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マナ娘のまなびや  作者: 沙φ亜竜
第3話 遠足にはティアーズレイン
16/32

-3-

「……おかしいわね……」


 しばらく山道を進んだあと、レイちゃんがつぶやいた。


「ふにゅ、レイちゃん、どうしたの?」

「さっきの火の玉……茂みの中から飛んできたわ」


 確かに、ついさっきあたしたちに襲いかかってきた火の玉は、茂みの中から飛び出してきて、セイカちゃんに直撃した。


「燃え移ったら危ないのに、どうして火の玉の仕掛けなんて使うのか、ってことかに?」

「いいえ。あの火の玉は燃え移ったりしないように魔法処理されたものよ。だから、直撃を受けたセイカも、無傷だったでしょう?」

「う……うん……」


 レイちゃんの言葉に、仕掛けの被害を受けまくって沈んだ表情になってるセイカちゃんが、力なく頷く。


「熱さと光で驚かすのが目的なのよ」

「ふにゅ~。だったら、いったいなにがおかしいの~?」

「勿体つけてないで、早く教えるのだ」

「あのね。燃え移ったりしない魔法処理って、実際に燃え上がった炎に直接かけないとダメなの。しかも、それほど長い時間、効果が続くわけじゃない。だから、あの火の玉は、わたくしたち目がけて飛んでくる直前に発生した炎ってことになるわ」


 ここまではいいわね? と確認するように、レイちゃんはあたしたち三人に視線を巡らせる。

 黙って頷くあたしたち。


「炎を発生させる仕掛けは作れるでしょうし、それをこちらに向かって飛ばすことも可能だわ。でも、魔法処理を仕掛けで施すというわけにはいかないの。実際にそばにいて魔法を唱える術者がいないと。つまり……」

「近くに魔法を使える人がいるってこと……?」


 遠慮がちに片手を上げて言ったのは、セイカちゃんだった。


「そのとおりよ」


 ふにゃ、そうなんだ~。

 あれ? でも、そうすると……。


「今この瞬間も、誰かが近くにいて、こっちを見てるってこと~?」

「ご名答」


 ザザッ。

 突然茂みの中からふたつの人影が飛び出してきた。


「ミナミ先輩と流瀬先輩!?」


 そう、目の前に飛び出してきたのは、生徒会執行部の二年生ふたりだったのだ。


「くすくす」


 ミナミ先輩は微かに笑い声を上げながら、こちらに視線を向けている。

 その横から一歩前に出て、


「そうさ。それにしても、よく気づいたね~、お嬢さんたち。やっぱり僕が見込んだだけのことはあるってことかな~」


 前髪をかき上げながら、流瀬先輩が満足げな笑みを浮かべていた。


「ちょっと智騎は黙ってて」


 すかさず一喝するミナミ先輩の声で、流瀬先輩はしぶしぶながらも口をつぐんだ。


「くすくす。どうしてミナミたちがここにいるのかわからない、って顔をしてるわね」


 あたしたちを見回すミナミ先輩。


「ふにゅ~、わからないです、説明お願いします~」

「OK。あなたたち、今日は遠足ってことでここに来て、実は魔法訓練だと聞かされたでしょ? それ、一年生の恒例行事なのよ」


 ということは、先輩たちも去年ここで遠足という名の魔法訓練をしたんだ。


「でね、二年生はその一年生たちを迎え撃つ役目を与えられるの」


 え? え? 迎え撃つ!?


「すなわち、一年生対二年生の戦いなのよ、これは」

「た、戦い……ですか……?」


 怯えた視線を先輩たちに向けながら、セイカちゃんが口を開く。


「そうよ。でもそんなに身構えなくてもいいわ。今ここでは、ミナミたちは手を出さないから」

「どうしてそう言いいれるのかしら?」


 レイちゃんが様子をうかがいながら、冷静にツッコミを入れる。


「くすくす、慎重ね。安心して、ここはミナミたちの管轄じゃないの。ちょっと様子を見に来ただけだから。いろいろと教えてあげるのは、ミナミの気まぐれだけど、そうね、あなたたちを狙う存在に気づいたことへのご褒美、ということにしておくわ」


 微笑みを浮かべながら優しげな口調で話してくれるミナミ先輩だったけど、突然真面目な顔になって、こう続けた。


「でも、油断はしないことね。二年生にとっては、一年間学んできたことを発揮して実力を証明しなければならない、重要な行事なの。こちらの管轄する範囲に侵入してきたら、本気であなたたちを排除するからね」


 ふにゅ~。ミナミ先輩の鋭い視線は、静かだけど、内に秘めた部分が見えない感じで、余計に怖い気がするよ~。


「そういうわけだから、ケガ人が出ることもある。それで、養護教諭の雷鳴先生もついてきてるのよ。もちろん、ミナミたち二年生も、なるべくケガはさせないように気を遣いながら相手をするんだけどね」

「なるほど~。なんかもう、言葉も出ないに~。さすがにこの学校は、普通の学校とはひと味もふた味も違うのだ~」


 違いすぎるよ……。

 入学してまだ長くないのに、愛美谷学園のすごさが次から次へと、といった感じで伝わってくる。


「はっはっは。この先も、さらに驚くべきことがいろいろとあると思うよ~、心しておくんだね。あまりに驚きすぎて不安になったら、いつでも僕の胸に飛び込んできてくれていいからね~、お嬢さんたち!」


 ゲシッ!

 ミナミ先輩の一蹴で沈黙する流瀬先輩。その場に突っ伏してしまった。


「黙っててと言ったでしょ?」


 うわぁ、さすがにちょっと今のは痛そうだったよ……。


「くすくす。それでは、ミナミたちはそろそろ管轄場所に戻ることにするわ。あなたたち、せいぜい頑張ってね。……死なない程度に。くすくすくす……」


 不敵な笑みを残しミナミ先輩は去っていった。

 崩れ落ちたままだった流瀬先輩の首根っこをつかんで、ずるずると引きずりながら――。


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