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一億歳のお婆ちゃんの知恵袋  作者: しら玉草
第1章 白灼の竜姫
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第19話 これから


 事件から一日が経過し、舞台はクライヌ家の屋敷へと移行していた。


 流石に皆…いや、アイラ以外は満身創痍まんしんそういであり、事件当日は治療や後片付けに追われ慌ただしく過ぎ去り今に至る。



「それで、アイラはこれからどうするつもりなんだ?」


 そう切り出したのはダルモア。時刻は朝方、朝食をとった後の事であった。

 当然の事ではあるが腹に穴の空いているダルモアは一緒に食事をとる事は出来ない。アイラとリッシュはメイドの言伝でダルモアの部屋に呼ばれていた。

 ダルモアはベッドで横になってはいたが、腹の傷は綺麗な刃物で重要な臓器を避けるようにして刺されていた上に処置も早かった為オーバンに比べればまだ軽傷だと言える。

 鉛玉で胸部を雑に破壊されたオーバンの方が実はかなりの重傷だ。


「んーと、私の服が出来たらここを出るよ」


 これからの旅の為にもやはり丈夫な服が欲しいところである。良い素材も手に入ったしアイラ自身新しい服の出来上がりをワクワクしながら待っていた。

 オオノヅチの解体作業はフィディック商会の伝手で急ピッチで進んではいるが難航しているようだ。もうしばらく時間が必要だろう。


「そう…か、ここに残って欲しいというのが本音ではあるのだが…仕方あるまい。で、だな、次は報奨金の話になるのだが、我がクライヌ家もそこまで裕福という訳では無いのだ。……朱金貨1枚でどうだろうか、足りないか?」


 朱色しゅいろをした金貨、朱金貨、それは金を超える価値を持つ緋色ひいろの金属をほんの少量だけ金に混ぜて造られた金貨である。更にその含有量を増やした緋金貨という貨幣も存在するが、その金貨を目にする事無く一生を終える人がほとんどだろう。

 今回ダルモアが提示した朱金貨1枚、それは新築で家が建てれるほどの金額であり、個人に支払われる報奨金としては破格だと言える。

 しかしそれに異を唱えたのはリッシュであった。


「領地を救ってくださった恩人にその金額は少ないと思いますわ」


「ぬ……いや、分かってはいるのだ。だがな…」


「そうですわね。朱金貨で2枚…いえ、3枚くらいが妥当では無くて?」


 その金額を聞いてダルモアは頭を抱えてしまう。それは騎士爵クラスの家が建つほどの金額であり、男爵家といえど簡単に出せる額では無い。そもそもクライヌ家が恵まれているだけで本来男爵家もランクとしては騎士爵同様に貧乏貴族の部類に入るのだ。

 ダルモアは少しだけ、ややすがるような目線をアイラに向ける。


「アイラは…どう思う?いくら欲しいんだ?」


 しかしアイラは二人のやり取りには関心が持てずにいた。そもそもお金の価値を知らないのだ。フラウに教えてもらっていないという訳では無いのだが、実はフラウも貨幣を使った事が無い。というよりも使える訳が無い、人里にフラウが現れたら大混乱を招くだろう。「人間は硬貨を大事に持っている」くらいの知識しか無い。


「金…貨?聞いた事はあるよ。人間の財宝なんだよね。それは何に使えるの?」


「そう…だな。アイラが好きそうなもので言うと…食べ物と交換出来るな」


「それなら食べ物ちょうだい。交換するの面倒だし、最初から食べ物が良いよ」


「んむ?まぁ…その方が俺も助かるが。食べ物は嵩張かさばるだろう?金なら場所も取らないし、人里を見つけたらその場で交換出来るんだぞ?」


「食べ物なんてそこらじゅうに居るよ?」


「ん?お、おお。えーとだなぁ、人間が作った食べ物の方が美味しいだろ?」


「美味しかった!そっか…それは…良いなぁ。でも使い方分からないよ?」


「あぁ、それならリッシュに教わると良い。金額の話はその後でも良いだろう」


 食べ物が欲しいだけならそこまで高い金額は要求されないだろう。それにリッシュもアイラとの別れは辛いはずだ、せめて旅立ちの時までは一緒に居させてやりたい。

 名案が出たと安堵するダルモアだったが次の瞬間再び頭を抱える事となる。


「あら、お父様。その必要はありませんわ。アイラお姉様のお金は私が管理しますもの」


「……それは…どういう……いや、言わないでくれ。分かる…何を言おうとしてるのかは分かる。だがそれを許可するとでも思っているのか?」


「お父様でもおかしな事言いますのね。私は既にお姉様の財宝ですの。同行する許可ならお姉様から必要なのですわ」


「リッシュ!ふざけた事を!……っつ!はぁ…はぁ…俺は腹に穴空いてるんだぞ、大きな声を出させないでくれ。………本気なのか?」


「本気…ですわ。私…お姉様の血を飲みましたの。あの化け蛇…オオノヅチと似たような存在ですの。私は古竜の財宝ですのよ…」


 ダルモアの表情が強ばりアイラに敵意が向けられる。それを感じ取ったリッシュは慌てた。悪いのはアイラでは無い、自分なのだ。


「違いますの!お姉様は止めてくださいましたの!私が勝手にお姉様の血を舐めたのですわ!むしろおかわりしたい気持ちを抑える事しか出来ませんでしたの!」


「んんんん!?…お…おぉ…そう…か?」


 ドン引きしたダルモアは同時に頭に登った血まで引いていく。自分の娘がこんな変態になっていた事に頭が追い付かなかったのだ。思考を止めたと言い換えても良いだろう。

 ダルモアは何とかして停止した頭を回そうとアイラに質問を投げかける。


「古竜の血…だったか?グレインが言っていたのは鱗ではあったが…生き物を異形の姿にする物だと聞いた。だがリッシュは人の姿のままに見える。古竜の血とは…何なのだ?」


「毒だよ?ただの毒。耐えられなければ死ぬし、耐えれたら死なない」


「リッシュは…耐えたのか?」


「んーん、馴染んだの。毒に抗わないと馴染むんだってさ、フラウ婆ちゃんが言ってた」


「ん?それは耐えたのとどう違うんだ?」


「耐えたら何も起きないの。馴染むとね、血の持ち主と体質が似るんだって言ってた」


「……それだけか?」


「リッシュはね、それだけだよ。私がそうする」


「アイラの気分次第で他の事が起こるんだな?」


「んむー……大丈夫だよー、リッシュは初めての友達だもん、捨てたり忘れたりしないもん」


 アイラは駆け引きが出来る質では無い、その言い回しからダルモアは「他の何か」が発生する要因に気付き、心の中で何かを諦めた。

 財宝というからには所持している事に意味があるのだろう。そしてその持ち主が財宝を捨てる事で良くない事が起こる。…と、ダルモアはそう捉えたのだ。そしてそれは正解でもあった。


「そうか、それなら良い。くれぐれもそうしてくれ。あと…リッシュを連れて行くのならすまないが守ってやって欲しい。妻の忘れ形見でな、俺にとっても宝なんだ」


「うん、守るよ!私のだもん!」


「そうか。まぁ…あれだな。目的を果たしたらここに戻ってくるんだろう?それまで待つとするさ。寂しくなるが…リッシュをよろしく頼むよ」


 それを聞いていたリッシュは意外そうな目でダルモアを見つめていた。


「良いんですの?どうやって強行しようか悩んでましたのに」


「それが一番だろうと判断しただけだ。だが…なるべく早く帰って来いよ。確か…旅の目的は母親探しだったか。俺に手伝える事があるなら言ってくれ」


「ありがとうございます、お父様。でも…そうですわね…お金以外だと情報が欲しいですわ。旅に出ようにもどちらに進めば良いのか分かりませんの」


「情報…か、分かった。何とかしよう。今はもうしばらくゆっくりすると良い」


 話に区切りが付いた事でアイラとリッシュは部屋から出ていく。ダルモアはリッシュが一礼して出ていくのを見届けた後、部屋の窓から遠い空を眺め続けていた。



ちょっとだけお金の設定を変えました。

13話の賄賂を大銀貨から小金貨に変更してあります。

金貨の価値を一段階下げました。

作中で説明するつもりが無いのでここで言ってしまいます。

小銅貨(十円)、大銅貨(百円)、小銀貨(千円)、大銀貨(一万円)、小金貨(十万円)、大金貨(百万円)、朱金貨(一千万円)、緋金貨(一億円)。

だいたいですが、大雑把にこれくらいの価値だと思って欲しいです。

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