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「どうしたい?」
白く輝く鎧を全身にまとった鳥――いや、翼の生えた人間――にそう問われ、少年は「何が?」と首をかしげながらわずかに目を細めた。
目の前の人物の顔をすっぽりと覆っているくちばしのような兜は、まるでそれ自身が光を放っているのではないかと思えるほどに輝かしく光を反射している。金属でできた鎧もまばゆい光沢をたたえ、その背に白い鳥の羽を持つ姿はさながら神の使いか、神自身のようにすら見えた。
だが、そんな異形の鳥に何故自分が問いを投げかけられているのか、少年にはわけが判らない。山を登っている途中で転んでどこかに落ちたはずだと思うが、どうにも記憶が曖昧だ。靄がかかったように思考がかすみ、頭が上手く働かない。
しかし相手は少年のそうした泥の中に沈み込むような混乱など気にかける様子もなく、厳かな口調でさらに言葉を続けた。
「お前の人生はこれで終わりだ。しかし、お前が望むなら続く人生を与えることができる。その代わりここで得た力を最後に我々に貸して欲しい。我らには戦力が必要だ。来るべき日にその力を振るうと約束してくれるなら、研鑚の時をお前に与えよう」
その言葉にも少年はただ「判らない」と答えた。
「ではこのまま死にたいか、生きたいかを答えよ」
苛立った様子も見せず、威厳を感じさせるがどこか事務的な口調のままで異形の者が問いを重ねる。
少年はうつむき、もう一度「判らない」と呟いた。
「ここから逃げたい。父さんも母さんも、村の人も誰も、俺のことを知ってる人がいないところに」
その返答にわずかの間だけ思案する素振りを見せたあと、鎧をまとった翼人は鷹揚に「ならばお前にはさらなる生を与えよう」と言った。
「そこにはお前を苦しめる父親も、お前を悪魔だと罵る母親もいない」
それを聞いて少年は顔を上げ、「本当?」と訊き返す。そんな少年に金属でできた鳥は深く頷いた。
「その代わり、いつか力を貸して欲しい」
「いいよ」
「では、我らの地へ送ろう。近くに地図屋がいる。そこで案内を受けるといい」