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一億歳のお婆ちゃんの知恵袋  作者: しら玉草
第1章 白灼の竜姫
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第4話 人間の食べ物

さぁ、今年最後の投稿です。

来年も読んで頂けると嬉しいですね。


 会ったばかりのリッシュにお姉様と呼ばれてしまったアイラは困惑した。


「私はリッシュのお姉ちゃんじゃ無いよ?」


 それは至極当然の事だった、しかしアイラは兄弟以外にも敬愛の意味を込めて使われるものだということを知らない。


「あ、ごめんなさいまし。アイラ様があまりにも白く…美しく…お強いもので。私白い物が好きなんですの。ほら、私のドレスも白いでしょう?汚れたら大変だからやめてくれって…お父様にもお母様にも注意されてしまいますの」


「私の白さはお婆ちゃん譲りだよ。お婆ちゃんは私よりももっともっと白くて綺麗で強いんだよ!自慢のお婆ちゃんなんだ。んー…でも、私が強いというよりも君達が弱すぎない?絶滅してないの奇跡じゃない?逆に驚いたよー」


 アイラは人間という種族規模で言ったのだが、リッシュは一族規模で言われた物だと解釈し少し悲しげにうつむいた。


「う…ぅぅ、返す言葉もございませんわ、地魔法の名門だったクライヌ男爵家も落ちぶれてしまいました。お父様の代で爵位も剥奪はくだつされてしまう事でしょう…」


 魔法、その言葉を聞いたアイラの目が輝く。アイラはフラウから魔法を教わったものの精霊魔法の発動には至る事が出来なかったのだ。

 強化魔法は完璧で、フラウ婆ちゃんのとっておきの奥義も習得した。けれど精霊魔法は上手くいかず、精霊との対話は出来るのに攻撃性を持たせるには至らなかった。

 フラウ曰く「あたしも同じさ、精霊が活性化してくれなくてねぇ、おそらくだけど…あたしもアイラも精霊に攻撃を求めて無いんだろうねぇ」だそうだ。

 攻撃性というのは出力系全般だ。火を起こしたり風を起こしたり水を出したりを言うのだが、規模の大きさに関わらず発動した事が無い。

 とはいえそれで困ったりもしていないのだからフラウの言う通りなのだろう。求めてないから応えない。これも至極当然の結果だと言える。


「魔法!使えるの!?地って事は精霊魔法だよね?見せて見せて!」


「精霊魔法って何ですの?魔法と言えば詠唱魔法ではありませんの?でも…まぁ、どっちにしろ魔法が使えたのはお爺様の代で最後でしたの。私には使えませんわ」


「詠唱魔法?あれ?おかしいなぁ、お婆ちゃんが教えてくれたのは強化魔法と精霊魔法の二種類だったんだけど」



 そんなやり取りの最中だった、さっきまで外で指示を出していたダルモアが馬車の中に入って来て少し呆れた様な顔をしてみせる。


「おいおい、それは魔法の地盤を作った大昔の理論だろ?それを記した書物もほとんど残って無いってのに、それを教えた?何をバカな事を」


「えー、お婆ちゃんが間違った事なんて言うはず無いのになぁ、詠唱魔法なんて教えて貰ってないよ?そんなの本当にあるの?嘘だったら怒るよ?」


「強化魔法の理論を紐解いて技術を発展させ、精霊魔法へと至る。それが詠唱魔法として世界に広まったんだ。……それはリッシュにも教えたはずだが?」


 ダルモアはアイラからリッシュへと視線をずらし、叱責しっせきの目を向けるとリッシュは素早く視線を逸らしてしまいダルモアの口から大きなため息が漏れた。

 しかし次にアイラが言った一言でリッシュの視線が素早く戻ってくる事になる。


「強化魔法で…精霊魔法を?うーん……あ!お婆ちゃんにとめられたやつだ。うん、やっちゃいけないやつ、それね、ダメなやつ」


 それはアイラが幼少期の頃にとめられた物だった。誤って使わないようにと、最近ようやくやり方だけは教えてもらったのだ。


「どういう事ですの?」


「それって言葉を強化して精霊に命令するやつでしょ?」


「え…ええ、そうですわ。込める魔力が大きい程大きな威力が出ますの」


 本来精霊には人の言葉は伝わらない。それを強化魔法により伝える力を強化し、無理矢理に指示を出すのが詠唱魔法である。

 例えるなら魔力というメガホンを通して叫び、一方的に怒鳴り散らしているのに等しい行為だったりする。

 対して本来の精霊魔法というのは精霊と根気強く対話を試みる事で仲良くなり、意志の擦り合わせを行うものなのだ。


「あーやっぱりそれかー。精霊怒っちゃうからやっちゃダメだよー」


「精霊が…怒る?どうしてですの?」


「えーっと、リッシュは人間だから…うーん…例えるなら猿が良いかな」


「さ、猿!?」


「うん、見ず知らずの猿が急に偉そうに命令口調で指示出してきたらどう思う?」


「え、ええ!?それは…最初は驚きの方が大きいと思いますわ、何か理由があるのかもしれませんし、可能な事なら少しくらいは手を貸す…かも?」


「なるほどねー、じゃあそれが続いて猿に良いようにこき使われたら?」


「腹が…立ちますわね。弓でも持って来ようかしら」


「そう、そういう事。リッシュ達はソレをやってるんだよ」


 本来会話すら出来ないような相手が一方的に指示だけ出してくる。どんな丁寧な言い回しをしようともそんなものは傲慢ごうまんな命令でしか無いのだ。

 けれどもダルモアは子供の戯言ざれごとだと判断し、それ以上は会話に混ざる気が無いようだった。リッシュだけが顔を青ざめてアイラに擦り寄る。


「ど…どうしましょう、失敗ばかりだったとはいえ何度も命令してしまいましたわ。精霊様怒って無いかしら」


「今精霊を一人の人格者として認識し直したよね?その気持ちがあれば大丈夫だよ。これからは時間をかけながらゆっくりと対話していけば良いんだよ」


「分かりましたわ!…でもどうしたら良いのでしょう?」


「地の精霊なら土いじりしてれば仲良くなれるよ」


 アイラがそう言った時、リッシュだけでは無くダルモアまでハッとした様子でアイラを見つめて考え込んでしまった。

 いくら子供の戯言だとは言ってもアイラは命の恩人であり、その恩人の言葉を完全に否定する気にはなれなかったのだ。


「それなら…クライヌ家が地魔法の名門だった事も…なるほど…有り得る…のか」


 考え込んでしまったダルモアとは逆にリッシュはキラキラした眼差しでアイラを見つめていた。その眼差しはお姫様に憧れる女の子そのものに見える。


「はぁぁん…やっぱりお姉様とお呼びしても良いでしょうか?」


「ええええ!?」


「白くて強くて浮世離れしてて…まるでおとぎ話の白灼びゃくしゃく竜姫りゅうき様の様ですわ」


「白…灼の…竜姫?」


「ハイラード領に伝わる守り神の伝承でんしょうですの。私の大好きなお話でしてよ。古竜伝説はロマンに溢れてますの。古竜に比べたら新竜なんてただの羽トカゲですわ」



 なおもヒートアップするリッシュを遮りダルモアがアイラにかごを渡すと、その後にリッシュをたしなめるように口元に人差し指を立てた。


「古竜と新竜は実際別種だ、骨格も異なる。だが古竜は太古に絶滅した種だぞ、骨しか見つかってないのにハイラード領に出現しただなんて有り得んだろ?おとぎ話なんて派手な尾ひれが着くものさ。それよりも…アイラ、お腹が空いていたんだろ?恩人との約束をたがえる訳にはいかないからな。そのパンは全部食べて良いぞ」


 おとぎ話として語り継がれていたのはフラウで間違いないだろう。フラウは隠れ住んではいても人前に姿を出さなかった訳では無い。人と出会い、子を成している以上は当然人目に着く事もある。しかしアイラは目の前に出されたパンのかぐわしさに気を取られてしまいそれどころでは無かった。


 今まで食べ物といえば生で食べるか焼いて食べるかの二択で、味付けと言える物は肉を野草で包んで焼くくらいの事しかしてこなかった。

 アイラが料理について無頓着むとんちゃくなのには理由がある。それはフラウのせいだ。フラウには料理された食べ物の知識はあっても料理をする知識が無いのだ。覚えた所でフラウの前肢ぜんしは人間の様に器用には動かない、巨大な爪で引き裂くのがやっとだろう。自分がやれないのだから孫に教える事も出来ないという訳だ。

 人間が料理をするのは料理をしないと安全に食事が出来ないからであり、どうせ料理をするのなら美味しいものを食べたいという欲求により技が磨かれる。

 それに対しフラウもアイラも元々料理というものを必要としなかった。この二人に羊を与えればその場で引き裂き生肉を喰らうだろう。

 アイラはちゃんと切り分けてから手で持って食べる分だけ野生の肉食獣よりは人間らしい食事をしていたと言える。


 そんなアイラでさえ目の前のパンの香りには興味津々だった、それは匂いだけで美味しいものだと判断出来るものだったのだ。

 料理というのは食欲を最大限に満たす為の技術であり、三大欲求の一つを掌握しょうあくする魔性の技術でもある。

 貴族の食す香り高い小麦のパン、その中でもダルモアが差し出したのは一級品だ。何故ならダルモアが統治するハイラード領は…。


「我がハイラード領は王国からは遠く離れた田舎町でな、広大な麦畑と放牧地を有しているんだ。上質な小麦に上質なバター、パンには自信がある」


 そう、男爵家が統治している土地にしては非常に恵まれた豊かな土地なのだ。そんな豊かな土地であるにも関わらず最近のハイラード領は平和とは言い難い事件が増え始めていた。今回の盗賊騒ぎにしたって今までは無かったものだ。盗賊を捕らえる事が出来たのはダルモアにとって大きな収穫だろう。

 馬車に乗せていたパンは自分達の為に用意していた食事だったが全てアイラに差し出したとて不満を言う者は一人も居なかった。命の恩人である上に領地の恩人に成り得るだけの働きをしてくれた少女に不満などあるはずも無い。

 しかし不満は無くとも腹は減る。リッシュのお腹がキュルキュルと可愛らしく音を立て、慌ててお腹を押さえると真っ赤な顔をアイラから背けた。


「ち、違うんですのよ!?そ、その…緊張が解けた後で…隣で良い匂いがしたもので………うー…恥ずかしいですわ。気になさらないで頂けると嬉しいですの…」


「そっかぁ、これリッシュ達のご飯だったんだね。空腹は辛いよね」


「き、気にしないでくださいましー!そういう追い討ちは…もがぁ!?もふぅ??」


 振り向いたリッシュの口にパンがじ込まれ、言葉を続ける事が出来なくなったリッシュは困惑のあまり事態とパンを飲み込めずにいた。捩じ込んだ犯人は当然アイラだ。


「食べ物の恨みはね、怖いんだよ」


 混乱した頭を整理し、口内のパンを処理し終わると、リッシュはようやくアイラの意志を理解した。


「私も頂いて…良いんですの?」


「うん、一緒に食べよう。……って、あれ?これダルモア達のご飯でもあったってことだよね?どうしよう、私が食べたら誰かのが無くなる?」


 それを聴いたダルモアは愉快そうに笑った。規格外で常識知らずな少女だと思っていたのに変な所で律儀なものだから思わず笑みがこぼれてしまったのだ。


「それこそ気にするな。育ち盛りの二人で食べてくれて構わない。命の代価がパンであるならむしろ安すぎるくらいだ」


「うーん…そういう事なら遠慮無く貰おうかな」


 そう言ってパンに口を付けた時、アイラはその食感に驚いた。表面がパリッと程よい抵抗であるのに対して中身はフワッと柔らかいのだ。そしてパンの中に仕込まれた細かい胡桃くるみがアクセントとなり飽きない食感を生んでいる。


「んー!んー!何これ、美味しい!なんか…えーと…凄い!」


 美味しさを伝えたかったアイラであったが、その語彙ごいはあまりにも貧弱だった。流石のフラウも食レポまでは教えて無いのだから致し方無い。


「んふふ、アイラお姉様てば、可愛いですわ」


この作中での新竜は進化の過程で伝説上のドラゴンに似てしまった種となります。収斂進化ってやつですね。

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