1-4: ステータスと知らない称号
朝のフェルミナ村は驚くほど平和だった。
水車が水を刻み、畑が広がり、
家々の煙突から細い煙が立ち上る。
……その平和を壊すように、
村の外れで“派手な音”を連発している男がいた。
俺だ。
冴島大輔、35歳。
職歴――プログラマー15年。
趣味――アニメ、深夜帯。
昨日、初級魔術で森を消し飛ばしたことで、
俺の中に一つの結論が出た。
> 妄想二次元理論は、本当に通用する。
これは冗談や感覚ではない。
再現可能な現象だ。
プログラマー脳が整理する。
現象:
「ファイア」→破壊的威力
条件:
強いイメージ(=二次元)
結論:
世界は“理想像”を採用する仕様
つまり――
> アニメの必殺技=この世界で成立する魔術モデル
この発想が危険で最高で、そして現実的だった。
――だから朝からテストする。
俺は構えを取り、指先に集中する。
> 「《フレイム・ジャベリン》!」
瞬間生成された炎の槍が空を裂いて飛ぶ。
爆発音が森の奥に広がる。
> 「中級魔法っぽい動きだな……なんで?」
いや、アニメだと中級、という発想であるだけで、
この世界の人からすると 「初級魔術」 だ。
でも、俺の中では “かっこよさ”=“威力”。
世界がそれを採用した結果、森がえぐれている。
続ける。
> 「《ライトニング》!!」
青白い火花が炸裂し、空気が一瞬で乾く。
周囲の湿気がかすかに蒸発し、光が森の手前で散った。
自分で言うのもなんだが、
35歳のおっさんが朝からやる訓練じゃない。
だけど。
> 「……楽しい。」
胸を震わせるのは懐かしい感覚だった。
会社では常に“正解”が求められる。
現実では“理想”は削られていく。
でもこの世界では――
> 理想が現実になる。
一度味わったら抜け出せない。
そして、当然やる。
異世界転生アニメで、
主人公が絶対に叫ぶやつ。
> 「ステータス!!」
……沈黙。
風が吹いた。
木が揺れた。
農夫が見ていたら笑われる場面だ。
俺は咳払いして、もう一度。
> 「ステータス!!!」
――視界が割れた。
透明な光のウィンドウが浮かび上がる。
---
【ステータス】
名前 :冴島 大輔
年齢 :35
種族 :人間
能力値:
筋力 :?
敏捷 :?
魔力 :?
耐久 :?
技量 :?
幸運 :?
称号 :大魔道士
俺は硬直した。
> 「……は?」
能力が全て“?”。
値が存在しないのか、世界が測れないのか。
そして――称号:大魔道士。
いやいやいや。
俺って昨日まで“魔術?何それ?”の人だぞ?
プログラマー脳が処理する。
> (?=未定義 or 非公開 or 非測定可能。
いずれにせよ“規格外”。
そして称号が世界側の出力ということは――
世界は俺を“大魔道士”と認識している)
オタク脳が悲鳴を上げる。
> (絶対ダメ!!マジでヤバい!!
魔術理論知らない大魔道士とか死ぬ!!
「魔術とは?」って聞かれたら答えられない!!
“気合いです”じゃ吊るされる!!!)
その通りだ。
昨日まで普通にサラリーマン。
召喚呪文も魔力理論も知らない。
詠唱?文字?魔術書?全部未知。
なのに称号だけ“世界トップ”。
> (これは危険すぎる……)
理論がない強さは――弱さだ。
議論されたら一瞬で破綻する。
俺は深く息を吐いた。
> 「この称号……絶対にバレてはならない。」
理由は単純。
本物の魔術師に絡まれたら“詰む”
理論を聞かれて答えられない
「どこの魔術体系?」で死ぬ
“異常個体”として研究対象になる
つまり、
> 俺は今、“最強の一般人”として生きなければならない。
森は吹き飛ばすけど、心は一般人。
二次元魔法は使えるけど、魔術理論はゼロ。
だから――隠す。
> 「俺は魔術素人です。偶然です。運です。」
これで行くしかない。
ステータス画面を閉じる。
画面は空気に溶けて消えた。
代わりに、現実が重くのしかかる。
> 「……さて。」
森を吹き飛ばしても、腹は膨れない。
昨日はベルトンが飯をくれたが、
今日からは 俺は“旅人”だ。
この世界の貨幣も知らない。
仕事もない。
家もない。
> 「日銭、どう稼ぐ?」
35歳の現実感がここで効く。
魔術が強い=生活できる
……ではない。
生活には飯が必要で、飯には金が必要。
森破壊魔術士でも、財布は空だ。
> 「頼れるのは……ベルトンさんくらいか」
剣士で、冒険者で、
この村の人間事情を知っている。
魔術のことは聞けない。
でも、生活のことは聞ける。
草地から歩き出しながら、
薄く笑ってしまう。
> 「35歳、異世界でもバイト探しとはな……」
そうだ。
どこに行こうと、生きるために働くしかない。
そして、今日の目的は決まった。
> 「簡単な仕事がないか、ベルトンに聞く」
魔術の勉強より先に、腹だ。
生活だ。
ないと死ぬ。
薬草採集でも、荷運びでも、掃除でもいい。
日銭を稼ぎ、少しずつ情報を集める。
魔術理論なんて、それからだ。
俺は拳を握る。
> 「まずは食う。話はそれから。」
森を背に、村へ向かう。
夕日が背中を押した。
――世界は広い。
でも、まずは 今日の飯だ。




