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「それでは改めて、今回の趣旨を伝えるぞ~」
全クラスの生徒が裏山の前に集まったのを確認すると、雷鳴先生が話し始めた。
もちろん最初は学園長さんが話そうとしていたのだけど、「今日は本当にいい陽気ですね~。陽気といえば~……」と、いきなり脱線し始めたところで雷鳴先生が無理矢理押しのけ、話を引き継いだのだ。
学園長さん、いじけてるけど……。
「お前たちには四~五人でグループを組んで山に入ってもらう。あらかじめ学園側で、この山のどこかに、『あるもの』を隠しておいた。それを見つけるんだ。持ち帰ってくることができたら、ご褒美があるぞ」
「あるものって、なんですか~?」
生徒から質問が飛ぶ。
「ヒントは無しだ。ただ、ヒントを書いた立て札を山の中に立ててある。それを参考にしてくれ」
わざわざ、そんなものまで用意してあるんだ。
実は結構気合いの入った行事なのかも。
「んふ、宝探しみたいで、楽しいね♪」
セイカちゃんは喜びが溢れ出しているような笑顔をこぼしている。
そこへ、あたしはすかさずツッコミを入れた。
「『んふ』って笑うな!」
「きゃん! ごめんなさい……」
一応、セイカちゃんを男っぽくしよう作戦は続いているのだ。
……まったく成果は上がっていないのだけど。
「でも、これのどこが魔法訓練なのかに~?」
カリンちゃんが首をかしげている。
「きっと、魔法を使って探せってことなんでしょ。ふふ、腕が鳴るわ」
レイちゃんは、ポキポキと指を鳴らしていた。
「ま、あたいたちはここで待ってるからな~。お前ら、頑張ってこいよ~」
「み、みなさん、き、気を、つけて、無事に、帰ってきて、ください、ね……」
「いってらっしゃいませ~。ませといえば、ませるというのは、老成ると書きまして……」
投げやりな物言いの雷鳴先生、おどおど喋りの早兎子先生、意気揚々と長話を始めた学園長さんを残して、あたしたちは山の中へと入っていった。
☆☆☆☆☆
「らんらんららら~ん♪」
ご機嫌に鼻歌まで歌い始めたセイカちゃん。カリンちゃんも綺麗な声でその歌に合わせている。
実は魔法訓練だ、なんて言われて最初はちょっと身構えていたけど、もうすっかりハイキング気分だった。
ふにゃ~。あたしも思わず笑顔になってしまう。
山に入れば当然のごとく上り坂になって、歩くのがちょっと大変ではあったけど。
周りの木々はそれほどうっそうと茂っているわけではなく、色とりどりの草花で溢れていて、清々しい雰囲気に包まれている。
それだけじゃなくて、可愛い小動物が顔を出したり、綺麗な小鳥のさえずりが聞こえたり……。
暖かな今日の陽気と相まって、本当に気持ちがいい。
「ふふふ、こういうのもたまにはいいわね」
レイちゃんですらも、素直に楽しんでいる様子だった。
ふと、目の前に一本の立て札があることに気づく。
「あっ、これが先生の言ってたヒントかな?」
あたしは回り込んで、立て札に書かれた文字を読んでみた。
「ば・く・は・つ・ちゅ・う・い?」
ドカーーーーーン!
突然立て札は爆発した。
「けほっ、けほっ! ふにゅ~、なによこれぇ~?」
「ふふ、ハズレのヒントもあるってことかしらね?」
あたしたちは、煙にむせ返りながら、爆発で折れ曲がり、焼け焦げてしまった立て札を見つめる。
爆発の規模自体はすごく小さなもので、大げさな煙幕と爆竹かなにかを使った音で驚かせる仕掛けだったようだ。
「うえ~~~~~ん、目が開けられないよぉ~。けほけほけほ」
運悪く煙がまともに目や気管に入ってしまったのか、セイカちゃんは涙を大量に流しながら激しく咳き込んでいたけど。
☆☆☆☆☆
「ひゃうっ!?」
悲鳴を上げてセイカちゃんがズデンと滑って転ぶ。
「いや~ん、ズデンなんて重い音、してないよ~」
セイカちゃんがあたしの心の声に文句をつける。
どうしても、あたしの思ったことは筒抜けになってしまうようだ。
「セイカっちは、基本的に不幸を呼び込む体質みたいだに~。さっきから、仕掛けに引っかかるのは、セイカっちばっかりなのだ」
確かに、危険なものではないとはいえ、さっきから数々の仕掛けに遭遇していた。
そして、まっ先にその仕掛けの餌食となるのは、必ずセイカちゃんだった。
「ううう~。べつに先頭を歩いてるわけじゃないのに~……」
「うふふ、カリンは体質って言ったけれど、実際にそういうのはあるのよ。体質とはちょっと違うかもしれないけれど、魔法属性の影響かもしれないわね」
泣きべそをかくセイカちゃんに、レイちゃんが追い討ちをかけるように解説を加える。
「セイカは風属性だから。風って『ふう』とも読むでしょ? 風を受ける、って言い方もあるわよね? だから、風を受ける→ふうを受ける→ふうんを受ける→不運を受ける、って感じになるのよ」
ちょっと、お得意のオヤジギャグっぽくも思えるけど、言霊って言葉もあるし、確かにそうなのかもしれない。
「運命だと思って諦めることね」
「うえ~~~ん」
さらに泣き声が大きくなるセイカちゃんの様子を見て、レイちゃんはニタニタ笑っていた。
あっ、やっぱりレイちゃん、からかってるだけみたいだわ。
「でも、レイちゃんにからかわれるのも、セイカちゃんが可愛いすぎるからなのだに~」
なんて言いながら、カリンちゃんも笑っていた。
うん、そうだね、あたしもそう思うよ。
そんなわけで、
『運命だと思って諦めてもらおう』
あたしとカリンちゃんの声は、ぴったりと綺麗に重なるのだった。