第7話 お風呂と身体
竜の血を継いでるから人間だけど強い…なんて安直な事はしませんよー。私は人外フェチなので!
という訳でお風呂回です。
脱衣場に案内されたアイラは躊躇いなく服を脱ぎ散らかしていた。小さな子供でももう少し丁寧に脱ぐだろう。
しかしそんな粗忽な行動ですらリッシュの目には格好の良いものとして映り、アイラの脱ぎっぷりに見惚れて固まってしまっていた。
「ねぇ、リッシュ。先に行くよ?」
「………は!ま、待ってくださいまし!私も行きますわ!」
我に返ったリッシュがもたもたと服を脱ぐ、ドレスを着込んだリッシュは服を脱ぐのも一苦労で、アイラは裸のまま待ちぼうけを喰らう羽目になってしまう。
そんなアイラの真っ白な身体には無駄な肉など無く、細く引き締まった肢体は女性的でありながらもうっすらと筋肉の筋が浮いて見える。まるで彫像の様に洗練された美しい身体は現実味が無い程に人間離れしていた。
その姿はリッシュには白い宝石の様にすら見え、見惚れて服を脱ぐ手が度々止まってはアイラに「まだー?」と急かされて慌ててしまうのだった。
湯船を前にしたアイラは言葉を失った。滑らかなタイルの床、石で出来た大きな柱、そして円盤状に窪んだ湯船。その全てがアイラの知るお風呂とはかけ離れていたのだ。
アイラの知るお風呂とは、昔お爺ちゃんと母親のアマレットが使っていた木の浴槽を石と粘土で補強した石窯の様な物であり、壁も何も無い野外に置かれている。
こんな池を思わせる程に広くて綺麗なお風呂は初めて見るものだった。
「うふふ、気に入りまして?お姉様」
「う…うん、びっくりした。凄い綺麗なお風呂」
「そんなそんな、お姉様の方が何倍も美しいですわ」
リッシュはアイラを褒めながらも少しだけ肉付きの良い自分の身体と比較して落ち込んでしまう。アイラの身体は筋肉の質からして人間とは別物だ、そもそも比べる対象としては不適切だろう。
それに女性的な魅力で言えばアイラの惨敗だと言える。胸は平らで身体の肉質は野性的、生き物としての美しさはあっても男性が喜ぶ様な物では無い。
とはいえアイラにはそんな事はどうでも良く、それは性癖の歪み始めているリッシュにしても同じ事が言えるかもしれない。
「あれ?まだお湯が沸いて無いみたいだね」
「え?……うーん、…んー?丁度良いくらいだと思いますわ。お姉様は熱いお風呂がお好きですの?」
「うん、まだお湯がボコボコいって無いし、これだと悪い菌が死なないんだよ。私が沸かしてあげるね」
「え?え?ボコボコ?ボコボコって…それ沸騰してる音じゃないですの!?そんなお風呂入ったら菌以前に私が死にますわー!」
「え?」
それを聞いたアイラは既の所で口を閉じた。喋るのをやめた…という意味では無い、口から漏れ出た炎が揺らめいて消えていく。
その炎はリッシュの目にも映っており、目をパチクリさせながらしげしげとアイラの顔を眺めてしまう。
「え?今の…う、うーん…湯気…うん、湯気ですわねきっと」
「ねぇ、リッシュってお湯で死ぬの?小さな菌より弱いの?」
「さ…流石に冗談ですわよね?沸騰したお風呂なんて殆どの生き物が死にましてよ。体に付いた菌なんて石鹸で汚れと一緒に流してしまえば良いんですの」
リッシュは白い固形物を取り出して「これですわ」と指差してみせた。アイラがそれを興味深げに眺めるものだからリッシュの心に魔が差してしまう。
「よろしければ…その、私がお姉様のお身体を洗いましょうか」
「その石鹸?で?」
「え、ええ、そうですわ。初めて見るようですし、お手伝いしますわ」
「わー、ほんとー?ありがとう。おねがーい」
「!!!!」
お姉様の身体に触れる!と、リッシュは内心では飛び跳ねたい程に舞い上がっていた。しかしここで取り乱しては事を仕損じるかもしれない、何とか理性で自分を抑え込むとリッシュは顔を隠す様に俯いて桶の中の石鹸を泡立てる。隠した顔がにやけていた事は言うまでも無い。
「お、お姉様。準備出来ましたわ、ど、どうぞこちらへいらしてくださいまし」
リッシュはアイラの頭に何度かお湯をかけた後、石鹸の泡で頭を揉む様に洗い始める。その時に覚えた違和感が二つ。
一つは髪質、柔らかくサラリと流れる細い銀髪はその一本一本が硬質で傷んでいる髪が無い。鋭利だとすら感じる程で、強く洗ってしまうと自分の手が切れてしまうんじゃないかと心配になるほどだった。
そしてもう一つは頭部に付いた二つの小さな瘤の様な物。直接触らないと確認出来ない様な小さな瘤だ。
「お姉様、頭に瘤がありますわ。どこかでぶつけましたの?」
「あー、それ角だよー。小さいから皮膚の下に隠れてるんだー」
「あらまぁ、ふふ」
アイラが恥ずかしくて冗談を言ってる物と解釈したリッシュはそこで話を切り、「後で香油塗りますわね」なんて言いながら石鹸を洗い流した。
「では次はお背中を触り…いえ、洗いますわね」
アイラの白い肌は陶器の様に滑らかで、かつ強い弾性を持っている。その体の中にある幾重にも重なる強靭な筋肉は太さなど必要とせず、その皮膚も人間の扱う武器では傷一つ付かないだろう。人の姿はしていてもその本質は人では無い。
そんなアイラの体を愛おしそうに手で撫で回していたリッシュはまたもや違和感を覚えてしまう。背中にも瘤があるのだ。縦長に二対の瘤、これも手で触らないと気付かなかっただろう。ちょっと強めに押すと中に硬い物があるのが分かる。
「また…瘤、これ…中に…骨?みたいなのが…」
「ああ、それ羽だよー。多分生えてこないけど、骨だけ隠れてるの」
もしかして…と思い触ってみるとアイラのお尻の少し上付近にも瘤があるのが分かった。聞かなくても分かる、これは尻尾の名残りだと言うに違いない。
流石にここまで来ると冗談では片付けられなくなってくる。いや…むしろその方が今までの事全てに納得がいく。
「翼を含めた六肢…古竜と同じ骨格…ですわ」
「羽がそんなに気になるの?フラウ婆ちゃんには立派な羽があるんだよー、格好良いの。飛んでる所は見た事無いんだけどねー」
「フラウ…お祖母様……フラウ?」
リッシュが何かに気付きハッと驚いた顔を見せた。リッシュの考えが全て繋がったのだ。もうそれ以外は考えられない。
「お姉様のお祖母様の名前!リープフラウエン様ではありませんの!?」
「え?知ってるの?そーだよ、長いからフラウ婆ちゃんって呼んでるんだー」
「知ってるも何も!この国の守り神、白灼の竜姫、古竜リープフラウエン様ですわ!クライヌ家が掲げる紋章のモデルですの!」
「あー、あの旗のやつかー。うん、確かに似てるなぁって思ったかも」
「やっぱり!やっぱりそうですのね!やっぱり古竜伝説は本当の事だったんですわ!私は信じておりましたわー!」
熱が入って一人で盛り上がるリッシュに流石のアイラも少し気圧されるが大好きなフラウ婆ちゃんの話なら気になってしまう。
「あ…うん、…どんな話なの?」
「昔昔のお話ですわ。このハイラード領はとても恵まれた豊かな土地ですので利権争いが絶えなかったとか。それを見かねた真っ白な神々しい古竜、リープフラウエン様が現れてこう仰ったの、……この土地で争う事を禁ずる、これを破った者は灼熱の業火で焼かれる物と知れ……って。それでこのハイラード領をクライヌ家に託すと森へと飛び去って行ったっていうお話ですの。だから今でも大森林には人の手を加えてはならないっていう掟もありますのよ。かなり省略してしまいましたけど、だいたいこんな感じですの」
「フラウ婆ちゃんはそんな堅い喋り方しないよ?たぶん…こうかな。……うるさくて眠れやしないよ、静かにしないと皆焼いて食っちまうからね。ここの統治者は誰だい?クライヌ家?あー…じゃああんたのとこで上手い事やっておくれ……って、感じじゃないかな」
「え、えー…そんな砕けた方でしたの?い…いえ、不満がある訳じゃありませんことよ?ちょっとイメージが違っただけでして…」
「真っ白で神々しいっていうのは…その通りかも。真っ白な鱗が日の光を反射してすっごく綺麗なんだー。私はそれを眺める時間が一番好きだったよ」
「私も謁見したいですわ!是非!是非ともお会いしたいですわーー!」
「フラウ婆ちゃんなら大森林に住んでるよ、私もそこから来たんだー。森を荒らさなかったのは大正解だと思うなぁ、フラウ婆ちゃん怒らしたら町が土地ごと消えてたかも」
それを聞いたリッシュの顔がみるみる青ざめていく。
「よ…良かったですわ…掟も馬鹿に出来ませんわね…」
フラウは略称でした。やっと名前出せれました。
そして登場人物達の名前…実は…。まぁ、分かる人には分かるかな、と(笑)
あと、古竜の設定があの作品に似てるかもしれませんが偶然です!ほ、ほら、古いドラゴンの絵には四つの足とは別に翼がありますもんね。そんな感じで付けた設定ですので、パクリじゃないですよ。ええ、違いますとも。
違いますけど、ラ〇ズ楽しみですね!