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トゥシャの兄王子達

 遠征に出るためアルマを連れて宮殿からでようと廊下を歩いている所に、第一王子セランと第三王子ラウールが前方から歩いてきた。ジルグとアルマは脇によけ、兄達に礼をする。兄達はジルグを一瞥すると「ふん。」と鼻をならした。そしてジルグの後ろに立つアルマをみる。

 「奴隷の神子など引き取って何の役に立つと言うのだ?火の聖紋があるようだが、大した力もないと聞く。所詮は奴隷あがりよ。」

 第一王子セランはアルマを汚いものでも見るような目でみている。セランに続いてラウールも嫌味を言う。

 「奴隷上がりの神子など、どうせ寝所に侍らす以外役に立つまい。」

 そう言って、第三王子ラウールはアルマをじろじろとみると「私の閨に呼んでやろうか?」と揶揄いアルマへ手を伸ばす。

 アルマはラウールの手が伸びると萎縮した。ラウールの手がアルマに届く前にジルグが間に立ち、ラウールの手を止めた。

 「兄上、お戯れはほどほどになさってください。」

 ラウールはジルグにつかまれた手を振り払うと、「こんな貧相な女、誰が相手になどするか。」と言った。セランとラウールは「興が冷めた。我らは今忙しい。」と言い、去っていった。

 ジルグはアルマに「大丈夫か?」と尋ね、進むように促した。

 アルマは奴隷上がりの神子のため、ジルグの兄達からはこうやって時々ちょっかいをかけられる。だが、ほとんどはジルグが側にいるため、嫌味を言われるだけで済んでいる。


 オセアの都の東側、正門から伸びる街道を南に進むとスンバラと言う村がある。その村へ行く道中、付近の村や集落を回りながら、ワイバーンの個体数が増えていれば討伐しに遠征に出るのだ。まずは南東部のジャワ村へ向けて出発する。

 行軍中、食料や武器などを乗せた馬車以外は兵士達は馬で進む。アルマは遠征時はいつもジルグの馬に一緒に乗せられている。アルマも馬に乗れない事もなかったが、魔物が出た時に危険だからと言われ、ジルグの前に乗せられている。

 「今年は数が少ないな。」

 遠征中、ワイバーンの個体数が少ないことにダンが疑問を言うと、ケセルが返事をした。

 「ジルグ様がワイバーン討伐の遠征に出るようになってからは、ワイバーンの巣から卵を減らすようにしています。」

 「孵化する前に個体数を減らしておくという事か。」

 「そうですね。」

 「卵を巣から盗むのは危険じゃないのか?」

 「危険ですよ。」

 ケセルはあっけらかんとそう言ったが、実際に見てみる方が早いと言って笑った。

 ジャワ村付近にある山岳地帯に付くと岩場にワイバーンの群れが居た。山の中腹には平らになった場所があり、そこへ巣を作っているらしい。ワイバーンは習性で地中を掘り、そこへ産み落された卵は一定期間は雌の親に守られる。主に雌が卵の孵化までを管理し側を離れない。

 ジャワ村の守備に回る部隊へアルマを預け、ジルグは山へ上る部隊と一緒に山の中腹まで上り始めた。岩場に足を取られ落下しないように慎重に進む。ワイバーンの巣まで行くと、巣からは一旦距離を取り、兵士達へ指示を出し始めた。

 直径3メートル程度の土の窪みにはワイバーンの雌と、守られている卵が1つの巣辺り5、6個ほどあった。大きさは成人男性が広げた掌くらいの大きさだと言う。巣の間隔は2メートル程度離れており、数はおよそ10くらいだった。

 ジルグは、まず巣に向かって空砲を鳴らし、ワイバーンの雌を上空まで追い払う。その後、巣から卵を奪うと説明した。簡単に言うが、ワイバーンの巣には雌が守っており上空には雄が何匹か旋回していた、ダンはその様子を眺めながらそんなにうまく事が運ぶのだろうかと思った。

 ダンは初めてだろうからとコセフと一緒に空砲を鳴らす係に回された。その際、雑木林に紛れるような迷彩柄の布を渡される。他の兵士達は土の色に近いフード付きのケープを纏ってワイバーンの巣を取り囲んでいる。

 「パーンッ!」

 迷彩柄の布の下からコセフが空砲を打つと、巣の上空で火薬がはじけ、小さな白い煙が立った。巣を守っていた雌のワイバーンが警戒音の鳴き声を上げて上空を旋回し始める。コセフはワイバーンの雌が全て巣から飛び立ったのを確認すると、今度は巣から少し離れた場所に更に空砲を打ち込む。ワイバーン達は2発目の空砲を警戒し、巣から少しずれた位置に旋回し始めた。

 土色のケープを纏った兵士達は、2発目に放った空砲にワイバーンの注意がそれたと同時に巣へ近づき、卵を1,2個残し、巣から残りを持ち出して雑木林へ戻って来た。雑木林へ戻った後は迷彩柄の布の下に待機し、その後は静かに待つ。

 数刻するとワイバーンの雌たちは巣にもどり卵を守り始める。警戒して旋回していたワイバーンが居なくなるとジルグは兵士達に山を下りるように指示をした。土色のケープでワイバーンの巣から取って来た卵を包むと、兵士達は静か山を下り始めた。

 山の麓まで降りるとダンはケセルに質問した。

 「なぜあんなにあっさり巣から卵を盗めたんだ?」

 ケセルは、ダンに説明する。これはジルグが書物や付近の村などで調べたり聞いたりして考えた方法だと言う。ワイバーンは目があまりよくなく、音で敵を捕らえる。その習性を利用して、空砲で巣を守る雌をおびき寄せ、注意をそらす。土色や雑木林の迷彩柄の布を利用するのはワイバーンから地上にいる兵士達を見えにくくするためだと言う。

 「卵をすべて取らないのは?」

 ダンのこの質問に答えたのはコセフだった。

 「全て取れば雌のワイバーンが激昂しますが、1、2個残せば雌は卵があることに安心し、襲ってきません。それに全てのワイバーンを狩るわけにはいきませんからねぇ。」

 ケセルはコセフに続いて説明する。

 「ワイバーンの肉や皮も生活に必要ですから全て狩るわけにはいかないんです。今回は巣が10程度でしたから1,2個卵を残しましたが、5くらいでしたら3,4個くら残すように言われています。」

 「あくまでワイバーンの群れが大きくなりすぎないように対策するだけだそうですよぉ。因みに持ち帰った卵は村に持ち帰った後は売ったり、食べたりします!」

 コセフがそう言うと、他の兵士達は「今日は卵パーティだな!」と笑った。ジルグは馬に乗り飄々とした顔で進んでいた。ダンは狩りばかりしている乱暴者と噂される第四王子を見ながら、噂と事実のずれに驚くばかりだった。

 ジャワ村へ戻ると村の守備をしていた兵士達が迎えてくれた。ワイバーンの卵は近隣では貴重な食材として扱われるそうだ。聞くところによるとかなり美味らしい。村へ持ち帰ると村人たちに大層喜んでもらえ、卵を使った料理を振舞ってくれると言う。ヤギの乳とワイバーンの卵の卵液、砂糖を混ぜたものにカットしたパンを浸して焼く。パンプディングと言うらしいが、滅多に食べられない甘いデザートに兵士達は喜んだ。アルマも表情には出さないが、甘いものに目がないため美味しそうに食べていた。

 その後も、ワイバーンの巣が出来る場所へ行き、孵化前の卵を持ち帰る作業を進める。ジャワ村から更に南に進んだ最終目的地の村、スンバラ村へつくとジルグは村へアルマを残し、そこからワイバーンの討伐へ向かった。

 アルマは村に残るだけでは討伐へ付いてきた意味がないからジルグに付いて行くと申し出たが、ジルグは必要ないと言った。不服そうなアルマへジルグは言う。

 「お前は火の加護があるからな。側にいるだけで体力が回復する。それだけで役に立っているんだ。」

 アルマはよく分からないという表情だったが、ジルグは苦笑いし、そのまま討伐へ向かって言った。


 ひと月弱の長い行軍を終え、ジルグがワイバーンの討伐から帰ると宮殿では側仕え達が傅き待っていた。中央に立ち立礼をとる男性が王妃の間に来るように告げた。ジルグは嫌そうな顔をしながらも王妃の側近について行く。ついて行った先ではジルグの母の王妃と、三人の兄たちが待っていた。

 中央に王妃が座り、正面に第一王子が据わる、その両サイドを第二、第三王子が座っていた。ジルグは兄たちの後ろに座る。

 「お待たせいたしました。」

 ジルグは王妃と兄たちに向かって礼の姿勢を取り、挨拶した。

 「遅かったな、ジルグ。」

 「また飛龍狩りか?お遊びもほどほどにしろ。」

 ははは、と第二王子と第三王子がジルグを嘲笑した。

 「よい、それよりセラン。報告があると聞いているが…。」

 中央に座る王妃がそう言うと、セランと呼ばれた第一王子が仰々しいそぶりで胸の前で手を組み、王妃に礼の姿勢を取ってからしゃべり始めた。

 「トゥシャ国南東部の部族トルント族とザイル族ですが、長きにわたり諍いを起こしてきましたが、この度、双方の部族を訪れ、諍いを平定することが出来ました。また、中々我らトゥシャに従わなかったトルント族ですが、この度傘下に入る事になりました。」

 「おお!素晴らしい。」

 女王は第一王子セランの話を聞き、歓喜の声をあげた。

 「流石兄上だ。」

 「我々も兄上に負けぬよう、精進せねば。」

 第二王子と第三王子も続いて長兄をほめる。

 「残るはログオム族の辺りか…。」

 第三王子のラウールが言うと第二王子のムスルフは難色を示した。

 「しかしあの辺りは密林の奥で集落も小さい。捨ておいても良いのでは?」

 それを聞いていたセランは顎のあたりに手を添えると、意地の悪い顔をして言った。

 「そうだな…。ああ、そうだジルグ。お前、あの辺りへ住んで平定したらどうだ?」

 部族の集落など貧しいところに国の王子が住むなどあり得ない話だが、第一王子のセランは皮肉を込めて言った。次兄たちもジルグに貧しい暮らしをしろとは言わなかったが、セランの言葉に続いて皮肉を言い始める。

 「くく、兄上も意地が悪い。とは言えジルグごときでは部族の平定など難しいでしょう。」

 「そうですよ。飛龍退治しか能のないジルグでは交渉など出来ません。」

 母と兄たちの話が響く中、ジルグはまたこの流れかと辟易していた。長兄ないし、次兄たちが何か手柄を立てる度、こうやって王妃の間に呼び出され褒めたたえ合う。今までもよく見て来た光景だ。そしてひとしきり褒めたたえ合ったのちに始まるのは第四王子の貶し合いだ。

 やれ「兄上を見習え。」だの「ワイバーン狩りごときが手柄に入るか。」だの「もっと頭を使え。」「火魔法もろくに使えない。」と母を交えての兄たちの憂さ晴らしの相手をさせられる。

 弟たちはまだ成人してない事から、この場の席には居ない。だが、成人してこの場に弟たちが同席するようになったところで、話は変わらない。自分たちの功績を目立たせるためには、蔑む相手が必要なのだ。兄たちの皮肉を聞きながら、ジルグは、飛龍の効率的な狩り方を考え、ぼぅっとするのだった。

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