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パチパチパチパチ!
突然、拍手の音が鳴り響く。
「ふにゃ?」
振り返ると、生徒会室の周りには、大勢の生徒たちが集まっていた。
その人垣の中から、一歩前に出てきたのは、生徒会長さんだった。
「お疲れ様でした」
そのあとに続いて、さらにふたりの生徒が一歩前に出てくる。
「やぁやぁ、やはりキミたちは僕が見込んだだけあって、パーフェクトでグレイトでビューティフルな活躍をしてくれたね!」
片方は、あの流瀬先輩だった。
その横では、眼鏡をかけた地味な印象すら受ける女子生徒が、軽くあたしたちに会釈をしていた。
「これはいったい、どういうことなのかに?」
どうなっているのかわからずあわあわしているあたしとセイカちゃんを押しのけて、カリンちゃんが前に歩み出ると、髪留めに結んだ鈴をチリンと鳴らしながら会長さんを問い詰める。
「おほほほほ、せっかちさんですね」
カリンちゃんの勢いにもまったく動じることなく、こほん、と微かに咳払いをして、会長さんは話し始めた。
「……あなた方のおかげで、今回の事態は治まりました。生徒のみなさんも、あなた方に感謝していますよ」
「うん、ありがとう~!」
「あなたたちがいなかったら、いったいどうなっていたことか!」
「感謝してもしきれないわ!」
「あなたたちは、全校生徒の希望よ!」
会長さんの言葉に促されるように、後ろに並んでいた生徒たちが口々に賛美の言葉を投げかけてくる。
「ほらね。ですから、あなた方に実力がないとか、責任感がないとか、そんなことはないのですよ。生徒会執行部としても、是非とも必要なメンバーですわ」
真剣な眼差しをあたしたちに向けて、会長さんはひと呼吸置く。
そして、こう続けた。
「改めてお願い致します。生徒会執行部に、入ってくださいませ」
わぁ~、こんなに期待されてるんだ~、これは入部するしかない!
……なんて、いくら鈍いあたしでも、さすがに言わないわよ。
これってつまり、あたしたちを入部させるために、あの会長さんがこんな大がかりな茶番劇を仕組んだ、ってことだよね?
セイカちゃんだけは本気で信じているみたいで、「わかりました」と言いそうな目をしていたけど、すかさず背後に立ったレイちゃんがお尻に鋭い蹴りを入れて止めていた。
涙とハテナマークを浮かべたセイカちゃんは、ちょっとかわいそうだったけど。レイちゃん、相変わらず容赦ないわ。
「そのために、わざわざこんなことを仕組んだのかに?」
怒りの表情を隠しもしないカリンちゃんからの声にも、会長さんは平然と澄まし顔。
「あらあら、バレてしまいましたか。ですが、あなた方の力が生徒会執行部にふさわしいということは、これで証明されましたのよ?」
「……目的のためには手段は選ばないというのね。でも、この学校の生徒たちにもですけれど、ウサギたちにも悪いと思いませんの? 魔法で勝手に呼び出したのでしょう?」
レイちゃんも鋭い目つきで冷めた声を放つ。
「あのウサギたちは、先生のお飼いになられているウサギですわ。ね? 早兎子先生」
「う、う、あの、その、ご、ごめんな、さい、です……」
会長さんの声に促されて、早兎子先生が生徒たちをかき分け、泣きながら前に出る。
その顔はもう、涙でぐしゃぐしゃだった。
「わ、私、生徒会、執行部の、顧問を、して、いるん、です……ぐすっ。それで、マユさんに、言われて、飼育してる、ウサギたちを、ぐすっ、使いました、ごめんなさい……」
マユさんというのは、鶯繭魅さん、つまり会長さんのことだ。
それにしても、目的のためには先生をも使うなんて……。
そっか、そういえば早兎子先生の得意な属性って、兎魔法だって言ってたわ。さっき引っかかっていたのは、このことだったんだ。
「あなたたちが、入部して、くれないと、私、困ります……ぐすっ」
ふにゅ~、困りますって言われても。
こっちも困っていると、さらなる非情な声が響く。
「あらあら、こんないたいけな先生を泣かせるなんて、あなた方はなんてひどいのでしょう。罪滅ぼしとして、先生のお願いを聞いてあげるのが筋ではないかしら? 生徒会執行部への入部というお願いを」
むにゅ~、ひどいのは会長さんのほうだよ~。
と、そんな反論をぶつけられる勇気なんて、あたしにはなかった。
早兎子先生、本気で泣いてるし。仕方ないよね……?
あたしは、ちらっとレイちゃんに視線を向けてみた。
レイちゃんは苦笑を浮かべながら首をすくめる仕草を返す。
「……わかりました。わたくしたち四名、生徒会執行部に入部させていただきます」
完全に諦め顔で、そうきっぱりと宣言するレイちゃんの声を聞くと、会長さんは満足そうに頷いていた。
「おほほほほ、ありがとうございます」
満面の笑みを浮かべる会長さん。
そのとき、おずおずと声をかけてきたのは、背後にいた生徒のひとりだった。
「あの……私たちは、これで……」
「あら、あなたたちも、ありがとうございました。もう帰っていただいて結構ですわよ。バイト代はミナミさんから受け取ってくださいね」
え……? 今、バイト代って言った……?
会長さんの背後に並んでいた生徒たちは、ミナミさんと呼ばれた、さっき流瀬先輩の横にいた眼鏡の地味な感じの人からお金(どうやら、ひとり千円らしい)を受け取ると、蜘蛛の子を散らすように去っていく。
残ったのは、あたしたち四人を除けば、会長さんと流瀬先輩、ミナミさん、そしてまだ泣いてる早兎子先生だけだった。
「私たち生徒会執行部一同、総勢三名。あなた方を心から歓迎しますわ!」
さ……三名~!? ちょっと少なすぎじゃない? 新入生のあたしたちのほうが多いじゃないの!
「あと、オマケの顧問、早兎子先生もね!」
「お、オマケ、じゃ、ない、もん……」
早兎子先生、ちょっとかわいそう。
あたしたち、とんでもない部に入ってしまったんじゃ……。
「後悔しても、もう遅いわよ。きっと、会長さんに目をつけられてしまった時点で、運命は決まっていたのね」
レイちゃんが、すっかり観念したように、力なくつぶやいていた。
ちなみに。
生徒会執行部に入ったあたしたちの最初の活動は、学園中に散らばったウサギの捕獲、だった。
そういえば、なぜウサギの鳴き声がセミの声だったのかというと、会長さんいわく、「夏が好きだから」だそうだ。
全然理由になってないような……。
でも、あの会長さんだしなぁ。なんとなく納得してしまう。
それはともかく……。
どうしてあたしたちが、会長さんのしでかしたことの後始末をしなきゃならないの~!?
「ごめんなさいね。あんな人だけど、この学園を愛する気持ちは誰にも負けないのよ。だからミナミは、会長さんについていくの」
不満を抱えるあたしに、眼鏡の二年生、ミナミ先輩が優しげな声でそう話しかけてくれた。
南部という名字だから、ミナミ、なのだという。どういうわけか、下の名前は教えてくれなかったけど。
ともあれ、ミナミ先輩と話していて、あたしの胸に浮かんだ思いはただひとつ。
それはもちろん、よかった、まともそうな人がいてくれて、という安堵感だった。