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恋人の話

恋人の話


まるで地獄の底から発されているかのような声だった。

そして人はここまで出来るのかと半ば感心するほどに長い、長い咆哮だった。

でも、ずっと続くかのように思えたソレも途絶えた。

それも突然に、不自然なぐらいにあっけなく、終わったのだ。

「ああああ・・・」と消え入るような声が最期だった。

まだ叫び足りないとでもいうような余韻が残って、重い沈黙が場を支配する。

息苦しいぐらいに。それどころか、息もまともに出来ないぐらいに圧倒的な沈黙。

いっそ、この部屋から出てしまいたいぐらいだった。でも、それは出来ない。

こんな状態の愛しい人をこのままこんな部屋にひとり残すわけにもいかない。

この人は悲しい人だ。とても可哀想な人で、とても残酷な人。

自分の事を見ている人がいるというのに、こちらのことなんてまるで気づかない。

こちらのことなんて目にも入らないどころか、認識さえしてない。

とても残酷な人。

なのに、自分は死んだ人のことを思って、嘆き、悲しんでいる。

ひどく、残酷な人。

彼が死んだのは、私も悲しい。

それどころか、彼は私の好きな人だったのに。

なのに、何であなたが嘆くの?

なのに、何であなたが悲しむの?

あなたが殺したのに・・・・・・

あなたより、私のほうが悲しむべきなのに。

なのに、何であなたのほうが悲しいって思わされないといけないの?

あなたが殺したんだよ。

彼を殺したのは、あなた。

あなたが殺したんだ。

あなたが殺した―――。

でも、それはしょうがないんじゃなかったの?

でも、それは終わったことじゃなかったの?

これは戦争なんだから、仕方なかったんじゃなったの?

だからあなたを憎むのをやめたのに。

だからあなたを好きだという気持ちを認めたのに。

だって、彼は敵国のスパイだったんだよ?

彼は私の恋人で、あなたの親友で、

でも、彼はスパイだったんだよ。

あなたは正しかった。でも、間違っていた。

でも、戦争はまだ終わらないんだよ。

あなたは戦争を終わらせる責任がある。

じゃないと、彼が死んだ意味、なくなっちゃうじゃない。

あなたは生きなきゃ。

だから、立ち上がってよ。

戦争を終わらして。

もう、悲しみなんてこれ以上つくらないで。

こんな思いをするのは私だけで十分。

こんな思いをするのはいっかいだけで十分。

だから、戦争を終わらして。

こんな悲しみを、なくして。

だからお願い。立ち上がって。

立ち直って。どうか、悲しまないで。

強く、生きて。悲しまないで。

二人で、幸せになりましょう。

もう、三人には、戻れないのだから。

こんな風に、彼を急き立て、追い詰める自分は、

もう、壊れてしまっているのかもしれない。

彼のような咆哮はしていないけれども、私の方が彼以上に、

取り返しの付かないところまで、悲しみ、壊れてしまっているのかもしれない。


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