表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強魔術師無双〜二次元妄想理論がガチで発動した件〜  作者: 北風
第1章 コース名 炎の皿〜森の香りと黒い角を添えて〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/29

1-27: 戦場は終わり、村が消える夜

大輔は地面に腰を下ろし、額に付いた土を拭った。

肺の奥に残っていた戦いの空気を、ゆっくり吐き出す。


視界の先――

森の奥から、フェルミナ村の灯りが揺れている。


火だ。

焚き火とランタンの光。

人の生活の色。


風の匂いが戻り、草木がざわつく。

夜が、完全に降りてきていた。


だが――

大輔の足元にあるのは、夜とは無関係な“量”だった。


ホーンディア。

鹿、鹿、鹿、鹿。


数十頭。


倒れ方が揃っている。

胸に小さな穴。

血はほとんど流れていない。

筋肉は張り、皮は傷んでいない。


> 「……あの時の俺、テンション上がりすぎたな」




呟いた声が、森に吸われる。


一頭なら背負える。

二頭なら無理。

三頭なら論外。


これはもう「獲物」じゃない。

村の規模を変える量だ。


戦利品でもない。

独占できるものでもない。


> 「……これ、資源だな」




大輔は立ち上がり、森に向かって大声を張り上げた。


「おーい!!

ベルトンさーーーん!!

人手いるーー!!」


声が反響し、

数分後――森の入口にランタンが揺れた。


走ってくる影。

肩に大斧。


ベルトンだ。


その後ろで、小さな足音が追いかけてくる。


「くそっ……!!

一人で先に行くんじゃねえって言っただろ!!」


息を切らしながら、怒鳴り――

そして、言葉を失った。


ランタンの光が、地面を照らす。


鹿。

鹿。

鹿。


見渡す限り、鹿。


戦場というより、

解体前の市場だ。


「…………は?」


ベルトンの声が、情けないほど小さかった。


ミリアが口を開いたまま、固まる。


「……え……

これ……全部……?」


大輔は気まずそうに頭を掻いた。


「まあ……

“戦闘の結果”というか……」


ベルトンは一頭に近づき、しゃがみ込む。

皮を撫で、筋を確かめ、鼻を近づける。


血の匂いがない。

内臓損傷もない。


料理人が一目で理解する“最良”。


> 「……一頭も無駄になってねぇ……」




声が震えた。


> 「こんな“死に方”、

 狙ってできるもんじゃねえ……」




ミリアの瞳が、ぱっと輝く。


「お父さん!

これ……村のみんなで食べれるよ!!

今日、いっぱい!

いっぱいだよ!!」


その言葉で、大輔は腹を決めた。


ベルトンを見て、

まっすぐ言う。


> 「お願いがある」




料理人に頼む声だ。

冗談の余地がない。


> 「これ、俺の獲物にしないでほしい」




ベルトンが顔を上げる。


> 「村総出で運んで、

 村総出で食おう」




> 「一人で持ち帰る量じゃない。

 これは――この土地の獲物だ」




少し照れたように笑う。


> 「宴会しよう。

 祭だ」




その一言で、空気が変わった。


森の入口から、

松明の列が現れる。


村人だ。


老人。

農夫。

行商人。

職人。

子ども。


誰も寝ていない。


アリサが先頭で走ってきて、息を切らしながら叫ぶ。


「村中に伝えました!!

“鹿の戦士”が帰ったって!!」


大輔が吹き出す。


「だからその呼び名やめろって!」


アリサは真剣だった。


「でも事実です。

村が救われました」


村人たちが鹿を見る。

誰も声を出さない。


沈黙のあと――

誰かが言った。


「……祭だ」


別の誰かが続く。


「村を救った鹿だ。

みんなで食おう」


ベルトンが、大斧を掲げた。


「よし!!

やるぞ!!

ローデ亭、大宴会だ!!」


怒鳴る。


「鍋出せ!!

薪割れ!!

塩持ってこい!!

樽開けろ!!

酒だ酒だ酒だ!!」


森が、一気に動き出す。


縄が掛かり、

男たちが鹿を担ぎ、

女たちが肉を切り、

子どもが角を拾って走る。


鹿は、村へ向かって運ばれていく。


一頭残らず。


ランタンの列が続き、

森から鹿が消え、

夜の森は――空っぽになる。


やがて。


フェルミナ村は、

その夜、人影が一つもなくなった。


全員が、ローデ亭に集まったからだ。


鍋が沸き、

鉄板が鳴り、

肉の匂いが村を満たす。


歌が始まり、

酒が回り、

子どもが眠り、大人が笑う。


大輔は焚き火の前で空を見上げた。


> 「……いい夜だな」




ベルトンが肩を叩く。


「おう。

村が空になるくらい、いい夜だ」


大輔は笑った。


> 「魔術で救ったんじゃない。

 飯作っただけだ」




ベルトンは豪快に笑う。


> 「それが一番強ぇ」




炎が揺れ、

夜が更けていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ