VS魔王
魔王城中心部にて
「報告します、二刀流の剣士が次々に魔王幹部を倒しここに向かってきております、おそらくは勇者であると思われます」
「とうとう来たか、我の心臓に届きうる唯一の刃」
勇者と魔王は必ず殺しあう運命というわけか
「まあ良い、もてなしの準備は整えてある」
さあ来るなら来い勇者よ、我が爪は貴様を八つ裂きにしたいと震え、この舌は貴様の血を欲している、どちらかの心臓が鼓動を止めるまで殺しあおう
生まれて初めての自身の命にも危険の伴う戦い、期待と緊張が交差する数十分ようやくその時はやってきた
扉を開け我がテリトリーに侵入してきた不届きもの、我を前にしながら臆することなく玉座へと近づいてくる人間は想定していたのとは少し違った、想像よりひと回り小柄で生気も感じないぱっと見はただの雑魚にしか見えない、とはいえここまでたどり着くということは相当な実力を持っていることは想像に難くない、油断はすまいと気を引き締め玉座から腰を上げた
「ここまで来るとは愚かな・・・」
「小川、飛ばせ、聞く価値無い」
「その」
「闇の」
「さ」
なんだ、なんだ、何が起こった・・・なぜ勇者はもう剣を構えてる、なにか大いなる力が働いて俺の言葉が強制的に終了させられたぞ、どういうことだ・・・まあいいどうやら勇者はあの世に早く旅立ちたいらしい、ならば片道切符をくれてやるまでだ
「『魔性獄炎却』」
意思を持った黒炎が勇者を包み込み我が指を鳴らすと同時に轟音と共に巨大な火柱を立てる、中心部は二千度近い超高温、生身の人間が耐えれるものではない、しかし煙の中からこちらへと歩いてくる生物がいる、勇者だ
「ば、バカな」
ここまで来れる強者だ死にはしないだろうと予想していた、しかし煙の中から姿を見せるその者はあの業火に身を焼かれながら火傷一つ負っていないのだ
「『暗黒魔竜拳』」
黒い正気を帯びた拳を勇者の身体に打ち込む、その小柄な体格から想像した通り勇者の身体は軽く勢い良く吹き飛んでいった奴は壁を突き破り瓦礫に埋もれている
「痛っ」
殴った拳が僅かに出血している、勇者がなにかしたのか・・・いや今はそんなことより勇者がどうなったかだ、手ごたえはあった臓器という臓器が潰れていてもおかしくない、しかし瓦礫の中から這い出てきたそいつの身体には傷一つ付いていない、ため息をつきながら髪や装備に付いた土ぼこりを払っている
「な、なぜだ」
動揺する我に近づいてくる勇者、咄嗟に魔法で攻撃するがやはり効果はない、我の放った魔法の中から斬撃が飛んでくる、その剣は確かに我が体を切り裂いた、しかし大して痛くはない、やはり見た目から想像した通り非力ではないか
「なぜこのような雑魚に我の攻撃が効かんのだ」
「教える義理はないがな・・・まあ知ったところでどうすることもできないし、その中身はないわりに無駄にデカい頭がいを地につけるなら教えてやってもいいぞ」
「図に乗るな小僧」
「『風神の乱』」
勇者の前方後方左右あらゆる方向から突風を発生させ勇者にぶつける、衝突した風が混ざり合いながら回転し竜巻を起こす、勇者は竜巻に押し上げられ天井を突き破りはるか上空へと追いやられた後とてつもないスピードで落下してきた
天井にもう一つ穴をあけながら戻ってきた勇者は頭から地面に突き刺さっている、勇者の身体がバタバタと動き出した、地面に突き刺さった頭がなかなか抜けないようだ、この隙を逃す手はない
「『氷魔争嵐激』」
百を超える氷の結晶が身動きの取れない勇者に向かって亜音速で飛んでいく、冷気を発する氷を食らい続け勇者の身体は氷の彫刻と化していた、そこに一際大きな氷の結晶をぶつける、砕けた氷が雪のように部屋の中を舞っている
「ようやく抜けた」
アホ面さらして勇者が冷気の中から出てきた
「クソっ、クソが」
憤慨する我の顔面を蹴り飛ばす勇者、やはり大して痛くはない、だが確実にダメージは蓄積されるこの様な下等な攻撃でも食らい続ければいずれは・・・
「こんな下らん技で・・・死んでたまるか」
「お生憎だな、けど散々不幸を振りまいてきたお前が満足いく死に方なんてできるわけないだろ」
「華々しく散れると思うな、お前の最期はこれ以上ないくらいみじめで滑稽なものと決まってるんだ」
「ならば貴様の死にざまは目を覆いたくなるほど惨たらしいものにしてやる」
我は持ちうるすべてを持って勇者にぶつけた、街一つ水没させる規模の嵐を呼び、地形を変えるほどの大爆発を起こし、世界を覆いつくすほどの闇に引きずり込んだ、しかしそのどれも勇者には効果がなかった
だが我は奴の下らん攻撃を受け続け限界が近づいてきている
「まさか・・・本当にこんな屈辱・・・」
「笑える顔面になってきたな、もう十分みじめだぜお前、どうだみっともなく命乞いするってんならその滑稽さに免じてこの世界の隅っこでうずくまって震えながら余生を過ごすのくらいは許してやってもいいぜ」
なめやがって・・・このクソガキが、殺してやる何としても貴様のその薄ら笑いを浮かべる顔を絶望と恐怖で歪ませてやる
「『暗黒魔竜拳』」
我が拳が勇者の身体に食い込む、確かな手ごたえと共に勇者は後方に飛ばされた、しかし我が背筋を悪寒が走る
「な、なんだこれは」
我が身体が崩れ始めたのだ、指先が土のようになってボロボロと落ちる
「まさかここまで滑稽な最期を迎えるとはな」
「何をした貴様」
「俺は何もしてない、『ヤスリアーマー』俺に接触する攻撃をしたとき攻撃した方も僅かにダメージを受けるって装備だ、その僅かのダメージで死ぬくらい限界だったみたいだな」
そんな馬鹿な、拳を擦りむいた程度の傷だぞこんなので死ぬというのか
「いい笑い話が出来たぜ、どうやって魔王を倒したか聞かれたときは、何もしてない俺を殴って勝手に死んだんだって答えることにするよ」
「こ、これで終わりだと思うな、たとえこの命尽きようと貴様だけは許しておけぬ呪い殺してやる・・・必ずだ」
地面が揺れだす、我が力によって浮かんでいたこの城は主の死と共に崩れ去り地に落ちてゆくのだ、なんとあっけない最期だろうかだが我が怨念は残り続ける、奴を我と同じ場所へ引きずり込むまでこの呪いは決して消えぬ
「・・・呪いって俺にそれを言うとかなんのギャグだよ、今更一つ増えたところでなにも変わらねえよ」
崩れ落ちる魔王城の中心で鞘に納めた剣を撫でながら勇者はぽつりと呟いた
「最後まで滑稽なやつだったなお前の親父は・・・」
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