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一億歳のお婆ちゃんの知恵袋  作者: しら玉草
第1章 白灼の竜姫
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第15話 オオノヅチ

今回はちょっとグロ表現有りな感じです。


 最初に聞こえたのは…男の悲鳴だった。

 悲鳴は建物の外から中へと侵入する。


 次に聞こえたのは…建物のきしむ音だった。

 壁をこする音、壁の板の割れる音。


 異臭に気付いたのはその後だ、臭い、生臭い。

 糞と血が混ざったような…悪臭。


 ソレの正体は通路いっぱいの…巨大な口だった。

 その口が開く度に悪臭が発せられる。大口を開けた姿は洞穴を連想させ、臭いの発生源となっている物体はその洞穴に残されていた。人間の…死体である。

 では、その口の正体は何か?そう、これこそがオオノヅチ。胴が太く丸みを帯びた蛇。いや、蛇と呼んでいい物かどうかは謎だ。何しろ…胴だと思っていた部分の半分近くが口内だったのだ、口と胃袋が近いのか胃液の様な臭いも漂う。

 オーバンは5メートルを超えると表現していたが実際は7~8メートルはあるだろう。長さで言えば蛇としては有り得る長さだ。しかしその太さが有り得ない。けっして狭くない通路をふさぐその巨体は通路の壁を破壊しながら前へと進む。


 フィディック商会の従業員達の思惑通りに建物へ入ってきたオオノヅチは、従業員達の思惑を裏切る程に…飢えていた。

 食べても食べても食べても足りないとばかりに口いっぱいに生き物を入れたがる。そんなオオノヅチの瞳は何故か悲しげに潤んでいた。


 オオノヅチは人間の悲鳴とともにアイラに近付いてくる。アイラの近くに人が…餌が集まっているせいだろう。オオノヅチは食べても食べても食べても満たされない。何故満たされないのか、オオノヅチも気付いていない。本当に飢えているのは…腹では無い事に…気付いていない。



 そんなオオノヅチに対峙したアイラはその化け蛇に対して思う所があった。アイラ自身想定していなかったのだ、こんな事になっているなんて。


「いや…くさっ…食欲無くすよ!」


 アイラにとってはオオノヅチの心境など知った事では無い。食べるつもりで来たのだ。それがまさかこんなに不味そうだとは思いもしていなかった。


「いや無理、ほんと無理、え?こっち来る?いや無理、ほんと無理ーー!」


 オオノヅチは食べた物を消化するよりも早く次々と食らっている、蛇は元々長い時間をかけて消化を行う生き物だ、以前食べた物も消化しきれておらず、腐敗した臭いがオオノヅチの口内に充満している。人間よりも感覚の鋭く鼻の良いアイラにはたまったものでは無い。流石のアイラもたじろぎ後退りし始める。


「もう!こっち来んなぁ!」


 アイラは落ちていた瓦礫がれき、もとい自分が破壊した柱の一部をオオノヅチへと投げつける。それがたとえ細い棒であったとしてもアイラの手によって投げられたそれは人間が使ういしゆみにも匹敵する威力となってオオノヅチを襲う。

 しかしオオノヅチの顔に当たった木の棒は皮膚を破る事が出来ずに砕け、床へと木片が落ちる事となった。木材ではオオノヅチの皮膚を突破出来なかったのだ。


「あっりゃあ……牛くらいなら今ので仕留めれるんだけどなぁ」


 何事も無かったかのように近付いてくるオオノヅチを前にアイラは逃げるように走り出す。もちろん本当に逃げている訳では無い…が、ある意味逃げたと言うべきだろうか。


「建物の中じゃ臭過ぎてもう嫌!」


 アイラは逃げた。………臭さから。

 窓ガラスを破壊して外へと出たアイラは屋根に上がると大きく深呼吸する。ここなら臭いが分散して少しはマシだろう。

 屋根から見える遠くの空は少し明らんで見えた。




 ◆  ◆  ◆




 時は僅かにさかのぼり、オーバン達は地下への階段の前に居た。


「オーバン、玄関の方から何か聞こえませんこと?」


「悲鳴…ですな。しかし…どうにも妙です」


 悲鳴は聞こえた、そしてその悲鳴の主は商館へと侵入した。にも関わらず足音が聞こえなかったのだ。悲鳴を上げながら逃げ込んだのに足音がしないなんて事があるだろうか。


「リッシュ様、足音を立てずに階段を降りて身を隠してくだされ」


「え?…ええ」


 そういうオーバンも階段近くの壁に身を隠し気配を殺す。元々オーバンの得意技は気配を殺して動く事にある。今起きている事態を把握しておきたいという思いから1階に留まったオーバンは玄関への通路を確認した。

 引きずるような音ととともに通路から顔を出したのは…通路いっぱいのトカゲのような顔。手足が無い為蛇のように見えるが顔はトカゲの方が近いように思う。


「…オオノヅチですな、またデカくなりましたかね」


 流石に自分がかなう相手では無い。オーバンは静かにやり過ごそうとし、じっとその時を待つ。そしてその時に聞いてしまったのだ。…悲鳴を。


「…ああ!あぁぁぁ……あ、ぎっがぁ!!いてぇよぉ…死にたくねぇ…」


 悲鳴はオオノヅチの中から聞こえたように思う。食われた者がまだ生きている?あの太い胴体の中はどうなっているのだろうか?


「ひぃあ!なん…そん…も…………ぷぁぎゃ…」


 それ以降はもう何も聞こえなくなった。おそらく息絶えたのだろう。オオノヅチの太い胴体がモゴモゴと動く。

 オーバンはただ…息を殺してオオノヅチが去るのを待つ事しか出来なかった。



「もう…行きましたかね。奴はアイラ様に任せましょう」


 オーバンは先に降りたリッシュと合流すべく階段を降りていく。そして同時にグレインの居場所も知る事となった。やはり地下で合っていたのだ。合ってはいたが会うタイミングは最悪だと言える。グレインが居た場所は階段の下だったのだ、騒ぎを聞きつけ上の階に上がろうとしていた所だったのだろう。

 リッシュの腕を掴んだグレインが苦々しい顔でオーバンを睨み付けている。


「おやおや、オーバン殿。この騒ぎは貴方の仕業ですかね?えぇ?」


「…これはこれはグレイン殿、約束通りリッシュ様は連れて来ましたぞ」


「門番はどうしたのです?それに先程の警笛は何だったのでしょう?」


「賊が…現れましてな。門番の代わりに私が参りました」


「上が騒がしいようですが?それも賊だと?」


「…ええ」


「ふん、白々しい。まぁ良いでしょう、この通りリッシュ様は私が引き取りました。もう下がって良いですよ、賊を殺してきなさい」


「………」


 しかしオーバンは下がらない。下がればオオノヅチの餌として人生を終えるだろう。再び裏切り者となり、餌として死ぬくらいなら最後くらいは忠義を尽くし、人として死にたいと…オーバンは腹を括ったのだ。


「…ふぅ、残念です。オーバンには制裁を与えましょうか」


 グレインはリッシュの腕を掴んだままオーバンに近付いていく。グレインのもう片方の手に握られた短剣はリッシュが人質である事を物語る。


「どうやら最後の詰めをしくじってしまったようですな。リッシュ様…申し訳ありません。旦那様によろしくお伝えくださると嬉しいです」



 決着は着いた、それはグレインとオーバンの双方が納得した。納得していないのは…リッシュただ一人、リッシュだけが納得出来ずにいる。


「もう!勝手に終わろうとしないでくださいまし!」


「暴れないでもらえますかね、女性の力で振り解けるとでも?」


「私は…私はもう怯えるだけの女じゃありませんの!アイラお姉様の財宝ですのよ!」


「何を戯言を……な!熱…い?いったい…何を…」


 グレインの拘束を解こうと必死に力を振り絞ろうとしたリッシュの腕が熱を帯び、次第にその熱は真夏の太陽に照らされた石の様な温度になっていく。耐えられない程の熱では無いがずっと触っていると火傷をしてしまいそうな…そんな熱さだ。

 そして変化は熱さだけでは無い。片手では拘束出来ない程にリッシュの力が増していく。それは決して劇的げきてきな変化とは言い難い、成人男性と同じくらいの力だろう。しかし身体を鍛えてもいないお嬢様に出せるような力では無かった。



通路いっぱいの口です。パック〇ンが襲って来るのイメージしてもらえると分かりやすいですね(笑)

胴が太く足が無いので前身する速度は遅めです。跳ねるスペースも無いですからね。

次回はVSグレイン。

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