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一億歳のお婆ちゃんの知恵袋  作者: しら玉草
第2章 ジボーゲンの獣
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第34話 指針


 村の者達は昼に騒ぎすぎて少し疲れてしまったのだろう。夜には皆大人しくなっていた。丸太を組んだ大きな焚き火を篝火かがりびとして囲み、思い思いに酒を飲み交わしている。

 しかしそんな一時ひとときの平和は突如とつじょとして終わりを告げる。焚き火の灯りに誘われるようにして巨躯きょくの獣が姿を現したからだ。

 その姿は正にジボーゲンの獣であった。


 ただしその顔に生気は無く、四肢はだらしなく引きられている。その姿は誰が見ても死体であり、その死体を引き摺っていたのは今回の主役とも言える純白の女の子、アイラだった。

 村人達の短い悲鳴はすぐに失笑へと変わっていくこととなる。


「は、はは……なんだい嬢ちゃん、脅かさないでくれよ」


「ん?今日の晩御飯持ってきただけだよ?」


「あ、ああ…そうかい、なるほどねぇ、これ…食えるのか?いや、食えるとしても...食うのか?」


「あげないよ?毒残ってるかもだしぃ」


「要らんが……毒?あー……仕留める時に強力なやつ使ったのか、なるほどなぁ。って毒回ってるって!?嬢ちゃんそれ食って平気なのか!?」


 毒、それは騒動の発端とも言える相剋そうこくの竜姫であるアマレットの血なのだが、村人は今回の戦闘で使ったものだと解釈かいしゃくして納得した。毒で弱らせて仕留めたのなら女の子だけで勝てたのも頷ける。実際は殴って怯ませ、爪で首を掻っ切ったのだが…それは到底信じてはもらえないだろう。


「平気だよ。私ならね」


「ほほー……便利な毒もあったもんだなぁ」



 そうして解体が始まる...のだが、ジボーゲンの獣は象に匹敵する程の巨躯だ、解体は重労働となるにも関わらず村人達が率先してやってくれた。

 というのにも訳がある。村の英雄様にやらせる訳にはいかない…というのももちろんあるだろう、だがそれよりも大事な、深刻な理由だ。それは…アイラの解体があまりにも雑だった事だ。


 噛み付いて皮を裂き、手を入れて引きちぎる。そんな目を疑うような力業を披露され、最初はあっけに取られた村人達もふと冷静になるとアイラを止める。その理由は金銭的なものに他ならず、貴重な素材の価値が下がってしまうのはあまりにも痛手だ。


「なあ!なぁ嬢ちゃん!解体は俺たちに任せてくれよ!」


「ああ!そうだぜ!英雄様は休んでてくれよな!」


 村人達の鬼気迫る説得によりアイラは少し困惑気味に了承し任せる事にした。


「え?あぁ、ん?そんなに解体好きなの?変なの。分かったよ、任せるー。あ、でも味見しちゃダメだよ?危ないよ?」


 と、アイラは言うのだが...実際問題として、実は竜の血は本人オリジナルの物を摂取しなければ本来の毒性は発揮されない。

 ジボーゲンの獣の身体で希釈きしゃくされた竜の血にはアイラが危惧きぐするほどの毒性は無いのだ。生命を脅かすものでは無い。まぁ、せいぜいトイレとお友達になるくらいだろう。...が、それでもアイラは心配していた。



「はは、嬢ちゃん意外と心配性だな」


「そう…なのかな?でも君たちすぐ死ぬからなぁ。ここの人達にはお肉たくさん貰ったし、出来れば生きてて欲しいかなーって、思うよ」


「確かに英雄様からしたら弱く見えるかもしれねぇ。でも俺たちは都会の奴らよりはよっぽど頑丈だぜ。まぁ、コレは食わねぇし食う気も起きねぇから安心してくれよ」


「そっかぁ……ん、分かったよ」


 人間は皆等しく弱い。戦闘力で言えば古竜は最上位の生き物と言って差し支えないだろう。その血を引くアイラには人間がどの程度で死ぬのか分からないのだ。




 村の男達によって解体され、火であぶられたくだんの獣に生前の面影は無く、きつね色の肉塊となったソレはもはやただの食べ物と化していた。

 しかし、夜のメインディッシュとも言えるソレにかぶりついたアイラの表情は無であった。夜空を見上げ、肉を噛み締める。


「んー...、皆で食べたこの村の牛のが美味しいや」


 そんな独り言を呟き、自分でも上手く表現出来ない気持ちを胸に抱くのを感じた。それでも表現出来ない事を考えても仕方ないと思い立ち、再び肉を平らげていく。



 少しして、肉を焼く大きな篝火に引き寄せられてか、アイラの元へ今回の主役達が集う。リッシュとカルアだ。両者ともに次の指針ししんを掴んでおり明るい表情を見せていた。


「おねぇえええさまぁあ!私!使えましたの!魔法!何か大事な事に気付いた気分ですわ!地の精霊様と仲良くなれる気がしてきましたわぁあ!」


 そう言ったリッシュの膝は土で汚れていた。精霊と心を通わせる事に成功したのがよほど嬉しかったのだろう。荒地にクローバーの種を植えるだけの作業に興が乗ってしまった事が見てとれる。


「そうなんだ、リッシュは凄いね」


「んはああぁん!そんな!そんなそんな...お褒めに預かり恐悦至極きょうえつしごくですわぁ!これからはお姉様の財宝として恥じぬよう精進しょうじんいたしますわ!」


 「これからは」という言葉、それはいざと言う時に役に立たなかった自分へのいきどおりから無意識に出てしまったものだった。

 「精進するから捨てないでください」なんて気持ちも内包されていたのかもしれない。それでも役に立てる足掛かりを得て少々浮かれた気持ちも相まっていたのだろう、口調自体はいつもの明るいリッシュそのものだった。


「...リッシュを恥ずかしいなんて思った事...一度も無いんだけどな」


「んんぅっ!駄目!駄目ですわお姉様!そんな嬉しいお言葉を頂いてしまったら!私!私はもう理性が!理性がぁあ!」


 そんな悶絶するリッシュを制するように押し退け、前に出てきたのはカルアだった。その顔は呆れ顔で有りながらも以前の様な棘は無く、リッシュを優しく見つめていた。


「こうなったらコイツ...もう話にならないだろ。なぁアイラ、あたしからも話がある。少し時間くれるかい?」


「うん!良いよ。お話しよう」


「あたしは...まぁ、当たり前ではあるんだが、これからあんたらとは別れる事になる。とは言え装備も新調する必要があるから狩りにも出られない」


「じゃあ一緒に行こうよ。たぶんリッシュも喜ぶよ」


「.....ん、そか。そう言ってくれるのは...素直に嬉しいよ。でも今は...な。また出会う事があれば改めてってとこだな」


「そうなんだ...、残念、せっかくリッシュに友達が出来たのにな」


「友達...か、ふふ...友達か?あはははは、そうか、あたしとリッシュは友達だったのか。関わりたくないヤベぇ奴だと思ってたのにな。ははははは」


 そう言うカルアの声色はいつもの低めの作り声では無く、本来の女の子らしい高い声で愉快そうに笑っていた。けれどもそれに引き替えアイラの表情にはほんの少しだけ寂しそうな表情が浮かんでいた。


「私は、友達じゃないらしいからさ。少し羨ましいよ」


「そんなこと.....あるな、神だもんな」


「むー...」


「ははは、いずれ今の関係性も変わるさ、友達と呼び合える日も来るよ」


「そうなると...嬉しいな。ね、リッシュ」


 話しかけられたリッシュは我に返り再びパタパタと近寄って来る。


「お呼びになられましたかお姉様ぁ!」


「ううん、今は何でもないよ。だんだん変わっていくよねって話してたの」


「?...?...申し訳ありませんの、なんの事かは分からないのですが...私のお姉様への愛と忠誠だけは永遠のものですわぁ!」


 それを聞いたカルアはまた愉快そうに笑う。


「あははは!まだまだしばらくは掛かるかもな」


「むー...」


「?...?...あ、そういえばお二人の話は終わりましたの?」


「あー...、そうだった。途中で話が脱線しちゃったな。まぁ、掻い摘んで言えば情報提供さ。次の獲物の情報が聞けたは良いのだけど...あたしには武器が無い。...で、この情報を腐らせるのも勿体無いからな、あんたらに渡しに来たのさ。この情報で利益が出た時は...あたしにも少し分け前をくれないか」


「情報料ってことですわね。でも私達は別に狩りで路銀を稼いでる訳では無いですわよ。前言いました通りお姉様のお母様を探していますの。得体の知れない獣がいる場所はお母様が居らっしゃる可能性が高いのですわ」


「そうなのか、だとしたら...むしろ大当たりかもしれないな。実は...妖精を見たという者が居る。あんたら北から来ただろう?更に南だ」


「あら、そうでしたの?実は妖精は私も少し興味がありましたの。前に見かけたのですが逃げてしまいまして。でもカルアさんの言う通りなら更に南下すればまた会えるかもしれないですわね」


「なんだって!?リッシュも見たのか。これは...信憑性しんぴょうせいの高い話になってきたな。それに...お前たちなら捕まえるのも容易だろう」


「いえ、私達の目的とは違いますし、捕まえて売る...なんて事はしたくないですわね。でもおかげで次の目的地に目星が付けれましたわ」


 リッシュの手には小金貨が一枚、その手はカルアへと向けられていた。


「ん?」


「情報料ですわ」


「いや、それは流石に貰えない。この情報はここの連中から無償で貰ったものだからな。あくまでも...儲けが出た時にだけ分け前として頂くさ」


「あら、そうですの?まぁ、そういうことでしたらそうしますわ」


「ああ、⋯何故だろうな、風の導きに従えばまた会える。そんな気がするのさ。だから⋯願掛けも兼ねて⋯さ。なんだかんだで楽しかったよ、あんたらと一緒に居るの」


「!!、お姉様!カルアさんがデレましてよ!」


「んな!?そんなこと!⋯くっ、茶化すな⋯くそ」


 カルアは厨二病気質な所がある。思わず恥ずかしい台詞を吐いてしまった後に我に返りハッとした表情で顔が赤く染まっていく事となった。

 そうして、この村での最後の夜が終わって行く。


ああああああ、1年以上経ってたぁぁぁああ

でも!エタりません!エタりませんからね!

なので、モチベをくださいいぃぃぃ

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