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異世界転生・転移関係

めざせハーレム! ~ギャルゲー世界でセーブ・ロードを駆使してやり直し~

作者: よぎそーと

「駄目か!」

 思わず天を仰いでしまう。

 地球は日本から異世界転生してきた男。

 彼は近代化前の文明世界で何十年という人生を歩んでいた。

 そんな彼はため息を漏らしながらこれまでを振り返る。



 前世を思い出した5歳の頃。

 同時に転生者は自分が使える能力を知る。

 お定まりの能力一覧表示。

 そして、レベルアップ。

 なおかつ、セーブ・ロード機能。

 これらが転生者に使える特殊能力だった。



 能力一覧は自分の体力や知力などを頭の中に表示して。

 レベルアップは、その名前の通りに能力を全体的にあげる。

 そして、セーブ・ロード機能。

 これが転生者にとってとてつもなく大きなものになった。



 セーブは、行った時点の日時を記録。

 ロードは、記録時点への時間遡り。

 これにより、転生者は人生のやり直しが出来るようになった。



 当然ながら最初のセーブ時点は記憶を思い出した直後。

 5歳の時にいつでも戻れるようにセーブ・保存をしておいた。

 ありがたい事に保存できる箇所はいくつもある。

 全部で20個ある保存項目は有効活用している。

 それでも最初の5歳の時点だけは絶対に消さないように注意した。

 ここからやり直せるなら、それこそいくらでも未来を選択出来るからだ。



 というわけで。

 セーブによる帰還時点を保存しての人生を開始。

 以後、何度もロードによる帰還を繰り返していく事になる。

 そんな人生のくり返しの中で出て来たのが、冒頭の言葉だ。



「なかなか上手くいかねえな」

 分かってはいた事だが、事の難しさに顔をしかめる。

 野郎としてる事の無謀さを考えれば、失敗は当然と思ってはいるのだが。

「どうにかならねえかな」

 慚愧に堪えぬ、とまで大げさではないにしろ。

 この困難をどうやって乗り切れば良いのかと首をかしげる。



「なんとしてもやってみたい」

 転生者が望んでる事は一つ。

 これまでの人生で挑んでる中で、最も難しい事。

 それは、

「俺様ハーレム、どうすりゃ出来るんだろ」

 実にしょーもない事だった。



 ハーレム。

 男の夢である。

 これを達成するために、転生者は試行錯誤と失敗を積み重ねてきた。

 何度も人生をやり直し、その度に最適解を探し求めていった。

 セーブ・ロードの機能をこの為だけに費やしてるといっても過言ではない。

 むしろ、この為だけにこの偉大な機能を使い続けていた。



 最初は当然失敗だらけだった。

 隣近所の女の子に声をかけ、その悉くを失敗した。

 失敗して何度も5歳時点に戻っていった。



 このままじゃいかんと、十数回のやり直しで考えた。

 もちろん、この十数回の中でもあの手この手でやり方を変えたのだが。

 それらの全てが失敗に終わった。

「このままじゃ駄目だな」

 さすがに転生者も頭を使う。



 とにかく、村の中であれこれやってても意味がない。

 小さな農村で出来る事には限りがある。

 ならば村の外に出て名を上げる。

 村の外で様々な試行錯誤を行う。

 自分が勝てる場所を探す。

 その為に村を出る事にした。



 一般的な文明ならこんな事はできないだろう。

 文明によって違うだろうが、一般民衆は生まれ育った場所に縛り付けられる。

 居住の自由がないのだ。

 極端な話、隣の村や町に引っ越す事すら不可能。

 嫁入りなどの例外を除き、生まれてから死ぬまで同じ場所で生きる事を強いられる。



 なのだが、この世界ではこれが幾らか緩和されている。

 とある仕事をするならば。

 探索者。

 迷宮に挑み、怪物と戦う仕事に従事する。

 これならば、移動の自由を手に入れることが出来る。

 転生者はこれを利用する事にした。



 実利を求めた結果でもある。

 生まれ育った村の外での生活するのは難しい。

 才能能力も人脈もなければ、余所者が職を得るのは不可能だからだ。

 出来るとしたら、日雇い労働くらい。

 これとて生計を得られるほど稼げるかどうかは分からない。

 だが、探索者となって迷宮に挑めばこの限りではない。



 怪物を倒せば魔力の塊を手に入れることが出来る。

 魔力結晶というこれを手に入れて売却する事で、探索者は生計をたてる。

 才覚と腕と幸運があれば、成り上がる事もできる。

 転生者はこれに賭ける事にした。

 もの凄く分の良い挑戦だと思って。



 なにせ、セーブ・ロードでいくらでもやり直しが出来る。

 死んでもセーブ時点に戻れるのだ。

 失敗など怖れる必要はない。

 そこで終わりではなく、そこからやり直せるのだから。

 ただ、セーブした時点まで戻ると、それまで稼いだ経験値などを全て失う事になるが。

 強くてニューゲームにはならない。

 体験した事を知識として持ち帰れはするが。

 それ以外はほぼ最初からやり直しになる。



 それでも失敗を活かせるのは大きい。

 前回と同じ事をしないで済むのは得がたい利点になる。

 たいていは失敗は失敗として拭う事は出来ないのだから。

 そんな失敗をそもそも無かった事に出来る。

 これはとてつもなく大きな利点だった。



 そんなわけで失敗を何度も繰り返し。

 人生を何度もやり直して成果をあげていった。

 その間に、攻略できた女は何人かいた。

 だが、転生者はそれで止まりはしなかった。



 転生者が望んでるのはハーレム。

 複数の女の同時攻略だ。

 特定の一人との交際ではない。

 何人かの女とは付き合う事ができた。

 結婚して子供も生まれた。

 そのまま老衰直前まで生きた事もある。

 死ぬ間際でセーブ時点に戻ったが。

 さすがに天寿を全うしたら、セーブ時点に戻れないかもしれないからだ。



 だが、どれだけ試行錯誤してもハーレムはなかなか完成しない。

 二人三人といった小数なら同時攻略出来る事もあったが。

 欲しいのは望んだ相手全員とのイチャラブである。

 清い交際などというものなど望んでない。

 というか、そんなもの存在するわけがない。



 女が望むのは強くて稼げる男だ。

 そんな男には自然に近づいてくる。

 人格・性格なぞ気にせずに。

 だから転生者はレベルを上げていった。

 迷宮で稼ぎ続けた。

 女の要望を満たすために。



 レベルと稼ぎが一定の水準を超えると、女の方から近づいてくる。

 何度もやり直しても変わらない真実だ。

 そんな欲得尽くの思惑に清さなど無い。

 そういうもんだという話はどこかで耳にしていたが。

 実際にそうなった時に転生者は呆れたものだ。



 例外もいるにはいる。

 姫武者と呼ばれる高貴な出の女武人。

 聖女と呼ばれる神殿の巫女。

 天才と呼ばれる魔術師。

 怪盗と呼ばれる女盗賊。

 一般的にレベルの高い者達はちょっとやそっとのレベルではなびかない。

 ただ、これらも清廉潔白で高潔というわけではない。



 ようはちょっとやそっとのレベルでは気にもしないというだけだ。

 気を惹きたければ相当な高レベルにならねばならない。

 そこまでいけばさすがに気にしてくる。

 近づいてくる。



 同じ事は高貴な出の娘にも言える。

 王侯貴族は言うまでもなく。

 武家と呼ばれる軍人貴族の娘も。

 裕福な商人の娘も。

 学者家系の娘も。

 芸術芸能関係の大家の娘も。

 こういった者達はまず高レベルにならないと相手にされない。

 文字どおり、見向きもされないのだ。

 視界……というか意識にのぼる事がない。



 しかも。

 これが最低条件で、更にここからがある。

 どう接していくかというのが加わる。

 人によって好みや望みは違う。

 同じような対応をしても、全員が同じ反応を返すわけではない。

 一人一人に適した攻略が必要になる。

 これが面倒になる。



 数を集めるだけなら、こんな事をしなくて良い。

 集まってきた適当な女を囲ってしまえば良いだけだ。

 実際、何度かそうしてみた事はある。

 だが、それでは全く満足する事ができなかった。



 レベルと稼ぎだけに群がってくる女だ。

 底が知れてるというか、浅ましいというか。

 思惑が表に出てしまっている。

 金の切れ目が縁の切れ目と地で行くような連中だ。

 少しでも落ち目になれば簡単に離れていく。

 もっと良い男が出てくれば、すぐにそちらになびく。

 そんなのを無理して繋ぎ止めるのも無駄に手間がかかる。



 何度か試すうちに、こういう女は避けるようになった。

 要求水準が低いという事は、同じ条件が並んでいればその間を渡り歩くという事にもなる。

 その中で抜きん出るのは面倒だ。



 だから、要求水準の高い女を狙う事にした。

 求められる水準に到達できる人間がまず少ない。

 なので、他に目移りする事が少ない。



 加えて、転生者も高い水準を要求した。

 自分のような高水準の人間が求める理想に到達してる事が。

 それが高レベルで稼ぎもある自分を繋ぎ止める条件だと。

 言ってしまえば取引だ。

 自分と相手の才能能力を用いた。



 そんな取引のために転生者はひたすら努力を重ねた。

 レベルを上げて能力値を上げて。

 武勇談をいくつも作りだし。

 稼ぎも当然はね上げていく。

 最低限の条件を連ねていき、攻略に乗りだしていく。



 そして、セーブとロードをくり返し、攻略条件を探していく。

 何が望みで、どうすれば気が引けるのか。

 接し方も考えていく。

 考えるだけではない、色々と試していく。

 当然失敗する事もある。

 だが、そうなったらすぐにロード。

 成功するまで繰り返す。



 こうしてるうちに、だんだんと攻略も出来るようになっていく。

 複数同時攻略は手間がかかるが、出来ないわけではなかった。

 ただ、条件が凄まじく面倒なだけで。

 その条件を転生者は一つ一つ解明していく。

 数え切れないほどのセーブ・ロードをくり返しながら。



 幸いなことに記録しておく容量はどんどん増えていく。

 レベルがある程度あがると自動的に増えるのだ。

 それも、一度増えたセーブの容量はやり直しても減る事がない。

 おかげで様々な時点に戻って確認をする事が出来る。



 そんな記録容量であるセーブ枠。

 これは増えに増えて1000を超えた。

 それだけ何度もレベルが上がったという事だ。

 くり返しの数も相応に多い。

 数える事を転生者はとっくに放棄している。



 これだけの試行錯誤をしてもなお、完璧な攻略はおぼつかない。

 条件を揃えても、運が絡んでくる。

 前回は上手くいっても、今回は駄目だとか。

 今回は駄目だったが、次では上手くいくとか。

 こういった事は良くある。

 出来るのは成功する確率を高めるだけ。

 上手くいくかはやってみるまで分からない。

 これもまた揺るぎない事実だ。

 最後は運に身を任せるしかない。



 それも含めて、最も成功率の高い道を見つける。

 運に任せるしかないにしても、それでも成功しやすい道を。



 だが、これが常に良いとも限らない。

 時に、もっとも成功率の低い道を選ばねばならない事もある。

 普通に考えれば失敗するような。

 実際、たいていは失敗する道を。

 それでもあえて進まねばならない。

 その先にしか、望み未来がないならば。



 ロードで何度も繰り返す事ができなければ絶対にたどり着けない結果。

 それが確かにある。

 そして、そこにたどり着かねば、望む未来は手に入らない。

 本当にセーブ・ロードが出来なければとっくに諦めていた。

 諦める以前に、やろうとも思わなかった。



 この確率を上げるために、人生をやりなおす事もあった。

 最初に前世の記憶が戻った時。

 5歳の頃から再び成り上がるのだ。

 費やした年月を全て捨ててまで。

 それも、一度や二度ではない。



 5歳から小さな成果を積み上げて。

 条件を一つ一つ確かめて。

 10年20年と時間をかけて確かめて。

 そして再び5歳に戻って、またやり直す。

 どれほどこんな事を繰り返したか分からない。



 そうした結果を書き記して何度も検証を重ねもした。

 もちろん、人生を記した日記などはもちろんロードすれば消える。

 そうならないように、転生者はちょっとした工夫をした。



 ある程度上手くいった人生。

 年齢でいえば40代の半ば。

 一人の部屋を持ち、筆記具を用意するのも簡単なほどに成り上がった人生。

 そこで記録を残す事にした。

 もちろん、セーブをしてこの人生を消さないように注意して。



 この人生にて様々な記録を残していく。

 記録が終わればセーブをして保存する。

 そして別の人生を歩み、ある程度の体験を得たら、記録を残した人生をロード。

 そこで新たに得た体験を記録する。



 こうする事で、膨大な試行錯誤をある程度記録していく事ができた。

 そうして出来た記録をもとに、やり方を考えていく。



 もちろん、完璧とはいえない。

 何かしら抜けたり漏れたりする事はある。

 だが、記録を残して確認する事ができるのは大きな成果をもたらしてくれた。

 何せ、必要ならロードをして記録を覗きに行けば良い。

 なにせ、自分の体験なのに忘れてる事も多いのだ。

 そんな事を確かめる事ができるだけでも大きな効果をもつ。



 ハーレムへの道はこうして前進を続けていった。

 ゆっくりと着実に、不可能と思えたことを成し遂げていく。

 歩みは遅いが、転生者は望んだ結果へと近づいていく。

 その願望が達成されるまでに、数え切れないセーブとロードを繰り返した。

 累積した人生は何千年どころか何万年、それ以上の可能性もある。

 確かめようのないこの積み重ねが、転生者を不可能と思われたハーレムへと導いた。



 王侯貴族や学者に富豪の娘達。

 他にも迷宮に挑む探索者など。

 様々な地位や立場の女、あわせて12人。

 これらによるハーレムを転生者はようやく手に入れた。

 望みうる最高の状態だ。



「やっとか」

 長い長い道のりだった。

 挫折した事もあった。

 無理だと思った事もあった。

 もう辞めようと思った事も。

 だが、諦めずにやってきた。

 その成果をようやく手にいれる事ができた。



 12人の嫁に囲まれ、転生者は感無量だった。

 ハーレムらしいハーレムをようやく作り上げる事ができたと。



 その後の人生も順風満帆だった。

 女同士の諍いはある。

 派閥も出来る。

 生まれた子供の中での争いや対立もある。

 しかし、これらは覚悟していた事。

 対策も出来ないわけではない。

 それこそセーブ・ロードでやり直せば良いのだ。

 慌てる程でもない。



 何はなくとも、成り立たせたハーレムを楽しむ。

 まずはこれに没頭する事にした。

 他の事は考えず。

 面倒はあとでロードして片付ければ良いのだし。



 そんなハーレムを楽しんで。

 ついに寿命を迎えるという頃。

 転生者は一人呟いた。

「もういいか」



 やってみて分かったが、ハーレムはそれほど楽しいものでもなかった。

 酒池肉林で、好みの女をとっかえひっかえ。

 確かのこの通りではあるのだが。

 どうにも男にはこれを楽しむ素質が欠けていた。

 股間の昂ぶりに従って励んできたのだが。

 やってみてから思ったのだ。

「何か違う」

 何がそんなに違うのかは分からなかったが。



 ただ、違うと思うならそれだけの理由がある。

 自覚があるかどうかはともかく。

 その事を確かめるために、転生者はもう一度人生をやりなおしてみる事にした。

 一度記録用の人生で、これまでの顛末を記して。

 今の気持ちももちろん書き残した。



 そうして戻った5歳の頃。

 何度も見慣れた開始時点でから、転生者は再び人生をやり直す。

 ハーレムに感じた「何か違う」という違和感の理由を求めて。

 見つかるかどうかは分からないが、探っていこうとは思った。

 とはいえどこから手を付けたものかと考えてしまう。



 今まではハーレムに向けて活動していた。

 ある意味、これだけに特化し、専門的に取り組んできた。

 だが、これからはそうではない。

 ハーレムから離れていく事になる。

 最終的にまたハーレムに戻るかもしれないが

 今はハーレムを忘れて、距離をとって自分自身を見つめる事にしていた。

 自分が本当は何を求めてるのかを探すために。



 とはいえ、のんびりとはしてられない。

 どのみち、将来は村を出て迷宮に挑む事になる。

 迷宮探索で必要になる能力は手に入れておかねばならない。

 つまり、レベルだ。



 その為に出来る事をしていく。

 時間があれば鍛錬をしていく。

 なにも怪物を倒す必用は無い。

 レベルは鍛錬を重ねる事で上げられるのだから。



 そんな転生者は村では変わり者といわれていく。

 今までの人生でもそうだったので、「またか」としか思わなかったが。

 ただ、鬱陶しい。

 喧嘩をふっかけてくるバカはどうしても出るからだ。

 そんな連中は無限ともいえる長い人生で培った全てで撃退していく。

 相手が誰だろうと容赦しない。

 バカげた事をしでかす輩は、痛い目をみないと分からないからだ。

 いや、こういった方がいいだろう。

「バカは死ななきゃなおらないからなあ」

 死んでなおるなら、まだ良い方である。



 そうして悪さをするバカガキと。

 そんなガキを守るガキの親と。

 反撃した転生者を非難する大人を。

 全てを等しく叩きのめし。

 村の治安を良くしていく。

 悪さをする連中を叩きのめして社会復帰できなくしたのだ。

 悪さがこれ以上起こるわけもない。



 それを成し遂げた転生者を、村の多くの者達は怯えた目で見ていた。

 ガキはともかく、大人まで叩きのめしたのだ。

「あれは鬼の子だ」

 誰もが怖れおののいた。



 もちろん、素手で叩きのめしたわけではない。

 棒きれをもって振り回していた。

 それでも大人すらも、しかも乱暴者でとおってる連中を叩きのめしたのだ。

 子供と侮る者はいなかった。



 転生者からすればありがたい事だった。

 人間は悪い者に従う。

 悪党に従属する。

 イヤイヤではない。

 心の底から信奉し、崇拝する。

 人間は悪人が大好きだ。

 加害者が大好きだ。

 被害者を虐げるのが人間だ。

 そんな人間の本性に従った行動である。

 怖れていながら、実は敬服している。



 バカガキとその親が村にいたのもこれが理由だ。

 乱暴者で誰かに危害を常に加えてるような者だった。

 そんな輩が誰に害される事もなく生きている。

 村の者達がこの乱暴者達を崇拝して賞賛していたからだ。

 裏ではグチグチと文句を言っていてもだ。

 表だって逆らう事は無い。

 むしろ従順に服従している。



 だから転生者は安全だった。

 崇拝される立場になたからだ。

 誰も危害を加えてこない。

 むしろ、こぞって協力してくる。

 何度も繰り返した人生で把握した事実だ。

 遠慮無くこの事実にのっとって行動していく。



 そんな中で、本当に小数ではあるのだが。

 転生者に心から感謝をする者もいる。

 バカガキとその親に虐げられてた者達だ。

 村の外れに住んでいた家族がこれにあたる。



 どういうわけか彼らは村の中でつまはじきにされていた。

 乱暴者の一家が毛嫌いしていたからだ。

 その意を汲んで、村の者達はこの一家を村からつまはじきにしていた。

 嬉々として。



 人を甚振るのは楽しい。

 ごく一部を除き、多くの人間はこういった性分をもっている。

 虐待、悪行は人間の持つ本性だ。

 それがつまはじきにされた一家に向けられた。

 救いのない話だ。



 そんな一家にとって、転生者は救世主である。

 自分たちを虐げる者達から救ってくれたと。

 一家の爺婆に親、子供達は転生者に感謝をした。

「ありがとう」

 救われたと。



 そんな一家を自然と守る形になりながら、転生者は村で過ごしていった。

 迷宮に向かうその日まで。



 誤算が生まれたのはその時だった。

 村から出ていこうというその日。

 救われた一家が転生者と共に村を出た。

「ここにはいられない」

 転生者によって安全を保たれていた一家である。

 それが村から出たらどうなるかは彼らが一番よく分かってる。

 だから、共に迷宮に向かうことにした。

 転生者の誘いでもある。



 この時は今までと違い、一家に割と肩入れしていた。

 ハーレムを目指していた時には特に気にかけてなかったからだ。

 だが、今回はハーレムは目指さない。

 そこから離れた人生を歩もうとしていた。

 その一つとして、今まで気にもとめてなかった一家に肩入れした。



 無駄な人間関係は極力排除していたのだが。

 今回はあえてそういう道を選んだ。

 考えてみれば、こういう事は今までしてなかったからだ。

 もしかしたら新しい道が開けるかもしれない。

 その可能性を見てみようと思った。



「ね、迷宮はどんなところかな」

「さあなあ」

 同行者の一人が尋ねてくる。

 一家の末っ子で、転生者より年下の女の子だ。

 今までの人生では会った事はない存在だった。

 バカガキに虐げられた挙げ句に死んでいたからだ。

 生きていても、一家ごとつまはじきにされてる中で、表に出てこなかった。

 あるいは、村のどこかで弄ばれていたのかもしれない。



 そんな娘が今はあかるい表情で転生者に話しかけている。

 特に中身のある内容ではない。

 他愛のない、雑談というだけのもの。

 だが、これも今までの人生にないものだった。



 そもそも、つまはじきだった一家と迷宮に向かう事が初めてだ。

 今までこんな事はなかった。

 この時点で新しい展開になっている。



 利点も大きい。

 今までは自分一人で村を出ていた。

 碌な装備も路銀もなく、ささやかな装備でどうにかやりくりしていた。

 だが、今回は違う。

 まがりなりにも一家総出での引っ越しだ。

 資本力は今まで以上にある。

 その分だけ選択肢に余裕が出来ていた。



「どうなんだろうな」

 娘の問いかけに応えるように呟く。

 迷宮がどんな所は分かってる。

 だが、これからどうなるのかは分からない。

 今まで見た事の無い未知がひろがっている。

「行ってみたいと分からないよ」

 迷宮が、ではない。

 これからの人生がだ。



 この違いを娘が見とおす事はない。

 素直に、自分の問いかけに応えたのだと思った。

 それで十分だった。

「そっか」

 そういって少しだけ思案した様子を見せて、

「じゃあ、楽しみだね」

 笑顔をうかべた。



「そうだな」

 笑顔に応えながら前を向く。

「楽しみだな」

 もしかしたら、今までと違うかもしれない。

 そんな展開に少しだけ心を躍らせた。



 こうして隣り合って歩く娘と仲良くなり。

 仲睦まじく人生を歩んでいく事を、転生者はまだ知らない。



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