-4-
廊下に出ると、そこはウサギのサーキットだった。
そう思ってしまうほど、たくさんのウサギたちが駆け抜ける。
教室内で最初に見たときは、普通に可愛いウサギだと思ったけど、さすがにこれだけの大群が押し寄せてくると、脅威以外のなにものでもない。
「ふにゅ~、こんなの、どうすればいいんだろう~?」
「廊下を歩くだけでも危険だに~」
「ボク、もう帰りたい……」
「なに情けないこと言ってるのよ。ほら、行くわよ!」
ふみゅ~、こういうときのレイちゃんは、とっても活き活きしている。
こんな状況をも楽しんでいるみたい。
「でも、ウサギが……」
さすがにウサギの流れに逆らって突撃する勇気はなく、あたしたちの足は止まったまま。
「ウサギだってバカじゃないわ。いくら走っていたって、障害物が目の前に現れたら避けるわよ、こんなふうにね」
すっと優雅に黒髪を揺らめかせ廊下の真ん中に立つレイちゃん。
ドドドドドドドドドドカバキグシャ。
……ご想像どおりというかなんというか。
ウサギたちが通過したあとには、思いっきりぶつかられて廊下に仰向けに倒れ、その上をウサギたちが駆け抜け、無数の足跡がくっきりとついたレイちゃんだけが残されていた。
合掌。
「だ……大丈夫?」
セイカちゃんが心配そうに声をかける。
あたしとカリンちゃんは、いつものことだし、まったく心配なんてしていなかったのだけど。
レイちゃんってば、頑丈にできているみたいで、なにがあってもすぐに復活するのだ。
「ふふふ、ほんのちょっとだけ、失敗してしまったわね」
案の定、すぐ立ち上がったレイちゃんの言葉に、セイカちゃんはなにか言いたそうな視線を向けていたけど、余計なことは言わないほうが賢明だと察したようだ。
「とりあえず、ウサギの流れも収まってきたみたいだに」
「素直に少し待ってればよかったね。そうすれば、レイちゃんも踏まれずに済んだのに」
「ふふふ、わたくしはべつに大丈夫だったのよ? さ、そろそろ行きましょう」
すたすたと歩き出すレイちゃんのあとに、あたしたちも続く。
レイちゃんの足取りはいつもどおりの軽やかさだった。やっぱり復活するの、早いなぁ。
「それで、先導して歩いてるけども、どこに行くつもりなのかに?」
「それはもちろん、音が大きいほうに向かうのよ。元凶となっている場所に一番多く集まってると考えるのが妥当でしょ?」
あのセミの声のような音は、今も続いていた。
そして明らかに大量の鳴き声が、特別教室棟のほうから響いてくる。
さっきのウサギたちが走ってきた方向とも一致するから、それは正しいのだろう。
でも、でも……。
あれだけの大量のウサギよりも、さらに多くのウサギ?
そんなの、いったいどこに集まることができるっていうの?
「確かに大量に集まるだけなら、体育館か校庭だと思うのだけれど、音は確実にこっちから響いているわけだしね」
あたしの考えてることが読めたのだろう、レイちゃんが解説を入れてくれる。
「魔法が絡んでる可能性が高いから、常識なんて通用しないと思ったほうがいいわ」
「それはそうだに。学校内に大量のウサギが溢れてセミの声で鳴いてる時点で、異常なのは確かなのだ」
そんなこんなで、あたしたちは音のするほうへと向かってみた。
そこは――。
「ここ……だよね……」
「そうだに」
「ふにゅ~、ここって……」
「ま、予想どおりだわ」
ドアの上に取りつけられたネームプレートに書かれた文字は、生徒会室、だった。






