ヒロインの一人目はチョロい
「おっせぇな……あくびが出る。ふぁ〜〜、あっ、本当に出たわ」
パチンっ!とかなり大きな音を立て、レイクの顔面にガキ大将のパンチが炸裂した。
が、パンチを貰ったレイクの方は全くダメージはなく、あくびをする。
「なっ!?俺のレベルは10だぞ!そんな俺のパンチを喰らって平気なのはおかしいだろ」
ガキ大将はレイクが無傷なことに対して驚愕の声を上げた。
「知らん、お前のステータス値が俺より低いだけだろ。てか、お前がその年で俺と同じように舌足らずじゃないのはレベルが上がってるからか。周りの奴らもおこぼれを貰ったのか?まぁ、そんなことはどうでもいいっか!これ以上攻撃しても意味ないことは分かったろ?しっ、しっ、あっち行けチェリーボイズ青臭えんだよ」
「スキルが覚醒してない状態だとまだ分が悪すぎるな……チッ、お前らここは戦略的撤退だ」
ガキ大将はレイクの顔面から手を離すと、体を反対方向に向け逃げ出した。
「あっ、待ってよアストロ君!」
「覚えてろよー!」
そう言ってクソガキ三人衆はドタドタと足音を立てながら、何処かへ走っていた。
(てか、あのガキ大将アストロって呼ばれてたな。けど、内気な性格って設定だったのに、傍若無人なジャイ◯ンみたいな性格だったな。スキルが覚醒とか言ってたしもしかして転生者か?でも、女神様は俺しかしていないとか言ってたような……可能性として考えられるのは、俺の方がアストロより誕生日が早いから、俺が転生した後に誰か別の人が転生したとかか?まぁ、あの性格ならヒロインを寝取っても罪悪感湧かねぇ。てか、あっちの方が将来的に屑になりそうだわ、何か根っからのクズ感がある)
レイクはアストロ達の背中を眺めながら、そんなことを考えていると服の袖を引っ張られ、思考の海から抜け出した。
そして、振り向いた先にはふわふわとした金髪に碧眼の美幼女が涙を流しながらこちらを見ていた。
「ぐすっ……助けて…くれぇ…ありあとう……」
「どういたしまして」
「えっぐっ……わたし…アイシア…アナダのおなまえは?」
「レイク、ただのレイクだ」
(うおぉぉぉーーーー、これ一回言いたかったんだよな!ただの何ちゃらかんちゃら、人生で一回は言ってみたいことランキングTOP20を達成できたぜ!)
「レェクくん…ありがとう」
レイクが自己陶酔に浸っている間、アイシアの方はしっかりと頭を下げて感謝を述べた。
流石に、このまま自分によって人の話を聞かないなんてナルシストみたいなことはしない。
レイクは、ポンポンと泣いている彼女の頭を撫でながら返事を言う。
「気持ちは受け取りたいがそんなに泣かれた状態で言われても嬉しくない!俺は笑顔でお礼を言って欲しい。だから、ほら泣くな。せっかく綺麗な顔してんだ泣いてたらその魅力も半減だぞ?」
「ぐすっ……でも、ようせいさんが、……すきなおはなが」
アイシアはレイクに言われて、どうにか涙を止めようとしたが下を向いて酷い惨状になっている花達を見ると涙を止めることが出来なかった。
(ようせいさんに、あげようとおもってたのに…これじゃあ…よろこんでくれないよ。きょう、おたんじょうびっていってたからぜったいあげないと……でも、ここでしかこのはなさいてない……どうしよう〜……)
これは、はじめて友達になった妖精が綺麗だと言っていた花で、アイシアはこれを前から誕生日にあげようと考えていた。
そして、誕生日当日である今日、アイシアは朝ご飯を食べてすぐこの場所に向かった。
そして、どれが綺麗だろうと選んでいると三人の男の子が来てアイシアを遊びに誘ってきた。が、この後は妖精さんと会う約束があるため「きょうは、あそべない」と言ったのだが、男の子達はアイシアのことなどお構いなく無理矢理連れて行こうとした。その際、手を引っ張ろうとして一歩踏み出した時、花が足で潰されてしまったのだ。
そこからはレイクが知っての通り、その場でぺたんと座り込みアイシアは泣き出した。
つまり、この足元で潰れている花は、アイシアにとって特別なものだった。代わりが見つからないほどに。
アイシアは早く涙を止めなくちゃいけないという思いと、妖精にプレゼントを上げられない申し訳なさが混在し情緒が不安定だ。
レイクは、当然そんなこと知る由もないが美幼女が泣いている姿はベットの上以外で見ても、全く嬉しくないので彼女の涙を止めるため、掌を潰れている花に向け魔法を使った。
「『植物回復』」
魔法が発動し、植物は温かな光に包まれ、無残に潰れた状態からアイシアが最初に摘もうとしていた時と同じように生き生きとした綺麗な状態になった。それでも若干土が付いているのでレイクは「『洗浄』」を使い完璧に元どおりにした。
「ほら、花は元どおりになったから泣くな」
レイクはそう言って膝を曲げて、綺麗にした花を丁寧に摘みアイシアに差し出した。
アイシアは涙を流しながらも、レイクから花を受け取り笑った。
「ありがとう!レイクくん」
「ははっ、喜んでくれたようで何よりだ」
「あっ、ごめん……またないてた」
「気にするな。今のは悲しい涙じゃなくて嬉しい涙だろ?なら、かまわねぇよ」
レイクの言われた通り、泣かずに礼を言うつもりだったのだが自分が泣いたままなことに気づき、シュンと捨てられた子犬のようにしていたが、レイクは笑って許した。
その笑顔を見た瞬間、アイシアは見惚れ胸がドクドクと高鳴り顔が熱くなった。が、当時四歳の彼女はこれが何なのか分からない。
ただ、嫌な感じがしないのだけは確かだった。