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優風とキヒロの家・リビング

「やっぱ庭付き戸建ては最高だね! 改装して防音設備もバッチリだし、これで稽古だって宅録だって遠慮なくできるッ」


 声優のみやもとはリビングの窓から庭を眺めながら大きく伸びをした。やっと過ごしやすくなった季節の庭は、暖かげで見ているだけで気持ちが優しくなる。思い切って中古の家を購入したが、この物件に決めた理由の一つがこの庭だ。都心から少し離れて交通の便は良いとは言えず、建物もだいぶ古かったが、広めの庭があって価格もお手頃だった。優風は子供の頃から庭付きの家に憧れていたのだ。それに建物はどちらにしろ改装して防音設備を付けるつもりだったので、そのついでに他のところもリフォームしたと考えれば良い。


「代償として、ローンが三〇年あるけどね。それまで仕事が続けばいいけど」


 後ろからパートナーで同じく声優のきしキヒロがぼやいた。


「そんな弱気でどうする! 何としてもゲットするのッ、この子のためにもッ!」


 自分のお腹に手を当てて優風は力強く言った。キヒロが思わず噴き出したので、優風も釣られて笑い出した。


「そうだね、ママ」


「ガンバってよ、お父ちゃん」


「オレ、お父ちゃんかよ」


「パパって柄じゃないでしょ?」


「優風だって、ママって柄じゃない」


「じゃ、『お母ちゃん』って呼んで」


 キヒロは溜息を吐いた。


「ハイハイ、お母ちゃん」


 二人はまた噴き出した。キヒロとは色々あったが今は幸せだ。本名『きしひろ』は苗字を変え、『宮本毅博』になった。芸名は『小岸キヒロ』のままなので、ビジネス上には大きな変化はない。


 とは言え声優も人気商売で、特に女性のアニメ声優は三〇代になると仕事が減る。結婚してしまえばなおさらだ。幸運にも優風は少年役を得意としており、二〇代の頃よりは仕事の数は減っているものの、それでも主演作品を含め長期レギュラーを数本抱えているため、今のところ収入は減っていない。


 キヒロはアニメよりも洋画の吹き替えを中心に仕事があり、こちらも今のところ順調だ。とは言え、この仕事は安定という文字とは縁遠い。


「母ちゃんと父ちゃんがガンバらないと、あなたを養っていけないからね」


 優風はお腹に語りかけた。


「『お』まで無くなったよ……」


 笑顔で言いながらキヒロも窓の外に視線を向けた。


「ん? なんだ、あれ」


 優風はキヒロの視線の先を追った。庭の片隅に白いものが積もっている。


「砂かゴミかな?」


 気になったので優風は庭へ向かった。ヒロキも一緒に付いてくる。


「これ雪みたい」


「まさか、この時期に雪なんて降らないし、降ってもこの気温なら溶けてるさ」


 優風はかがんで白いものに指先で触れた。


つめた! これ、やっぱり……」


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