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最強魔術師無双〜二次元妄想理論がガチで発動した件〜  作者: 北風
第1章 コース名 炎の皿〜森の香りと黒い角を添えて〜

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13/28

1-12: 美味しい魔物、募集中

朝、ギルドの前に立つ肖像が、ほんの少し変わった気がした。


「Eランク、おめでとうございます」


アリサが笑顔で言った。

カードには小さく“E”の印字。

これが、最近のホーンラビット討伐の成果らしい。


俺は思わずカードを何度もひっくり返した。


> (ウサギ狩ってたら、ランク上がっちゃった)




異世界らしい成長じゃないが、生活の結果としてのステップアップ。

妙に納得できる。


ランクは上がっても、中身はウサギ専門。

大魔道士の称号なのに、やってることは “ウサギ職人”。


人生、何が起きるかわからない。




気になってアリサに聞いてみた。


「ホーンラビットだけで、ランクって上がるんですか?」


アリサは、胸元に手を宛てて説明する。


「ホーンラビットは、農作物被害がとても深刻なんです。

食べる量も多いですし、繁殖も早い。

討伐が進むと、村全体が助かるんですよ」


つまり――

俺のウサギ狩りは、村の経済を支えていたらしい。


> (俺、もしかして知らないうちに“農業革命”をしてる?)




それはそれで面白い。

魔術の革命じゃなくて、食卓の革命。


アリサは続ける。


「なので、Eランク昇格は当然です。

正直、助かっています」


真面目な声。

少しだけ胸が熱くなった。


戦ってる自覚はなかったけど、誰かの役に立っていた。

それなら、ウサギ狩りも無駄じゃない。




それで、今日の依頼を考える。


俺がアリサに聞いた。


「今日はどうしようかな。

食料になって、練習になる“美味しい魔物”いません?」


返事が返ってくるまでの一瞬、アリサは目を瞬かせた。


この質問、普通は出ないらしい。

冒険者の基準は「安全・危険」だ。

俺は「美味い・美味くない」。


戦闘理由が飯なのは、どうやら異世界的に珍しいらしい。


アリサは苦笑しつつ、紙束をめくった。


「でしたら……少し遠いのですが、“ブラッディパイソン”はいかがでしょう?」


ブラッディパイソン。

名前からして“食べる前に戦う”魔物だ。

血の赤さが特徴だとか、毒を持つ個体もいるとか。

そして――


「行商人を襲って、荷物や食料の輸送を止めるんです。

最近、村に物資が届かないのはそのせいで……」


つまり、ブラッディパイソン=物流の敵。

倒せば、村にパンや香辛料が届く。


「倒すと、美味しいんですか?」


俺の質問に、アリサは目をパチパチさせた。


「えっと……食べた人からは、美味しいって聞きます。

特に骨の近くが……」


骨の近く。

ウサギと同じじゃないか。


つまり――煮込める。

スープになる。

肉が柔らかい。


> (可能性=シチューの新作)




戦闘動機:完全にローデ亭


アリサは少し心配そうに言った。


「でも、ホーンラビットよりは難易度が高いですよ?

体も大きいですし、動きも速くて……」


俺は笑った。


「挑戦してみたいです」


興味が勝った。

飯の力は偉大だ。




外に出ると、空気が少し冷たい。

森へ向かう道が、ほんの少し違って見える。


ウサギ狩りの日々が、今日から少し変わる。

ただ生活するために仕事していたのが、村の物流を守る仕事になる。


俺、人生初の“行商ルート護衛”らしい。


> (美味い魔物を倒せば、村に物資が届いて、俺もシチューが食べられる)




なんて美しい世界だ。


戦いが生活になり、生活が戦いに繋がる。

それがこの村の冒険者の形だ。


今日も魔術を使う。

指を構えて、狙って、“タン”と弾くだけ。


火の玉じゃない。

雷でもない。

詠唱もない。


ただ、“一点だけ壊す魔法”。


ウサギで練習した。

そして今日は――蛇だ。


> 「行くか、ブラッディパイソン。

美味しく頼むぞ」




そう呟いて、森の奥へ足を踏み入れた。


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