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一億歳のお婆ちゃんの知恵袋  作者: しら玉草
第1章 白灼の竜姫
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第8話 竜の財宝

長いこと間を開けてしまい申しわけございませぬ。

今回は食事回となっております。


 お風呂から出たアイラは困惑していた。

 自分にと宛てがわれた服はロングスカートの真っ白なドレス。滑らかな肌触りが高価な品である事を物語っていた。

 アイラの銀の髪や白い肌と相まって全体的に白くなったその姿は神々しくもある。しかしその服を着たアイラは不服そうにスカートを摘み上げた。


「ねぇ、こんな服…私困るよ」


「きゃー!似合ってますわ!お姉様!絶対似合うと思ってましたの!私の持っている服の中では一番良い生地ですのよ。守り神様のお孫様に私の服を…っていうのはちょっと気は引けるのですが……あ、そうですわ!明日服を買いに出かけましょう!このハイラード領で一番のドレスを仕立させますわ!」


「んー…薄くて弱そうだし、ヒラヒラしてて動きにくいよ」


 アイラにとっては肌触りよりも強度の方が大事であり、優美ゆうびさよりも動きやすさの方が大事なのだ。とは言ってもアイラの皮膚より丈夫な服など存在し無いのでアイラの求める服は動き回ったり引っ掛けたりしても破れない物という事になる。


「えー!とっても素敵ですのに!……はっ!お姉様に意見なんて私ったら何て事を。お姉様は何をおしになられても素敵に決まっていますのに!むしろ産まれたままのお姿も神様を見ている様な気持ちでしたわ!お姉様のご要望こそがただ一つの正解に決まっています!このハイラード領で一番丈夫な服をお作りいたしますわ!丈夫さ以外にもご要望が…いえ!ご神託がありましたら是非仰てくださいませ!」


「え?え?え?私は神様じゃないよー?」


「いえ!守り神様のお孫様なので神族ですわ!神族なので王族より上ですわ!私はお姉様に忠誠を誓いたいのですわ!」


「忠…誠?それは…つまり…私のものになる…っていう事かな?」


「もちろんですわ!お姉様さえよろしければ!」


「分かってるの?リッシュは竜の財宝になるって…言ってるんだよ?」


「わ…私が、お姉様の…財宝…ふふ…うふふふふ」


 リッシュは喜びのあまり震えてしまう。憧れの人から「お前は宝物だ」なんて言われてしまえば致し方無い事かもしれない。しかしアイラの意図は違う物だった。

 アイラは自分の指を口に咥え犬歯で強く噛む。そして小さな傷の付いた指をリッシュに向けた。その指からは赤い血がにじむ。


「フラウ婆ちゃんにね、教えてもらったの。竜の血はね、毒でも有り薬でも有るんだって。私達に取り入ろうとする輩が居たら飲ませろって言われてるんだ。あ…でも…やっぱりやめとこうかな、せっかく仲良くなれたし、死なれるとちょっとね」


 そうして離れて行くアイラの手をリッシュは強く掴んでいた。


「待ってくださいまし!…今、今、何と」


「え?だから…死ぬかもしれないからやっぱりやめようかなって」


「指を舐めて良いと…あまつさえその体液を飲んで良いと仰いましたの!?」


「ちょ!ちょっと!リッシュ怖いよ!?私ですら恐怖を感じるよ!?」


 掴まれた手を振りほどいたアイラはリッシュから距離をとると先に歩き出す。


「ああ~ん…そんなぁ。…って、お姉様?道が分かりますの?」


「美味しそうな良い匂いがしてるからね」


「お姉様らしいですわね………あら?」


 リッシュは振りほどかれた自分の手を見た時にある事に気付いてしまった。そして宝物を隠す様にそっとソレをアイラの視線から隠す。


「ん?どうしたの?」


「い、いえ!何でもありませんわ!うふふふ」


 リッシュは不自然な笑みを隠す様に口元を手で塞いだ。いや…本当は口元に手を持ってくるのが不自然にならないように微笑んだと言った方が正解だったのだろう。


「ふーん、まぁ良いや、早く行こうよ。もうお腹ぺこぺこなんだよ」


「そ、そうですわね!お父様も帰って来てるかもしれませんわ」



 しかしリッシュの予想は外れてしまったようだ。食卓で待っていたのはコックとメイドだけ、領主であるダルモアの姿は無かった。


「ダルモア様の伝言でございます。もし帰るのが遅ければ先に食べていてくれ。と…仰っておりました。さぁ、席へどうぞ」


「そう…ですの。もうじき陽も落ちるというのに、お父様は大丈夫かしら」


「オーバン様も付いておりますし、兵も五人程連れて行かれました。馬車二台に腕利きの兵とオーバン様が揃っているのです。むしろ馬車も無くなりまともな衛兵も居なくなったこの屋敷の方が危険というものですよ」


「あら、今のこの屋敷は世界で一番安全だと思いますわよ」


「それは…どういう……おや、そちらのお嬢様が御客人ですね。話は伺っております。おります…が、聞いていた以上にお美しい。貴族では無いとお伺いしておりましたが…いえ、詮索は失礼でございますね。どうかお気を悪くなさらないでいただきたい」


 アイラの端正な顔立ちは貴族の娘と比べても見劣りせず、高価なドレスをまとった今の姿は平民だと言う方が無理があるだろう。口を開かなければ…だが。


「うん、貴族とかよく分かんないな。とにかくお腹が空いたんだよ」


「……え?あ、はい。すぐに…ご用意いたしますね」


 見た目とは裏腹に砕けた話し方をするアイラに対しコックは一瞬面食らってしまい言葉に詰まってしまったものの、気持ちを切り替えて食事の準備へと取り掛かる。

 とはいえ料理は既に出来ており、実際に食事をテーブルへと運んでくれたのはメイド達だった。音を立てずに静かに皿をテーブルへと置いていく。

 スープには羊の肉が入っており、パンも添えられていた。他にも赤黒い大きなソーセージ、そして胡椒の効いた内臓のミンチやポテト等が食卓を埋める。

 そのどれもに麦が入っている事からもこの土地における麦の重要性がうかがえる。

 しかしご馳走が並んでいるにも関わらずリッシュの目はくもっていた。そして無言で内臓のミンチを皿の端へと押しやるとコックに非難の目を送る。


「これは苦手だと言ったじゃありませんの」


「ダルモア様が客人をもてなす席だと仰いましたので、この伝統料理は外せないと判断させて頂きました」


 リッシュがこの料理を苦手だという事はコックも当然知っている。それでも伝統料理を領主の娘が食べれないのでは後々困ってしまうだろう。チャンスがあれば作るようにとダルモアがコックに指示していたのだ。

 実際に苦手な人は多い。まず見た目が悪い。羊の内臓を細かく刻んだ物に玉葱や麦を混ぜ合わせ、羊の胃袋に詰めて茹でるのだ。大皿に置かれたそれはパンパンに詰まった胃袋そのもの。食卓に羊の胃袋が鎮座した時のインパクトは圧巻の一言だ。その胃袋を裂いて中身を食べるのだから抵抗感は計り知れない。

 そして味、元々臭みの強い羊肉の内臓なのだから癖が強くない訳が無く、味付けに胡椒やハーブが使われていたとしても到底誤魔化しきれるものでは無い。


 リッシュは忌々しそうにミンチの詰まった胃袋をにらむのだが…はて?ここで一つ疑問が発生してしまった。食卓に鎮座しているはずの羊の胃袋が無い。

 胃袋の中身を皿に取り分けているのだから胃袋自体は食卓に無いとおかしいのだ。ではどこに?その答えは驚くほど簡単なものだった。

 テーブルの上で胡座あぐらをかく白い女の子。椅子に座らされていたはずのアイラは気が付くと大皿の前に陣取っており、手掴みで羊の胃袋を自分の胃袋へと入れていく。

 コックもメイドも賓客ひんきゃくであるアイラに注意する事が出来ずに困り顔でリッシュに助けを求めるが、当のリッシュの目にはアイラしか映っていない。


「これ!これ良いね!こんな食べ方思い付きもしなかったよ。細かくしてからまた固めるなんて面倒くさいけど、良い、良いよこれ!」


 生きた獲物をそのまま引き裂いて食べる事もあるアイラにとっては羊肉の癖なんてさして気にするような物では無い。むしろ胡椒やハーブの方が衝撃的だった。

 まるで始めてハンバーグを食べた子供の様にはしゃぎながらペロッと平らげた後、リッシュの分の皿をしげしげと見つめる。


「リッシュは食べないの?嫌いなの?何でも食べなきゃ強くなれないよ?あー…だからリッシュは弱いのかな。馬車の中で震えるだけだったもんね」


 アイラに悪気は無い。弱い生き物は弱い生き物なりに生き残る為の生存戦略をするものだ。勝てない相手から命を狙われているのなら助けてもらうか逃げるか隠れるかのいずれかが正しい生存戦略だと言える。リッシュは正しい行動をとっていた。弱い生き物なら当然の行動だ。アイラはそれを責める気など更々無い。

 ただ弱い生き物に対して「弱いもんね、仕方ないね」と言っただけだ。けれど悪気が無いからこそ、それは紛れもない本心なのだ。

 そして本心の言葉は当人には深く突き刺さる。しかしリッシュに芽生えたのは自責の念やいきどおりなどでは無かった。


「あ…う………ああああ!お姉様!強くなりますので!私を捨てないでくださいまし!どうか見限らないでくださいまし!」


 リッシュは自分の皿に乗った料理をあれもこれもと言わんばかりに掻き込む様に食べ始める。とは言えリッシュは口も小さく喉も細い。必死な様子だけは伝わってくるものの料理はなかなか減らなかった。


「うぷ……はぁ…はぁ。うぅ…ぐす…ぐすん。全然…減らないですの」


「んーん、ちゃんと食べれてるよ。ほら、リッシュが苦手だって言ってた内臓のやつ。もう半分くらい無くなった」


「え?あ…本当ですわ。夢中で…気付かなかったけど…」


「あと半分だね、頑張れー」


「う…冷静になってから向き合うと…その…」


「ん?」


「あうぅ~……頑張りますわぁ…」



お読み頂き感謝感謝です。

出てきた羊料理の名前は出していませんでしたが、ハギスと言います。

気になる方は検索してみてください。


次回はようやくダルモアの方に移れそうです。

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