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イカロス  作者: 喫痄
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プロローグ:彦坂光都・幼少期

 和泉(いずみ)(みつ)()の妹だが、血が繋がっていない。当然両親は再婚する前にお互いの連れ子を会わせて親睦を深めさせていたが、光都はその時点で、子供ながらに和泉との関係性を憂慮していた。


 和泉は当初、光都へ頑なに心を開かなかった。それは単に、人見知りや臆病といった性格面に起因する部分も大いにあったが、光都はその中から、ある種打算的な方策としての側面を感じ取っていた。

 と言うのも、彼女には自分自身の領域を主張している節があった。これは光都が後に聞かされた事実だが、光都は実母を死別によって失い片親になった一方で、和泉は実父からの虐待を受けていた過去がある。それが彼女の防衛本能を一段と過敏にさせたのだろう。このときも、親同士の交際という不可抗力によって急接近する2人の関係が、彼女のアイデンティティに抵触したのかもしれない。

 当時は光都が8歳で、和泉は7歳。家族になる上で最初に彼女が光都へ暗に伝えた最大の注意事項とは、「2人が赤の他人であること」だった。


 それから2年ほども経てば、不和は相応に大きくなる。光都が新しい母に慣れれば慣れるほど、和泉が家庭の中で孤立することは必至だった。子供は自らの家庭を客観視できないもので、光都もそれまでは和泉との不自然な距離感を受け入れていたが、この状況への罪悪感だけは看過できなかった。両親が手を差し伸べるよりも先に、自然と和泉へ働きかけるようになっていた。

 和泉が両親に物をねだる場面はほとんどなかったが、「イカロス」だけは別だった。世界最初のフルダイブ型メタバース。黎明期の当時は15歳未満のプレイヤー人口が5%に満たないとされていた。そういった風潮をも超えて彼女が仮想世界へ憧れを抱いていたことは、当時の光都に理解できる彼女の唯一の手がかりだった。

 光都は自分も「イカロス」の世界へ行って和泉に近づこうとしたが、彼女自体はそちらでも変わらず「和泉」で、独りでいた。

 しかし、この仮想世界だったからこそ、光都は和泉と徐々に打ち解けることができた。彼女の見立てはある意味適切だったのだ――決して家族としては接しないことが、彼女の純粋な言葉や表情を引き出した。最初は光都自身や和泉のクラスメイトをあえて彼女の周囲に囲い込ませたが、その仲間内での交流が増えていくと、次第に自分たちや周囲は、2人が兄妹であることを意識しなくなっていく。集団での会話から、2人は自然に会話するきっかけを得たのだ。


 相互作用的な部分でもあるが、和泉自身に変化があったこともその理由のひとつではある。ゲーム仲間で遊ぶことが増えてきた頃、光都は和泉がクラスメイトの1人に好意を抱いているのだと察した。それは雪森(ゆきもり)仙介(せんすけ)という名の男子生徒。彼もまた和泉へ興味を抱いているようで、内気な彼女への接し方を特別心得ている気がした。仙介自身はさほど友人に囲まれている方でもなかったようで、それが両者にシンパシーを感じさせたのかもしれない。そんな2人だが、小学生同士では恋愛に対する現実味も薄く、煮え切らないやり取りも多かった。

 しかし光都は、作用として依然2人の間に働いている引力のようなものを見過ごしていなかった。当時、その様子が自分の目へどうにも鮮烈に焼きついた理由が光都には分からなかったが、ある程度の時間が経った頃、ふと気が付いた。

 光都は仙介を羨んでいたのだ。

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