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最強魔術師無双〜二次元妄想理論がガチで発動した件〜  作者: 北風
第1章 コース名 炎の皿〜森の香りと黒い角を添えて〜

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18/28

1-17: この人は、今日も“ご飯”のために魔術を撃つ

朝の空気は冷たい。

フェルミナ村は“森に囲まれた村”だから、朝だけ空気が濃い。

深く息を吸うと、胸の奥が少し痛くなるくらいだ。


ギルドの扉に鍵を差し込む。

まだ誰も来ない時間。

紙を整え、依頼板を更新し、机を磨く。

この静かな時間が、私は好きだ。


今日は――嫌な予感がする。


理由は簡単。

昨日、大輔さんが言った。


> 「新しい魔術できた」




この言葉は危険だ。

この人の「できた」は、普通の人の「練習し始めた」ではない。

昨日は無かった物が、今日には森ごと失くなるレベルで“完成”している。


だから私は、机の上に鎮痛薬を置いておいた。

理由は言わない。

でも必要になる気がする。




扉が開いた。


「本日も晴天なり!」


大輔さんだ。

今日も元気。

少し怖い。

けど――なんだか、楽しそうな感じは伝わってくる。


私は笑顔で迎える。


「おはようございます、大輔さん」


彼はカウンターにずいっと寄ってきた。


> 「アリサちゃん!今日も美味しそうな討伐ある?」




ちゃん付け。

この人、昨日からずっと言っている。

最初はびっくりしたけど――

村では、親しい人はそう呼ぶこともある。


だから、まあ……悪くはない。


ただ、ギルド受付としては言っておきたい。


「……私、ギルドの正規職員なんですけど」


「知ってる!」


知ってるのに言うんだ……。

この人の発想はやっぱり謎だ。




「今日は特別だぞ」


大輔さんが胸を張る。

私は嫌な予感を抱きつつ、恐る恐る聞く。


「……何がですか?」


「雷魔術。新技だ」


はい、出ました。

私の頭の中で鐘が鳴った。


雷魔術。

村では、誰も使えない。

火ですら“焚き火”レベルの人がほとんどで、

水は“水を出せる”だけですごい。

雷なんて――上級魔術師の技。


「雷って……大輔さん、属性は?」


聞いてみる。

魔術は“属性”が必要。

火属性の人は火が使えるし、水属性の人は水が使える。

複属性?

この村では聞いたことがない。


大輔さんは笑った。


> 「任せろ。理論がある」




この言葉、厄介だ。

この人の「理論」は、私たちの“理論”ではない。


「雷って、どうやって?」


大輔さんは楽しそうに説明する。


「土で微粒子を作って、風で高速回転させるだろ? 摩擦で静電気を貯めて、それを水滴で誘導して――」


そこで私は思考を止めた。


え、なに?

風?土?水?

全部使うの?


「大輔さん……属性って、ひとつじゃ……」


「要はイメージだ!」


この人は――本気で言っている。

私は理解を諦めた。

理解できないものを理解しようとすると頭が痛くなる。

だから経験から学ぶ方が早い。


(この人が新しい魔術を言う時は、森が大変になる)


てことは――今日は森に行く気だ。




依頼表を見る。

大輔さんが“美味しそう”と言いそうなのは……

これだ。


「ストライプ・ホーンディア。肉が美味しいと評判です」


すると彼は即答した。


「それ行く!」


即答。

悩まない。

肉の味だけで判断してる。


私は注意する。


「ただし、かなり速いです。普通の魔術では当たらないほど――」


「だから雷だ!」


……そういう理屈?

私はため息をつく。


「村を吹き飛ばすのはやめてくださいね」


「任せろ。ベルトンさんが泣くことはしない」


――あ、それは一番信用できる。


ベルトンさんが泣く時は、大体“食材が消える”時だ。

この人の魔術で一番被害を受けているのは、森でも魔物でもなくベルトンさんの料理だから。




大輔さんは扉に向かう。

右手を上げ、親指と人差し指だけを伸ばす。

銃の形。


……詠唱も杖もない。

それなのに、このポーズを見ると――

なんとなく“魔術”に見えるのは不思議だ。


「今日は雷だ。二次元が現実になる日だ!」


私は言う。


「それ、昨日までは現実じゃなかったんですね……?」


大輔さんは笑って答えた。


> 「昨日は妄想。今日は魔術。」




そう言って出ていった。


扉の外には青空と森。

本当に“晴天”だ。


私は小さく祈った。


> どうか安全に。

どうか森が焦げませんように。

ベルトンさんのシチューが守られますように。




それから――こう思った。


> この人の魔術は、村を変えるかもしれない。

昨日まではなかったものが、今日ある。

それって、魔術よりすごいことだと思う。




雷の朝。

村はまだ知らない。

今日、新しい味が生まれることを。



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