鉛 と 青海月
手回 秀政一般的なん学校に通う高校一年生。
友人の華陽 和夫 (かよう かずお)と下校中だ。
そして日常的な会話をしていた。戦時中でなければ日常だったと思う。
「そこで俺は先輩に言ってやったんだ、先輩のほうが下手じゃないですか、なのに俺に指導だとか偉そうに言ってんじゃねえですよ。」
秀政のテニス部での話はこれで2回目だったので飽きていた和夫は、
「ふーん、お前やるじゃん。」と、適当に返した。
「そしたら先輩はな……」秀政の言葉を遮ったのは警報だった。
きっとミサイルだろ、と思いながら二人は空を見上げる。
ここのところ連日、敵国からのミサイル実験が繰り返されている。曇天の空
には一切の不純物は見えない。
「最近物騒だよな、」と和夫が言いったので相槌をうった。
「某国よりミサイルが発射されました。落ち着いて……」と、アナウンスが流
れる。
その後に起こったことは秀政には、わからなかった。一瞬の明滅、爆音と共
に立ち昇る青色の煙、少なくとも現実に起こったことはそれだけだった。
しかし霞がかった頭でそれを、毒ガスミサイルを、理解するには時間が足り
なかった。
晴天の空に浮かんでいたのは海月だった。おそらくは俺が海月だと思って
いた生き物の形をしていた。
周りには誰も、何もなかった。
目を覚ますと、隣に和夫が倒れていた。しかしそれ以外の異常は認められ
ない、閑散とした住宅街だ。なぜ俺は無事だったのだろう。
惨状は理解した。マスコミの報道であったガス爆弾だろう。強い幻覚を見せ
るらしい。そして強い毒性もある。隣で倒れている和夫の手首を持ち上げる
、
そこで脈がないことに気がついた。泣きたい、そう思うほかなかった。
先程のように空に海月が浮かんでいる方が良かった、暗澹な現実は心を凍ら
せる。しかし、戦争があれば人は死ぬし、ミサイルは撃ち込まれる。そんな
日常の不具合。
飴のように溶けていく和夫の身体は、非日常を形容していた。