二分の一は大体外れる
「へえ~クリオネっていうんだね、私はルミア」
「もしかしてあなたもメタルゴーレムを倒しに?」
「えっ、あなたも魔王討伐の旅をしてるの、じゃあ私と一緒だ・・・同志ってやつだね」
とても楽しそうに話す彼女、こうしてみるとごく普通の女の子だ、ついさっき魔物の胴体を両断したとは思えないほど穏やかに笑っている。目的が一致していることだしと俺はルミアと行動を共にすることにした、正式な仲間ではないが誰かと共に行動するのは初めてなので緊張した・・・いやきっとそれだけが理由ではないな、彼女と話しいつの間にか自分も笑顔になっていることに気づき、俺はこの緊張の本当の理由を自覚した。
しばらく遺跡を進んでみたがなかなか『メタルゴーレム』のいる場所にはたどり着かない、いつもはすぐにゴールまでたどり着くのだが珍しく小川も苦戦しているようだ、それだけこの遺跡が入り組んだ作りになっているということだろう、何度も行き止まりに行っては引き返している。
「また、行き止まりかあぁ」
だが今度はいつもと違った、目の前には二つの宝箱が置かれていた。
「これどっちだっけ」
小川の口ぶりから察するにどちらかはハズレなのだろう、右側の宝箱を開ける、二分の一確率は五分五分のはずなのにまったくあたるきがしない。案の定それは宝箱に化けている魔物だった、すぐに戦闘態勢に入る、だが俺が剣を構えるころには既にルミアが魔物に切りかかっていた。
ルミアの攻撃はどれも予備動作が短く読みにくい、無駄な動きがなく洗練された剣さばきには流麗という言葉がよく似合う、結局ほとんどルミア一人で倒してしまった。
「きみ、本当に強いね」
「へへっ、そうかな」
一気にゆるむ頬を見てオンオフがはっきりした子なんだなと思った、戦闘中の彼女の凛々しい顔を思い浮かべながらもう一つの宝箱をあける、中からは石でできた仮面?のようなものが入っていた。
「これはなに?」
「セキ化面、まあとりあえずつけてみてよ」
そう言われて仮面をつけてみる、ずっしり重い仮面は俺の顔にジャストフィットした、だがどうもおかしいこれをつけた途端体が鉛のように重くなったのだ、足はガタガタ震えだし今にも倒れこんでしまいそうになる。この仮面だこの仮面をつけてから体から生気が抜け落ちてしまったのだ、すぐに仮面を外そうとしたのだが、外れないどれだけ力を込めてもびくともしない、ヘッドバットで壁に打ち付けてもひび一つ入らない、どういうことだ。
「それは呪いの装備、呪われた装備はつけると外れなくなり最大HPが半分になるんだ」
なんでそんなものをつける必要があるんだ
「セキ化面は光属性に対する耐性が下がる代わりに防御力が滅茶苦茶上がる装備なんだけど、重要なのは最大HPが半分になる方、この状態でも『まだ戦える』の効果は発動するんだ、つまりこれは全回復するのに必要な回復量が減るっていうこと、お前にとっちゃメリットしかないんだよ」
だからってわざわざ自分から進んで呪われるやつがあるか、歩くことすらおぼつかない、まっすぐ進もうとしても蛇行運転のようにフラフラとしか進めない、くそ頭が回らないこんなんじゃまともに戦えないぞ、そう思っていたが慣れとは怖いものだ、ボス部屋にたどり着くころにはほとんどいつものように歩くことができた、とはいえまだ頭は正常に機能しておらず、目の前に立ちはだかる存在に気づくのに少しばかり時間を要した。
三メートルはあろうかという体躯、光沢を放つ銀色の身体、赤黒くて鋭い眼光、こいつが『メタルゴーレム』だな、俺とルミアが同時に剣を構える、次の瞬間その巨体からは想像もつかない俊敏さで俺の背後に立つゴーレム、とっさに振り返るしかしゴーレムのこぶしは既に俺の身体をとらえていた。
勢いよく飛ばされ壁に身体を打ち付けられる、だがこんな痛みには慣れたものだ、すぐに体制を整え反撃を試みる。
『ドレインアタック』
俺の剣はゴーレムの胴体に完璧に入った、しかし鋼鉄の身体には傷一つ付いていない
俺のHPは回復した、ダメージは受けてるはずだが・・・これは聞いてたとおり相当硬いな、ルミアがゴーレムの背後に回り剣を振り下ろす、一瞬よろめいたがやはり傷一つ付いていない、これは長い戦いになりそうだ。
ルミアは俺がダメージを負うと薬草を使って回復してくれた、強敵を前にしながらもこちらを気遣う精神性、この子の方が勇者に相応しいじゃなかろうか、それに比べて
「ちっ、回復は間に合ってんだよ攻撃しろや」
こいつはダメだ、人の善意に対してこの反応である、少しでもいいからルミアを見習ってほしいものだ。
ゴーレムは両手を組み地面へとたたきつけた、砂埃が舞い視界が遮られる、しかしひるむことなく攻勢に出る二人、ゴーレムの足に剣を叩き込む俺、わずかながらも体勢を崩したゴーレムのの頭をルミアの剣がとらえた、よろめきつつも反撃するゴーレム、ゴーレムのこぶしをすんでのところでかわすルミア、そのまま回転を利用してニ撃めを加える、さらに追い打ちをかけるように俺も斬撃を食らわせた。
しかしこれだけやってもゴーレムは倒れる気配を見せない、ため息をつく俺の横でルミアは目をつむり剣を構えた、静寂に包まれた彼女の周りはえもいわれぬ空気が漂っている、なにか大技の準備をしているのは誰の目から見ても明らかだった、当然だが敵もそれを待つ気はないらしい、俺の役目は時間を稼ぐこと、こちらへ向かってくるゴーレムを前にし、俺は深く息を吸いこんだ。
ゴーレムは高く飛び上がり俺を踏みつぶそうと飛び込んでくる、転がりながら避けゴーレムの方を見る、着地した部分は深くえぐれている、あんなのを食らったらと思うとゾッとする。
ゴーレムの強力な攻撃におされつつも何とか食らいつく、幾百に及ぶ斬撃が積み重なりその硬い皮膚をわずかながらも削っている、しかし依然としてゴーレムは動きを鈍らせない、振りぬかれた拳が俺のみぞおちにもろに入った、吹き飛ばされながら嗚咽する、倒れこみせき込む俺に容赦なく追撃の拳が打ち込まれる、間一髪でこれを躱し剣を胴体めがけて薙ぎ払う、しかしゴーレムも攻撃の手を止めない、振りぬかれた剣など意にも介さず、俺の腕を掴み振り回した後投げ飛ばす。
なんとか立ち上がるが、もう立っているだけで精一杯だ、だがまだ倒れるわけにはいかない、再度剣を構える呼吸を整え走りだそうとしたが・・・
「ここまでだな」
俺の後ろからものすごい勢いでゴーレムに向かって走るルミア、あっという間に懐に入りその巨大な体に剣を突き刺した。
『死突・閃光残花』
あれだけ硬い体を貫通するとは、しかしゴーレムの体から抜いた途端ルミアの剣は折れてしまった、折れた剣先を見つめ謝罪するルミア、哀愁を感じさせる立ち姿になにかしてあげたくなった。
「なあ小川あの子になにか剣をあげたいんだけど」
なんてそんなことこいつが聞き入れるはずが・・・
「いいよ、どうせ強制イベントだし」
思わぬ返答に驚いたが良かった、とはいえどの剣を渡そうかと悩む、まあ俺に決定権などないのだがこの男に任せるとろくなものを渡さなそうなので、せめてましなものを渡すように言おうと思ったのだが
「じゃあ、妖精の剣を渡そう」
「え、いいのか」
「ああ、どうせこの先にある宝物庫にもっと良いのがあるから」
だからってあれだけ苦労して手に入れた物を簡単に渡すなんて、こいつにも人の心が残っていたのだな、ともあれ許可も下りたのでルミアに妖精の剣を渡す。
「本当に良いの」
「うん、いろいろと助けてもらったし」
「じゃあお言葉に甘えて、ありがとう大事にするよ」
喜んでもらって何よりだ
「ところで、もしよかったらなんだけど私と・・・」
言いよどむルミア、これはもしや仲間にならない的なやつか
「いや、やっぱりいいや」
なんで、俺じゃ頼りない?
「君は十分強いし、私がいなくても平気だもんね」
レベル1だぞ俺
「それにもう仲間はいるみたいだしね」
君にはいったい何が見えてんだよ、どう見てもぼっちだろもしかして煽られてる、そんなことを考えていると、また何もない空間から声がした。
「ええ、クリオネ様のことは私に任せてください」
いねぇ奴が出しゃばってんじゃねぇよメアリー!!
「今世界には困っている人がいっぱいいる、一緒に行動するより別々に行動した方がきっと多くの人を助けられると思うし」
そう言われたらこれ以上なにも言えないよ、名残惜しいがここで別れよう
「またね、クリオネ」
そう言って彼女は走り去っていった
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