最高の獲物
着いてしまった。
森の中に突如現れた、ちいさな人間の住処。
薄暗い森だというのに、明かりが灯っているせいか
少しだけ明るくなったわ。
人間の住処に誰もいなければいいのだけれど。。
なぜって。。
ワタクシ。目が合うと例え相手が神であろうとも石にしてしまうという
特殊能力の持ち主なのよ。
こんな場所で石像を何体も作るような趣味も持ち合わせてないわ。
そんなワタクシの心配をよそに、人間が扉をあけ中へ。。
きっと、ワタクシを下すに違いないわ。その時がチャンスね。
何も見ず、入った扉から飛び出して全速力で走って行こう。
「あら、おかえりなさい。ずいぶん遅かったのね。心配してたのよ」
女性の声!
「ああ、ただいま。すまん。」
そういいながら、やっとワタクシを下したわ。
チャンスよ!今全速力で下を向きながら走るの!
と、思ったら。。なんてこと!手をつながれてるわ!
とりあえず、下を見て。。石にすることだけは避けないと。
「実はな。。この子、例の洞窟で奴隷として働かされてたんだ。
こんなぼろ布1枚だけかぶって、言葉も片言。そして何より、こんなにガリガリで。。」
この人間。。ありもしないことをよくぞまぁ、ペラペラと!
まずどうしてワタクシが奴隷なのよ!
あの洞窟で自由気ままに暮らしてただけなのに。
「まぁ!まだ子供じゃない!かわいそうに。ずっと辛かったわね。。うぅ。。」
女性まで泣き出したわ。
こうなりゃ、どうでもいいわ。あなた達、二人仲良くずっと泣いてなさい。
ワタクシの方が泣きたいわよ。誘拐されてるんですから。
「なぁ。どうだろうか。うちには子供もいないし、こんな森の奥地だけど。。
この子をうちの子にしてもいいかな?」
なんですって!この人間の男!ワタクシが欲しいって事ですの!?
ワタクシは御免ですわ!人間同士同族でくっついてなさいよ!
「もちろんよ。私女の子欲しかったの。こんなかわいい子が来てくれるなんて。。
神様からのプレゼントね」
人間の女まで!
あなたは女同士、見ず知らずの男性のモノに無理やりさせられる女の気持ちを
分かってくれると思ってたのに!あの男のモノになれと言うの!?
そう思ったら、イラっとしてしまって。。
顔を上げてしまいました。
あぁ。。ごめんなさい。。少し嫌な事を言われたからと、石にするなんて。。
本当にワタクシってひどい女。。
「まぁ。かわいいお顔」
えっ・・?
また、石にならない??なんなの?この人間たちは?
「とりあえず、お風呂に入りましょう。まずは綺麗に・・」
人間の女がワタクシのもう片方の手を取ったわ。
「いやいや。ずっとまともなご飯を食べてないだろうから、まず食事にしよう」
人間の男がワタクシの手を、ぐっと引き寄せ、椅子に座らせたわ。
「それもそうね。ごめんなさいね。急いでご飯の支度するわね」
人間の女が鼻歌交じりに奥へ消えていった。
ご飯の支度と聞こえた気もしたけれど。。
もしかして!
なぞは解けたわ。
この人間達は、石にならない特殊能力の持ち主で、ワタクシを食べる気ね!
獲物であるワタクシを逃がさないようおんぶして、ワタクシの涙攻撃に
涙と鼻水で応戦。そして、調理のできる人間のところに連れてきたって事だわ!
きっと人間から見たら、ワタクシなんて簡単に捕まえられる最高の獲物なんだわ。
少しでもいい人間だと思った自分が恥ずかしい。
こんな悪い人間なんかに食べられる訳にはいかないのよ!
数日後には、ワタクシの年に一度のお楽しみイベント。
石像面白顔選手権をしないといけないの!
3連覇がかかってるアンソニーが今年も優勝するか、それとも今年見つけた
ピーターが優勝するか。石像を並べて審査したいのに!
逃げなきゃ・・
逃げなきゃ・・
逃げなきゃ・・・
ふと、肩に暖かい布が。。
「寒いだろ?夜は冷えるから。洋服はあとで女房がきせてくれるから
それまで、これで我慢しててくれな」
そういわれて、頭をなでられたわ。
これは儀式ね。。
まずは獲物を神に捧げて、とかみたいな感じなんでしょうね。
でも、暖かくて気持ちいい。。
頭をなでられたのも、母が死んで以来だわ。。
「これからは、ここを自分の家だと思って、安心して暮らしなさい。
悪いヤツからはおじさんがずっと守ってあげるから」
はぁぁ??
一番悪いヤツのくせに、何言ってるのかしら?
・・?
暮らしなさい??
ってことは、すぐには食べないということかしら?
「おまたせ~」
人間の女が、今まで嗅いだことないような、いい匂いの何かを持ってきたわ。
「お口に合うといいんだけど・・」
「お前の料理は世界一美味しいから、大丈夫!」
「あら。お上手w」
やたら二人ではしゃいでいるようだわ。
ワタクシのような獲物に出会えたのが、よっぽど嬉しいのね。
でも、簡単にやられるワタクシではなくてよ。
そして目の前に、やたらいい匂いのするものを置いたわ。
「はい。召し上がれ」
ワタクシは精一杯の反抗というのでしょうか。
思いっきり顔を背けてやりましたの。
「あら・・?苦手なもの入ってた?」
「ほらほら。温かいうちに、食べなさい。とっても美味しいから」
すごいウソみたいな笑顔でワタクシを見てるわ。
ワタクシがこれを食べたら、儀式が完了ってワケね。
ただ残念だったわね!人間!
ワタクシ。蛇イチゴ以外食べないんですの。
得体のしれないこんなもの、食べれなくてよ。
教えてあげるわ。私に何か食べさせたいなら、蛇イチゴを持ってきなさい。
そうでない限り、この儀式は完了できないわよ。
「へ・・い・・ち・・・」
「もしかして。。奴隷生活が長すぎて、
食事もまともに食べたことないんじゃないか?」
まだワタクシが話している最中ですのに!
人間の男が、突然妄想をまた言い出したわ・・
「まぁ!じゃあ食べ方がわからないのね。おばさんが食べさせてあげるわ」
そういうと人間の女が、スプーンでいい匂いのするものをすくい
ワタクシの口に無理やり・・
なんてことでしょう。。
抵抗むなしく1滴だけ。。ワタクシの口に入りましたわ。。
あぁ、こうもあっさりと儀式を完了させるなんて。。
この後はワタクシが食べられる番ってことね。。
長いようで短い、楽しくない人生でしたわ。
心残りは、石像達の面白顔選手権がもうできないって事かしら。。
・・・
・・・・
なんと美味!なんでしょう!
ワタクシ、語彙力がないので伝えようがございませんが
今まで食べたことない、暖かい優しい味でしたの!
あまりにもビックリしてしまって、人間の女が差し出すもの
全て食べてしまいました。
「よかったわ。食べてくれて。」
気が付いたら、人間の女が涙ぐみながらワタクシを見てますの。
その隣で人間の男もまた号泣してましたわ。。
そして、ワタクシは。。
初めてのお腹一杯という感覚に陥り・・
不覚にも寝てしまったわ。。