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和風テイストで送る(送りたいと思っている)ファンタジーです。

多分(多分?)恋愛要素が出てくるお話になる……予定です。

後々残酷な表現も出てくるかと思いますが、宜しくお願い致します。

執筆はカメの歩みです…。


頑張って書いていこうと思いますので、宜しければ読んでやってください。



 ――ただ、其処に居てくれれば他には何も望まないから。


 そう彼女は言って、微笑んだ。

 さらりと髪を撫ぜるその指はどこまでも優しいのに、凍てついた焔をその瞳に宿していた。

 何故、と唇を動かすと、彼女はまた、ただ微笑む。

 何故?と鸚鵡返しに、けれど、段々と微笑みが薄れてゆく。

 ギシ、と、古い木製の二人を隔てる格子戸が、軋む。彼女の指が食い込んで、爪が白く白く、色を変えた。

 お前の所為よ、と微かな、吐息のような言葉が零れた。

 それは感情をまるで弓の弦のように絞った、恨みを連なり伴った声音だった。

 優しく撫ぜていた髪をギリリと掴みあげ、痛みを口にする暇も与えず、叫ぶ。


 ――お前の所為よ。お前が、お前が生まれてきたから。お前が、力を持ったから!


 何故、なぜ。そう繰り返す彼女の顔は夜叉のようで。それでも、頬を伝う涙が珠のように零れ落ちる様は、ただ美しく思えた。

 彼女は、こんなにも美しいのに、こんなにも心を闇に染めてしまったのか。

 ひとしきり言葉を発した後、彼女は荒くなった呼吸を整えるように、静かに顔を俯かせていた。

 小さく震えるように動く肩が何処までも細くて、あまりにも頼りなさげで。しかし、手を伸ばして触れてしまえばまた彼女の逆鱗に触れてしまうのだろう。それだけは、許されない。


 落ち着いたのか、彼女は長い髪をさらりと揺らして、顔を上げた。表情は、ない。ただ目の前の存在を映しているだけの、瞳。

 彼女の瞳に映っているのは――彼女自身。

 否、彼女の鏡像のように映っている、“もう一人の彼女”。

 彼女と一つになる筈だった、この世界に生まれ堕ちてはならなかった存在。


 この世界で最も、罪深き存在。


 お前は、と、彼女が再び微笑む。表情の無かった瞳に、憎しみと切望が宿る。そう、切望、だ。

 本当は何よりも彼女自身が、望んでいた力。それを持ち生まれ堕ちた、彼女の合わせ鏡。けして交わることのないふたりという存在への、切なる望み。

 ただ、此処に居てくれれば、それでいい、と。

 ずっと、私の為だけに生き、私の影となり、私の為に、死になさい、と。

 日々繰り返される口癖のような言の葉。


 また、来るから。そう紡いだ言葉を最後に、彼女は背を向けた。ギシ、と軋む板張りの廊下は、暗く冷えた空間に乾いた音を響かせ、消えてゆく。

 背中が見えなくなってから、格子戸に彼女がそうしたように指を絡め、ほう、と息をつく。

 微かなぬくもりが残っているだろうかと期待をしたが、それは露のように消えた。この冷たい場所で、ぬくもりなど残る筈がないのだ。


 どうして、こんなにも冷え切ってしまったのか。


 その問いに答える声などある筈もない。ただ、白い息が生まれては儚くとけてゆく。

 そうして、また彼女の来訪を待つ。身を縮めて、丸めて、氷のような床板の上に、横たえた。

 時が刻まれ、日が昇り、月が沈む。繰り返される日々に、もう体は慣れてしまい、心も、何かを求めることを忘れてしまっていた。

 まどろみを覚え、瞼を閉じる。また、一日という日々が、ゆっくりと帳を下して。


『ワタシハ、ココニ、イルヨ』


 小さく呟いた娘の声は、虚空に、散る。



修正ハヤ…タイトルなど修正しました(ぁ

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