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一億歳のお婆ちゃんの知恵袋  作者: しら玉草
第1章 白灼の竜姫
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第13話 暖かくなる力


 フィディック商会の門は太くて頑丈な鉄格子で組まれており、その門の前には二人の門番が立っていた。流石は大商人たるグレイン・フィディックの商会を守っているだけあって門番の装備の質も大した物だ。

 手を覆う様な大きなヒルトの両刃の剣を携え、厚手の布で覆われた衣服は金属鎧で無くとも十分な防御力を有する。そして何より鍛えあげられた屈強な身体付きをしていた。高給を受け取っている優秀な門番である事がうかがえる。


「ほっほ、見張りご苦労さまです。この通りリッシュ様をお連れしましたよ、グレイン殿は今どこにおられますかな?」


 門番の前にやって来たのはオーバンとリッシュの二人、御者は離れた所で待機しており、アイラはというと既に外壁を飛び越えて門の内側に入っていた。

 ダルモアの無事を最優先とし、居場所が分かるまでは暴れない様にと言われているアイラはやや不服そうにオーバンと門番の話に聞き耳を立てている。


「グレイン様なら領主のとこさ」


「で…あれば、どの部屋に居られるのですかな?」


「おっと、わりぃな爺さん。ギリギリの所で裏切られたら困るんでね。領主の娘は俺が連れて行く手筈になってんだ。さぁ、その娘を渡してもらおうか」


「ほっほっほ、今更裏切るだなんてとんでもない。その役目譲ってはくださいませんかな。なぁに…悔しがる旦那様の顔が見たいだけでしてな」


 そう言うオーバンの手には一枚の小金貨。それを見た門番の眉が僅かに上がり口元がニヤける。一般的な兵士であればそれだけ稼ぐのに一月はかかるだろう。ここの門番が他に比べ高給と言えど平民の暮らしは貧しいものだ、正直喉から手が出る程欲しいはずだ。…が、門番は苦々しい顔で首を横に振る。


「いーや、無理だね。信用を失えば職を失う。任務は言われた通りに遂行する。爺さんにはここで門番を代わってもらうぜ。俺の相方の見張り付きでな」


 仕事熱心…というよりは今のポジションが余程美味しい職場なのだろう。そして買収されそうになったという事実はオーバンへの警戒をより強いものとした。


「そこを…なんとか」


「くどい…ん?それは何のつもりだ」


 交渉は無理だと判断したオーバンは剣を抜くと門番へと切っ先を向ける。


「そこを…なんとかしてくれと、言っているのですよ」


「剣でか?は!面白い!こっちは二人居るんだぞ!いくら影切りのオーバンと言えど正面からの立ち会いで勝てると思うなよ!」


「ほっほっほ。その二つ名…少々恥ずかしいのでやめていただきたいのですがね。それに…どうやら残りは貴方一人だけのようですよ?」


「あ?何言ってやが……はあ!?」


 鉄格子の隙間、しかも門の内側から伸びてきた女の子の手がもう一人の門番の首を掴んでいた。もちろんアイラの手だ。

 アイラからしたらかなり手加減してはいるのだが門番は口から泡を吹き、手から武器を落とし、目は虚ろで、体は力なくぐったりとしている。


「アイラ様、お手をわずらわせてしまい申し訳ございません」


「んー、咄嗟に首塞いじゃったけど良かったー?」


「ほっほっほ、普通は塞ぐのは口なのですけどねぇ」


「えー?フラウ婆ちゃん言ってたよ?相手を無力化したい時は首を塞げって」


「考え方が猛獣のそれですな、いやはや恐ろしい」



 オーバンと相対していた門番は咄嗟の事に理解が追い付かずにいたが、アイラを敵と見なすやいなや剣をアイラへと振りかぶる。

 狙いはアイラの腕、鉄格子から覗く剥き出しの腕はあまりにも無防備、アイラの腕を切り落とせば相棒も助ける事が出来るし数的にも対等に持ち込める。良い判断だとは思うが判断を誤ったと言わざるを得ない。何せ相手は…古の竜の子孫なのだから。


「な!?何故だ!何故斬れん!いや…何故…」


 傷すら付いていないのか。アイラの腕を切り落とすつもりで振り抜いた剣の軌道はアイラの腕で止まり、それ以上前に進む事が無かった。

 腕に鉄甲でも着けているのか?否、硬い感触など無かった。感触で言うのなら木の棒でゴムの塊を殴った感じに近い。

 ただ…ただ単純に切れない。ただ単純に切断に至らない。剣の鋭さが、剣の速さが、門番の腕力が、全てにおいてアイラの強度を下回る。


「んー、ちょっと、痛かったかな」


 アイラからしてみれば尖った金属で殴られるというのは初めての事だった。その痛みとしては小さな子供が木の枝で叩いてきた程度の物だろう。イラッとする、その程度の痛みであり、その程度の感情しか湧かない。

 それは僅かな敵意だった。だがそんな些細ささいな敵意でも門番は背中に冷水を浴びせられた様な寒気を感じ素早く己の身を門から遠ざけた。



「ほっほっほ、流石ですな。引く時は引く、良い判断です」


 アイラの異常性、そのヤバさに気付いた門番に対してオーバンは素直に賞賛を送る。おそらく門番は既に敗北を理解しただろう。


「おい、爺さんよ。あの白い娘は何なんだ」


「そうですなぁ、神様のお孫様…ですかねぇ」


「あ?真面目に答える気は無さそうだな」


「ほっほっほ、私は至って真面目ですぞ」


「なら…こっちも真面目に仕事させてもらうぜ!」


「ほ!?」


 門番は持っていた剣をオーバンに投げ付ける。手に持っていた唯一の武器を捨てるというのは囮の為に他ならない。それでもオーバンは反射的にその剣を弾いていた。「不味い」そう感じたのは門番がホイッスルを取り出したのを見た瞬間だった。

 オーバンが門番に切り掛るのと門番がホイッスルを口にくわえたのはほぼ同時。血飛沫ちしぶきと共にホイッスルの笛の音が鳴り響く。



「申し訳ございませんアイラ様、プラン変更、強行突破でございます」


「良いねぇ、分かりやすいよー」


 内側から門を開けたアイラはオーバンと今からの行動について話し合う。とはいえ熟考する時間など無い為オーバンの指示に従う形になり、アイラもそれを良しとした。


「アイラ様には好きに暴れていただきたい。とにかくヘイトを稼いでくださいませ。それと…不服かとは存じますがリッシュ様は私と来てくださいませ。混乱に乗じて旦那様を探します。警鐘けいしょうは鳴らされましたが…まだ私が裏切った事は知れ渡っておりませぬからな。一緒に行動した方が何かと都合が良いのです」



 しかしリッシュから返事は返ってこない。思い返せば作戦が始まってこの方リッシュは一言も喋っていなかった。喋ろうとはするのだが喉が震えて声が出ない。

 温室育ちの貴族のお嬢様なのだからいざとなったら恐怖に呑まれてしまうのも無理の無い話だろう。


「アィ…ね…さま……わた…ど…したら…」


「大丈夫だよ。リッシュは私の財宝だから、リッシュなら出来るよ」


 そう言うとアイラはリッシュの顎に手を添え、優しく口を開かせた。


「…はぇ?」


「暴れないで、受け入れて」


 アイラが大きく口を開くと赤く揺らめく炎の球体が煌々と口内で輝くのが見えた。そしてその炎をリッシュに口移しで送り込む。

 熱い…が、リッシュの体内に入り込んだ熱がリッシュを焼く事は無かった。

 アイラの炎がリッシュの身体を、そして心を内側から暖める。


「お…姉さま?」


「どう?元気出た?これがフラウ婆ちゃんの血統の本来の能力だよ。私も同じ力持ってるの。私の血が馴染んだリッシュにならこれくらいの事はしてあげられる。暖かくなる能力、元気出るんだよこれ。フラウ婆ちゃんのとっておきの能力なんだー」


「元気?…うふ、うふふふふ、ええ、出ましたわ。出まくりですわ。お姉様の口付けで元気が出ない訳がありませんわ!はぁああん、頬が熱いですわー、頭が沸騰しそうですわー!確かに暖かくなりましてよー!っきゃーん!」


「ええ!?わ、私の口自体には何の効果も無いんだよ!?それ絶対違うよ!?」



母親であるアマレットの進化と退化の能力は人間との混血により生まれた突然変異による物です。

フラウの種族が本来持つ力はこの熱を呑む力になりますが…これがもたらす恩恵はまた今度、ですね。

更新遅いですが見捨てずに読んでいただけると嬉しいです。

あと感想いただけるともっと嬉しいです(強欲)

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