1-11: 最近のシチューには秘密がある
―――ミリアのごちそう日記
最近、ローデ亭のシチューが前よりずっと美味しい。
理由は簡単で、ダイスケさんがホーンラビットをたくさん取ってきてくれるからだ。
ホーンラビットは、小さいのに肉の味が濃い。
角のあたりは硬いけど、肩の部分は煮込むとほろほろになる。
パパは「骨の近くが一番旨いんだ」と言う。
ダイスケさんは、いつも成果の半分をパパに渡している。
報酬を全部持って行ってもいいはずなのに、半分くれる。
理由を聞いたら、
> 「訓練させてもらってるお礼だから」
と言った。
つまり、村のために魔術の練習をして、その結果でシチューが美味しくなっている。
何だか、ちょっとすごいことだと思う。
魔術と言えば――ダイスケさんの魔術は、本当に魔術なのか、よく分からない。
だって、詠唱もしないし、杖も持ってないし、魔力の光も出ない。
ただ、指を向けて「タン!」ってするだけ。
本当にそれだけ。
その瞬間、ホーンラビットが「バタン」と倒れる。
矢も飛んでないし、魔術の風も感じない。
でも倒れている。
私は、あまり怖いと思わない。
理由は単純で――そのおかげでご飯があるからだ。
パパは言う。
> 「あれは残す魔法だ」
どういう意味か分からないけど、“消し飛ばす魔法”ではないのは分かる。
昔、森が丸ごとなくなった時は、本当に泣きそうになった。
いや、泣いた。
パパも泣いた。
ダイスケさんも泣いた。
三人で泣いてたのは、今思えば少し面白い。
あの時のシチューは、本当に美味しかったから。
それからダイスケさんは、魔術の力を小さくして、一点だけを壊す練習をしている。
ホーンラビットは速いから、その練習に合っているらしい。
魔術というより、“狙い撃ち”って感じ。
戦っているところを見ると、全部一瞬で終わる。
走っていたウサギが、いきなり静かになる。
音は小さくて、風が少し揺れただけ。
だけど、角も毛皮も傷ついてない。
素材屋のカナトさんは、
> 「あれは職人技だ」
と言っていた。
魔術を“職人技”と言う人は初めて見た。
私は、あれが魔術なのかはどうでもいい。
大事なのは、料理になることだ。
今日のシチューは特に美味しかった。
パパが小さな声で言った。
> 「素材がよくなったから、味も変わる」
それって、ダイスケさんのおかげだ。
訓練と生活が繋がって、結果が料理になって、みんなの笑顔になる。
私は日記に書きながら思う。
> “魔術って、人を助けるものなんだ”
派手に戦ったり、火の玉を飛ばしたり、そういうのだけが魔術じゃない。
今日のご飯を作るために使える魔術もある。
少しずつ、それが分かってきた。
でもやっぱり、気になっていることがある。
ダイスケさんに聞いたことがある。
> 「なんの魔術が得意なんですか?」
そしたら、ちょっと困った顔で笑った。
> 「……内緒かな」
秘密らしい。
もしかしたら、本当はすごい魔術師なのかもしれない。
でも私はそれより――
“明日もシチューが食べられる”ことの方が嬉しい。
だから、魔術の秘密は後で良いと思う。
今日のシチューは、肉がほろっとして、野菜が甘くて、スープが少し白い。
スプーンを口に入れると、全部がふわっと混ざる味がした。
明日も、きっと美味しい。
それでいい。
――ミリア




