわかる。
「だけど、こちらとしても、水晶玉を取られるわけにはいかない。奪われたら連帯責任で、クラス全員が一単位落とした扱いになってしまうからね。本気で阻止させてもらうわ」
う……そんなことを言われたら、水晶玉を奪うなんて、できなくなっちゃう……。
そう思ったのだけど、そのあたしの考えを、やっぱりレイちゃんは見抜いたのだろう、叱責の言葉を飛ばしてくる。
「ダメよ。向こうも本気で来る以上、こっちも本気を出さなきゃ、失礼に当たるわ」
「決戦は避けられない、ということだに」
「そういうことだよ。お嬢さんたちを傷つけてしまうことになるのは忍びないけど、これもクラスのお姫様たちのため。罪深いこの僕を、許してくれたまえ」
相変わらずな流瀬先輩に、ミナミ先輩は呆れたような目線を向けていた。
味方といえども、許容範囲を超えていたのだろう。
ともあれ、今は戦いの真っ最中。流瀬先輩への鉄拳制裁は後回しとなったようだ。
ミナミ先輩は軽くため息を漏らしたあと、キッとあたしたちを鋭く睨む。
「最終決戦の時間よ。かかってきなさい!」