スズキ ハスラー
初心者マークを付けたスズキ ハスラーの助手席で、永遠は刹那の声に合せて頭を下げた。
「こちらこそ本当にありがとう、今度は副業抜きで遊びに来て」
「二人なら、いつでも大歓迎するよ」
優風とキヒロは微笑んで労ってくれた。
「はい、またおいしいクッキー食べさせてください!」
優風は手作りのクッキーを振る舞ってくれた、素朴でとても優しい味だった。
「キヒロさんが淹れてくれたコーヒーもおいしかったです」
永遠も刹那に続いてお礼を言う。
「クッキーは現場が一緒になったら持ってくね。あ、せっちゃんはもう現場に来ないか」
「行きますよ! マネージャーとしてッ!」
「やっぱり声優としては来ないんだね」
「う……と、とにかくまたクッキーとコーヒーをお願いします。
それじゃ、失礼します」
優風とキヒロはハスラーが見えなくなるまで見送ってくれた。
「姉さん、本当は優風さんに何を言おうとしたの?」
「え?」
「女の子が現われた理由。姉さん、何か言おうとして、話を濁したでしょ?」
「ああ、あれ。別に大したことじゃないんだけど……」
「じゃあ、どうして言わなかったの?」
「二人に余計な不安を与えたくなかったの。
あの子が出てきたのは単に優風さんが妊娠したからじゃなく、妊娠したのが女の子だからと思ったのよ」
「それって、あの子の生まれ変わり……?」
刹那は首を振った。
「そんなことはないと思うけど、優風さんたちにそう取られるのが嫌だったの」
永遠はフロントガラスから茜色の空を見上げた。
「二人とも良い親になって欲しいね」
「うん、色々あった二人だから、子供を必ず幸せにするって信じたい」
永遠は優しくて誠実な父と、ちょっと、いやかなりクセが強いがいつも自分を心配している母を思った。
夕陽が暖かく街を染めていく。この色のように、全ての人の心に暖かさが溢れることを永遠は祈った。
-fin-
【参考文献】
『印と真言の本』学研
【参照サイト】
かわいいお地蔵様 つちぼとけのお寺 本寿院
https://mizuko.honjyuin.com/