真珠の歌は四辺に散る
「こうして集まるのも、案外久しぶりなんじゃない?」
竜の住処でもある石の巨門を抜け、命を拒絶する毒の湖を渡り、雲よりもなお高い山を越えた先には、失われた『かつての王朝』の栄華を記す、古びた城がある。その最奥にある真ん中に円卓置いた部屋で、『彼女』は楽し気に呟いた。
「3日前に、一度集まっていますよね? 魔竜討伐のために」
「あれはノーカンでしょ。だってこの城、この部屋じゃないもん」
右隣に座る少女が首を傾げたが、『彼女』はひらひらと手を振った。それから、先日の戦いを思い出して苦笑する。
「あのドラゴンはまじできつかったなー。称号持ちが5人集まって全滅しかけるってどういうことよ」
「あれは貴女のせいでもあるでしょう。ワンパンしようとして初手から切り札を切ったから、後半の強化状態でジリ貧になったんだもの」
はぁ、とため息を吐いたのは、対面に座る妖女だ。身じろぐたびに妖しげな香りが振りまかれ、左隣に座る男の顔をしかめさせている。
「えー、だってワンパンは浪漫じゃん?」
「実力が伴ってないって言ってるのよ。クリティカルスター程度で倒せる相手なら、この私が一人で倒してしまっているもの」
ほう? 言うねぇ、と『彼女』の目つきが剣呑さを帯びる。妖女は好戦的な笑みを浮かべて睨み返し、図ったように二人同時に椅子から腰を浮かせ――
「止まれ、二人とも」
妖女の隣に座す男がそれを制した。二人は不満そうな表情で席に着く。息ぴったりに腰を下ろして頬杖を突く様子に少女が思わず吹き出した。
「全く……最後くらい喧嘩無しで過ごせないのか」
男が溜め息をつく。二人の喧嘩や6人の間で起きた些細なトラブルを解決するのは、いつも彼の役目だった。
「まあいいじゃんよ? 逆に、これが最後なんだから楽しく過ごした方がいいじゃん」
『彼女』の左隣に座る少年はそう発言したが、直後男にじろりと睨まれて肩をすくめる。そんな二人の言葉を聞いて、『彼女』は頬を膨らませる。
「最後最後って、あんたらさぁ……昨日も説明した通り、これは終わりじゃないんだよ。むしろ、次の始まりへの準備って言っても過言じゃない」
ダンッ、と椅子から飛び上がり、円卓の上に立って『彼女』は宣言する。
「確かに私はここを去る。でも、私が死ぬわけじゃない。何か月か姿を消した後、もう一回どこかに姿を現すよ。それが『スワロウ』か、それとも新しい名前でかは分からないけどさ」
だからさ、と『彼女』――スワロウはにっと笑う。
「バイバイ、じゃなくて、また会おうぜ。多分私たちはもう一回出会えるから」
かつて、この世界には5人の王がいた。一人はこの地を去り、残る4人はバラバラになった。
流浪する者どもの長は『真珠の歌』の終わりを嘆き、琴をつま弾く異端者は世界のどこかで満足そうに微笑んだ。
初投稿です!
スロースタート&不定期更新になってしまいますが、温かい目で見守っていただけるとありがたいです