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卑怯者すぎる空手家と柔道家が決闘することになり、手段が「棍棒」「拳銃」「狙撃」「人質」とどんどんエスカレートしていく

 風が吹きすさぶ草原くさはらで、二人の武道家が対峙していた。

 一人は空手家、もう一人は柔道家。

 もちろん、お互いに自分の武道を象徴する道着を身につけている。


「今日こそ決着をつけようぜ」と空手家。


「ああ、長きに渡る貴様との因縁、ここで終わりにしてくれよう」と柔道家。


 互いに素手と素手。

 打撃系格闘技と組み技系格闘技の死闘が始まるかと思いきや――


「これで殴り倒してやる」


 空手家は棍棒を取り出した。


「な……!?」柔道家は驚く。「貴様、空手は突きや蹴りで戦う武道のはずだろう!」


「甘いな。今時素手で正々堂々なんてバカのやることだろ。勝てばいいのさ」


 右手に棍棒を持ち、空手家が間合いを詰める。棍棒で頭を殴られでもしたらひとたまりもない。

 しかし、柔道家は笑った。


「ならば私はこいつを使おう」


 柔道家はナイフを取り出した。刃渡りは長く、鋭く研がれている。


「ナイフ……!? ちょっと待て、刃物はダメだろ。だいたい柔道は相手を掴んで投げたりする武道だろ! 恥ずかしくねえのか!」


 自分の棍棒は棚に上げ、空手家は柔道家を非難する。


「私は気づいたのだよ。組んで投げたり、寝技に持ち込むより、ナイフで刺す方が早いと」


「そりゃ早いかもしれないけどさ……」


「貴様を切り刻んでやる!」


 柔道家としては斬新な台詞を放ちながら、柔道家が空手家に迫る。

 じりじりと後退する空手家。だが、彼にはまだ余裕があった。


「いくらナイフでも……相手が遠かったら刃は届かねえよな?」


「それがどうしたというのだ?」


「俺には……これがある!」


 空手家は吹き矢を取り出した。

 これならば、ナイフの間合いの外から攻撃できる。


「貴様、そんなものを!」


「ククク、これならナイフを恐れず一方的に攻撃できるぜ。しかも矢には毒を塗ってある。命中すればお前は終わりだ」


 空手家は吹き矢の筒を口に咥えると、柔道家に照準を合わせる。


「これで決着――」


「待て」


「ん?」


「飛び道具を用意しているのが貴様だけと思ったか」


 柔道家は懐から拳銃を取り出した。


「け、拳銃……!」


「吹き矢よりこっちの方がよっぽど弾速があるし、命中精度も高い。勝負あったな」


「ぐ……!」


「これで胸を撃ち抜いてやろう!」


 空手家に銃口が向けられる。

 だが、彼もひるまなかった。なぜなら彼には――


「だったら俺はこれだ!」


 ショットガンを取り出した。


「なにい……!?」柔道家の顔に焦りが浮かぶ。


「一発の弾丸を発射する拳銃と、散弾を放つショットガン……どちらがより命中しやすいかは言うまでもねえよな?」


 いくら拳銃でも、ショットガン相手では分が悪い。

 空手家はショットガンを構えつつ、柔道家ににじり寄る。


「さあ、どうする? 拳銃でショットガンと撃ち合ってみるか?」


「いや、それはやめておこう」


「へっ、降参するのか」


「いいや……私はこいつを使う!」


 柔道家はマシンガンを取り出した。


「うおっ……!?」空手家が目を見開く。


「貴様を蜂の巣にしてやる……!」


 引き金が引かれたら、空手家はたちまち穴だらけにされてしまうだろう。

 だが、空手家には秘策があった。


「あそこを見やがれ!」


 空手家は突如遠くを指差す。


「ん?」


 指差した方向には、狙撃銃を構えた狙撃手がいた。

 柔道家も視力はいいので、それがすぐに分かった。


「なんだあいつは……!」


「前もって雇ってたのさ。いくらマシンガンでも狙撃はどうしようもねえだろ」


「ぐぬ……!」


「さあ、降参しろ! 『柔道の負けです。空手の方が強いです』と認めろ!」


 もはやどのあたりが空手なのかは分からないが、本人的にはまだ空手のつもりらしい。

 さすがに狙撃銃で狙われては柔道家もなすすべなし――と思いきや。


「人を雇っているのが貴様だけと思うなよ」


 柔道家が指を鳴らすと、地面の中から何者かが姿を現した。

 一人ではなく――数は10人。全員が迷彩服を着ている。


「なんだこいつら!?」


「私が雇っていた特殊部隊の皆さんだ。あらかじめこの場に潜ませていた」


「特殊部隊!?」


「いざという時は彼らを戦わせようと思っていたが、どうやらその時が来たようだな」


 特殊部隊10名はいずれも屈強で冷酷な顔つきをしている。

 柔道家に何かあれば、即座に空手家を射殺するだろう。


「さあ、終わりだ! 柔道の強さを認めるのだ!」


 あくまでこれは柔道技だと主張する。これがアリならば、今後オリンピックでも特殊部隊を雇う柔道家が増えるかもしれない。

 だが――


「俺には……これがある!」


「まだ何かあるというのか!?」


「こっちに来て下さい!」


 空手家が呼ぶと、一人の老婆が現れた。

 柔道家は目を丸くする。


「お、お袋……!?」


「そうさ、お前の母親を人質に取った。ささ、息子さんに一言どうぞ」


「ごめんねえ……。羊羹ようかんに釣られてつい……」柔道家の母は謝る。


「羊羹はお袋の大好物! ……卑怯者め!」


「なんとでも言えよ。さあ、母親の命が惜しければ降参しろ!」


 自分を産んでくれた母親を見捨てるわけにはいかない。汗だくになる柔道家。だが、彼もまだ諦めていなかった。


「人質を取っているのが貴様だけだと思うか?」


「なに?」


「こちらへどうぞ」


 柔道家にエスコートされ、赤ん坊を抱いた女性が登場する。


「なんで……お前が……!」


「ごめんなさい、あなた……」


 空手家の妻子が人質に取られていた。


「『今だけ食料品全品90%OFF』という偽のチラシで誘い出したのだ」


「くっ、確かに俺の妻はタイムセール的なものに弱い……!」


「さあ、愛する妻と子の身を案ずるならば、降参しろ!」


 空手家は奥歯を噛み締めるが、まだその目は光を失っていない。


「いや……まだだ!」


「なに?」


「俺には最終手段がある!」


 空手家が呼ぶと、某大国の指導者が登場した。

 お忍びで来ているらしい。


「俺はこの人と友達でな……負けを認めないと、お前の故郷に核ミサイルをぶっ放すぜ!」


「ぶっ放しマース!」指導者もノリノリである。


 卑怯者同士の対決は、とうとう核ミサイルまで持ち込まれた。

 だが、柔道家も同じように某大国の大統領を呼ぶ。


「私もこの大統領閣下と親友でね。負けを認めないと、貴様の故郷に核ミサイルをお見舞いする!」


「君のためならいつでも発射OKだ」大統領も核ミサイルを撃つ気満々である。


 武器比べから始まった決闘は、人質の取り合いになり、ついには互いの故郷も巻き添えになる可能性が出てきてしまった。


 睨み合う空手家と柔道家。

 もはや何を競っているのかよく分からない部分もあるが、このままではお互いただでは済まないことは間違いない。


 やがて、どちらともなく言った。


「なあ、正々堂々勝負しねえか?」


「そうだな……その方がよさそうだ」


 全ての武器を捨て、人質なども解放して、二人の純粋な戦いが幕を開けた。

 空手家も柔道家も、それなりに自分の武道をマスターしており、そこそこレベルの死闘を展開した。

 しかし、実力は伯仲しており、見ている側としては非常に面白い戦いとなった。


「頑張って、あなたー!」と空手家の妻。


「何してるの! 寝技に持ち込め!」と柔道家の母。


 雇われた狙撃手や特殊部隊、大国の指導者らも観戦に熱中して、応援している。


「どっちも頑張れー!」

「ファイトー!」

「そこだ! ああ、惜しいっ! 深呼吸、深呼吸!」


 一時間以上死闘は続き、やがて二人とも地面に倒れた。


「はぁ、はぁ、はぁ……やるな……」


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……貴様こそ……」


 互いの心にあるのは決着をつけられなかった悔しさではなく、ある種の爽快感と、力を出し尽くした満足感であった。

 二人の健闘に、観戦していた者たちは拍手している。


 まもなく、空手家が柔道家に言った。


「なぁ……やっぱりさ、勝負ってのは正々堂々やるのが一番だな」


「その通りだな」


 柔道家も満面の笑みを浮かべた。






お読み下さいましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 空手家がダイ〇ス持ち出して来たら危なかったですね・・・ 重火器満載で火炎放射や冷凍ビームまであるけど、全部空手なので正々堂々戦えますし
[一言]  どんどんエスカレートして「こいつら汚すぎる」と思い、最後にまともにやりあった姿に感動を覚えかけ、「いやいや騙されるな、格闘家の試合はこれが普通だから!」とツッコミを入れてしまいました。
[良い点] 「これどこまでいくんだろう……」というワクワク感。 [一言] 武器がどんどん派手になるのは予想できましたが、人質を取るのは予想できませんでした。 まさに手段を選ばず。面白かったです!
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