心の証明
ただでさえ狭い部屋にベットとテレビを配置したことで足の踏み場が限られた空間、その上脱ぎっぱなしの服に本棚がないため床に積まれている漫画やラノベその他諸々のゴミが散乱した床には座るスペースなどなく、ベットに座って作業を行う
諸々の準備を整えノートパソコンに目をやる、配信開始ボタンをクリックする、少し待つとパソコンの画面にコメントが流れてくる、配信開始数分で同接数は一万を超えた、彼らの目的は意思を持ったゲーム内キャラクターの存在だ
画面の中ではその彼が今も俺の操作通りに歩いている、プレイ時間は百を優に超えている、それほどの時間を費やし進めたこのゲームも今や最終局面だ、裏ボスのいる山頂を目指し山を登る
遭遇する敵も今までとは比にならないくらい強くなっている、倒すのに手間取りながらも着々と山頂に近づいていく、道中一度も彼は口を開かなかった俺も無理に話そうとはしなかったのであれ以来会話はない
全部任せてくれないか、彼はそう言った、他になにか策があるわけでもないので承諾したが不安はぬぐえない、千日手になる可能性を考慮しあらかじめセーブを取っておく
セーブを取り終え前に進む、すぐに神々しい見た目のドラゴンが目に入った、目の前まで近づきAボタンを押すと会話テキストが流れ始めた、これで最後かもしれないので読み飛ばさず一字一字に目をやる
「よもやここまでたどり着く人間がおろうとは、ここに来るまで多くの困難があったであろう・・・なーに語らずとも矛を交えれば分かること、そなたの歩んできた軌跡を見せてもらおう」
壮大な音楽と共に戦闘が始まった、画面には三つの選択肢が提示されている『たたかう』、『おまかせ』、『にげる』、ボス戦は逃げることが出来ないので実質二択だ
いままでこの画面で悩んだことなどなかった、今まではノータイムで『たたかう』を選んでいた、つまり自分で技を選択し敵に挑んできたのだ、『おまかせ』とはその名の通りAIが技を選び勝手に戦ってくれる機能だ、俺は今までこの機能を使ったことはない・・・それでも信じると決めたのだから覚悟は出来ている、深く息を吸いこみ吐き出すAボタンを押したのち俺はコントローラーを置いた
画面の中では勇者とドラゴンが戦闘を繰り広げている、しかしお互いにダメージを与えることは出来ていない、ドラゴンの攻撃は勇者には効いていないし勇者の攻撃で減ったHPはすぐに回復する、そして先程から勇者は同じ技を撃ち続けている・・・やはりだめなのかレベル1ではあのドラゴンは倒せないのか、そう諦めかけたときようやく勇者は口を開いた
「・・・ずっと考えていた、どうして俺はゲーム内の人間でありながら意思をもち会話をする事が出来るのかって、でも別におかしいことじゃなかった・・・だってこの世界には俺以外にも感情を持っている人がいるんだから、お前らプレイヤーは知らないだろうがこの世界の人間は同じセリフを喋っていても表情やしぐさに違いがあるんだ、システムに縛られて自分の感情を表に出せないだけで彼らにも心があった!!」
勇者の言葉には今まで感じたことのない覇気が込められていた
「俺はきっとそんな彼らの気持ちを代弁する為に存在している、俺たちゲーム内のキャラクターに感情があると証明する、それが俺がここにいる理由だ!!」
そう言い放ち勇者はまた剣を構えた
『避雷針』
勇者がその能力を発動したターンドラゴンは天に向かって遠吠えをあげた、次の瞬間勇者の頭上に雷が落とされた、しかし勇者はその雷を吸収し能力を上昇させる
「・・・ドンピシャ・・だと」
俺は動揺を隠せずにいた、雷の力を吸収した勇者はドラゴンの回復を上回るダメージを与えている
『反射魔方陣』
勇者が魔方陣を張った次のターンドラゴンは魔法を発動した、地面から巨大な根っこが出現し勇者を襲う、しかしその根は勇者に届く前に跳ね返され、ドラゴンをたたきつけた
「そんな・・・まさか」
次のターン勇者は『旋風剣』を放った、そのターンドラゴンは炎のブレスを放ったが勇者とドラゴンの間に吹き荒れる風に押し返されその炎はドラゴンを焼いた
間違いない、彼はドラゴンがなんの技を使うのかを先読みしている・・・けど一体どうやって
「驚くことじゃない、さっきも言ったように俺達には感情がある・・・そしてそれはこのドラゴンも同じだ、最初の数ターン観察して分かったことがある、あのドラゴンはどの技を使うかによって呼吸の深さや視線の動きなど細かな違いがあった、そしてその違いはお前たちプレイヤーには分からないゲームの中にいる俺だからこそ気づける僅かな機微、見ていろプレイヤー共このドラゴンを倒すことで俺は・・・心を証明する!!」
目の前のドラゴンは首を上げながら深く息を吸い込んだ、あれはブレスの予備動作だ
『旋風剣』
俺が剣を振りぬくと同時に追い風が巻き起こる、熱と冷気の両方を合わせ持つブレスがドラゴンの口から吐き出され風によってドラゴンの口へ帰っていく
「ぐぎゃあ~」
苦しみ暴れるドラゴンをしっかり目でとらえる、もう決して目をそらさない・・・今までずっとどこか他人事だった、この肉体が戦っているのを傍観する第三者のつもりだった・・・だけどルミアと戦って嫌でも理解せざるを得なかった、戦っているのは俺で殺したのは俺なんだと、だからもう目をそらさない俺の魂は今ちゃんとここにある、ここで戦っている
俺は証明しなくちゃならない・・・心をそれが俺の存在意義だから、ルミアの日記を読んで俺は悲しむより先に共感したんだ、自分の存在意義の為に戦うこと同じ目的を持った人がいるという心強さ、俺と似ていたから、俺も存在意義のため戦ってたから・・・それはずっと魔王を倒すことだと思ってた、でも本当はもっと別の所にあったんだ
どれだけ感情を主張してもこの世界はゲームで俺はキャラクターでしかないこの気持ちも作り物かもしれない・・・それでもあの日記を読んで、今までの旅を思い出して確信できることがある、たとえ作り物でも・・・この気持ちは・・・あの思いは
「偽物なんかじゃない!!」
画面の中で繰り広げられる千を超える攻防、それはある程度パターン化しており絵的な面白さはあまりなかった、それでも俺は流れるテキストを技の度に起こるエフェクトを目に焼き付けていた
永遠に続くとすら思えた激戦の幕引きは案外あっけないもので、最後は勇者の攻撃と共に画面が白く光りドラゴンは倒れた
戦闘は終わり画面が一人称視点から三人称視点に切り替わる、笑い声と共にドラゴンが起き上がる
「よくぞ我を倒した見せてもらったぞそなたの歩んだ道を、多くの困難を乗り越え進み続けたそなたに褒美を与えよう、さあ何でも願いを言うが良い」
「ルミアを生き返らせてほしい」
勇者の願いを聞いたドラゴンが何かを念じると白い光に包まれたルミアが空からゆっくりと落ちてきた、落ちてきた、ルミアを勇者が抱えたところで穏やかな音楽と共にエンドロールが流れ出した
画面に流れるこのゲームの製作に携わった人たちの名前を見ながらここまでの冒険に思いをはせる・・・きっと彼からすれば俺は最悪のプレイヤーだっただろう、それでも俺はこのゲームをやってよかったと思う
勇者クリオネ、音楽が鳴りやみ画面の真ん中にその名前が書かれている、クリオネ・・・レベル1縛りをするからと弱そうな名前にしようと適当につけた名前、悪ふざけにも等しいこの名前を・・・俺は一生忘れることがないだろう
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