囚われの村人
どれだけの間担がれ、
どれだけの間眠りこけていたのだろう。
狼狽もなく、焦燥もなく、
遂には自身が攫われたというのにも関わらず
穏やかな心境であった。
目が覚めても周りは暗かった。
未だ夜中なのか、それとも昼夜逆転して夜のなり始めに
やっと意識を取り戻すことができたのかは定かではない。
暗さに目が慣れ始め、
ようやく自分が明かりの一切無い石造りの独房に
ぶち込まれていることに気付く。
誤認逮捕の時の体験の再来である。
「さ、寒い.....」
しかしあの時とは違って、
きっちりとした空調管理もタイムスケジュールもない。
窓は鉄格子によって塞がれているのみで
風は容赦なく入り込んでくる。
いつ外に出され、食事がくるのか分からない。
そもそも自分を何の目的で連れてきたのかも分からないのでは
最悪生かす気がないのかもしれない。
ただラッテを急流から助け出すことに必死で忘れていた、
衣類は部屋の隅に置いてあった。
広げて見てみると何ともみすぼらしく、
麻で作られた安物っぽさが滲み出ている。
今時の村人でも、もう少しマシなものを着ているはずなのだが.....
虐げるぞ、という意味も込めてのものだろうか
それでも何も着ていないよりかはマシなので渋々、
着用すると割と悪くない.....
ということは無く、通気性が染み入るように分かっただけだった。
吹きっ晒しの部屋には辛すぎる
「.....ですな。
日中の活動には支障が出てしまうとは」
繊維のチクチクに気を取られていると
声の近づきに警戒を解き過ぎていた。
足音もすぐそこである。
自分が目覚めていることを察知されて、無事に終わるわけがない
服を脱ぐ暇もないので
そのまま壁に正面を向けて狸寝入りを敢行することにした。
「今の様な夜であれば何ら問題もないのですがね。
影の噴出も分かり辛い。
そう考えると昼時の改善点は多く感じますねえ」
「如何にも。
ただ焦ることはない.....
成功に近い被検体が、より興味深い被検体を連れて来てくれたのだからな」
会話も歩く音も自分の部屋の前で止まった。
何となく視線を背中に感じる
「ここに来させてどれだけ経ったのだったかな、テルワー君」
「ええと、報告資料によりますと.....
二日前になっていまして、もうすぐで三日になるかと」
背後の奴の話が本当なら丸々二日寝ていたことになる。
驚きが体の動きに出てしまいそうだ
「ふむ...随分と睡眠を多く必要とする個体なのかもしれんな」
「はい、代わりに長時間の活動には耐えられないのかもしれません」
何の代わり、であるのかがとても気にかかるが
当然聞き出せる訳がない
「ところで、まだ本格的な解析に入らなくても宜しいんですか?
この個体の目覚めをいつまでもお待ちになるつもりで?」
本当は目覚めているこちらとしてはギクリとする
話題が始まった
「彼の性質が分からない以上、下手に急いて関われば
機嫌を損ねたりして想定外の行動を引き起こしかねん.....
物資の損傷、あるいは死傷者を出す恐れがある。
慎重かつ丁重な扱いが無難であろう......意思疎通が可能であるのだからな」
「データ上から、そのご判断も致し方無いように思えますが.....
どうにも、そんな怪物には思えませんな。
こんな寝坊助が」
「眠れる獅子、ということもある。 油断は禁物だ。
今の状態では十分な力は出せんだろうがね。
最悪、明後日まで寝かすとしよう」
手下らしい者の嘲笑に腹は立つが、
それよりも偉そうな奴の一言が気になった。
十分な力は出せない、だと?
「それ以上は流石に不味いでしょうな。
早くにでも叩き起こさせたいものです.....
我々の身の危険も考えなければなりますまい」
「ここの直属の指揮権は君にある。
不始末や責任問題は君しか問われないと思うが.....
さて、今度は外の様子を見るとしよう」
「ちょ、ちょっと!
そりゃあんまりですぞ!」
偉そうな奴を追って手下の足音も遠ざかっていく。
ようやく寝返りを打って天井を睨み付けると、
自身の謎を知るきっかけが向こうから転がり込んで来たことを
喜ぶべきか悩んだ。
どこだが全く検討もつかないが、
ここの組織は随分と大きいように思える。
今からどうしたものか
眉間にしわが寄るばかりでどうしようもない
すると、突然
体が浮き上がるほどの地響きが起こったのである。




